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赤い小人  作者: 加水
1/8

赤い小人(1)

 丸い顔につぶらな瞳。

 長めの耳に全身一色の服を纏っている。

 被っている煙突帽子は、服と同じ色で先がへにょりと曲がっている。

 また、二頭身か三頭身の体で動き回る彼等。

 背の丈は人の指の長さに満つるか満たないか。

 人の前に現れるのは極わずか。彼等を人は小人と呼ぶ。

 また、全身の服の色は彼等の仮の名を表している。赤なら『あか』、白なら『しろ』である。

 本当の名前は彼等自身しか知らない。知ってはいけない。

 彼等ともう二度と会えなくなりたくなければ……。




 まっさか、こんなんがいるなんて思ってなかった。

 ひょこんと俺の部屋に置いてある机の上にいるのは小さな赤い物体。

 始め、それを俺は虫かと思った。だって動いてるしっ、小さいしっ。

 だけど、先がへにょりと曲がった帽子から覗くその顔は、人に近い。

 俺のメルヘン知識に寄ればこんな形してるのは小人か妖精。けど、羽根はないから小人に決定か?

 どちらにしろ、俺の頭がおかしくなってるのは確かなことなわけで。

 寝るかな。マジで。


「あか!」


 踵を返して寝室へ向かおうとした矢先、声がした。聞きなれない声。

 振り返ると、ピンク色の物体が俺の視界に加わった。


「仕事は終わったのか? もも」


 ピンク色に抱きつかれた赤いのが言った。ように見えた。

 そうか、幻影だけでなく幻聴まで……。


「俺は今、自分がわけわかんねぇ」


 俺は独り言をぽつり。

 バッと目の前の奴らが俺を見た。視線が交差する。

 びっくりして思わず一歩後ろへ下がった。

 未だに視線が外れない。


「……見えて……る?」


 赤いのが目を見開いてポツリと呟いた。

 俺は眉を潜めた。

 見えてます。見えてますともっ!


「……おい、あんた。もしかして、さんば ゆうと。って言うんじゃないのか?」


「はっ? 何でお前が俺の名前知ってんだよ!!?」


 驚ろきのあまり思わず聞き返してしまった。

 確かに俺の名前は山波 勇徒だが。

 なんでこいつが知ってるんだ? 俺はこんな奴に会ったことはない。


「やっぱり……はぁ」


 なんでか赤いのはため息をつく。

 それを見ると怒りが込み上げてきた。知らない生意気なちびや、非現実の最中に置かれた俺の方がため息をつきたいっつーのっ!


「え!? じゃあ、やっぱり見えてるのね!?」


 ピンク色の方が叫ぶ。

 もう見なかったことにする。って方法は諦めて、俺は返事をした。


「見えてるよ。見えてる」


 こうなったら現実を突き詰めてやる! 俺の頭がおかしいのか、それともコイツらが本当に存在しているのかをっ。


「で、お前等何なわけ? 俺の幻覚。ってわけではなさそうだけど」


「僕等は小人。普段、君達には決して見えない存在」


「はっ?今まさしく見えてるじゃねぇか」


 赤い小人が一句一句説明する。まるで説明書の箇条書きでも読んでるかのような言葉を。

 だが、その言葉には明らかな矛盾がある。見えない存在なのに今はっきりくっきりと、俺に見えてることだ。


「それは、貴方がアカの運命の人だからよ!」


「運命の……ひとぉ〜?」


 俺の質問にはピンク色が答えた。じれったそうに足踏みをしながら。しかし、発言は赤いのよりも意味不明。

 思わず疑いの眼差しを向けると、頬を膨らませて対抗してくる。


「はは、運命の人なんて大げさだよ。もも。僕等小人には、世界でたった一人だけ自分を見ることができる人間がいる。という話なだけだろ」


「そんなことないわ!一人よ!たったの一人!これが運命の人でなくて何だって言うのか

しら?」


 二人の掛け合いを傍観する。

 うっとりと頬を上気させ、一人事のように呟くピンクいの。

 アカいのの説明も分かりにくいが、ピンクいののは説明にすらなっていない。と心底思った。

 とりあえずわかったことはある。それはアカいのが見える唯一の人間が俺であること。即ち、俺以外にはこいつが見えないってことだ。

 後は………。


「じゃあ、ピンクいのは何なんだ?思いっきり見えてるんだけどよ。」


 一人の人間につき一人の小人なら、俺には赤いのしか見えないはずだ。なのにピンクいのが見えてるってのは話が噛み合ってない。

 もっと簡単にわかりやすく説明してほしいものだ。


「それは、私とアカが恋人同士だからよ!」


 ズビシッと人指し指を立てポーズをとる三頭身ちびっこのピンク……。

 そんな宣言しても俺はいっこうに構わないが、その恋人やらが後ろで苦い顔してるぞ、をい。


「もものことはほっといて。実は、僕に関わった小人は見えるようになるんだ。」


「あぁ、なるほど。思いっきり抱きついてたもんな。」


 しみじみと納得。

 俺の言葉に赤いのが絶句して、更に顔全体まで紅くしている。まさに紅葉のような赤さ。全体が服含め真っ赤だ。

 ピンクは横でいやん。などと言いながら恥ずかしがっているが、赤いの程ではない。

 口をパクパクと動かすが、声が出ていない赤いのを見た方が楽しいと言うもんだ。


「……そ、そんなことより。ゆうと。あんたにお願いがある。」


 とっさにコホンと咳払い一つし、自分に戻る赤いの。俺を呼び捨てにして、更に話をずらす。

 まあ、いいか。そこまで人をおちょくる趣味はない。あっさりと話に乗ってやるか。


「願い事?」


「僕に願い事を3つして欲しい。」


 案外にお約束なもんだ。願い事を3つだなんて。しかし、なんでまたそんなことを……。

 俺の顔が物語ったらしく、ももが口を開いた。


「何故かって? 3つ願い事を叶えたら、願い事を言った人に一回だけ魔法を使っても良いことになってるの。普通は人に使っちゃいけないんだけど。」


「ふーん。その魔法とやらを使ってどうする気だ?」


 俺の問いにアカの目付きがガラリと変わる。小刻に瞳が動き、動揺が見てとれた。

 いつまでも口を開こうとしないアカに代わり、ピンクが説明する。


「そんなの簡単な話よ。貴方の記憶を消すの。私達と出会った記憶をね!」


「ふーん。」


 少し驚きはしたが、利害が一致したことがわかった。

 俺だってこんな奴らなんぞ見なかったことにしたい。奴らにしても、俺に見られなかったことにしたいらしい。


「ふーん。って何も思わないのか!?自分に魔法を使われるんだぞ!」


 アカがびっくりしたように目を見開き、叫びに近い声をあげる。


「別に。忘れさせてくれるなら願ったりだ。その条件、飲んでやるよ。」


 肩を一たんすくめ、眉を上げて見せる。どうってことない。と示すために。

 アカは『そうか。』と呟いて俺から顔を反らした。何を考えてることやら。


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