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初めての邂逅は意外な人物

 俺はいつ誰に作られたのか覚えていない。

 それでも一つ記憶から消されない記憶に根付き忘れることを許されない使命の様なものがある、それは人族との共闘。そして神を打ち滅ぼすこと。

 何故人と協力して神に挑むのかは知らないが、神と言う存在が戯れで作った二つの種族に自分たちを殺すと言う使命を与えたのだろう。

 神は複数人おりその全てを打倒する、それが俺がこなす役柄。そしてそれを成すのには魔族、人族が共闘することが必要不可欠と言う必須条件付き。

 魔族は圧倒的身体能力、潜在能力、魔力保持など他の生物に覆すことのできない力を先天的に宿して生まれてくる。がその絶対数は少なく、繁殖能力がなく唐突に湧いてくるため、故意に数を増やすことは出来ず自然に任せているため、種族間の力の均衡は数で保たれている。

 もう一つの人族は非力で脆弱。魔がつく生物以外の動物でさえ気づけば踏みつぶしてしまう程脆弱。

 非力ゆえに知力と繁殖力があり、脆弱ゆえに身を守るすべを考案し製作し、死に抗っている。そして最後にして最大級の重要事案。ごくまれに天才と言われる勇者を産み落とす。

 普通の人族同様親の腹から生まれてくる。魔族の様にどこからともなく湧く訳ではない。

 勇者は人族の中では群を抜いた力を保有する。赤子の時ですら大人を負かすほどの能力が宿ると言われている。群を抜いて才能があり能力が高くとも、種族としての基礎が低い人族では絶対的上限を打ち破ることは出来ず、魔族からすれば赤子の手をひねるがごとく容易い行いは変わりなく、判別つかない。

 脆弱な人族の天才である勇者でも貴重な戦力。

 故に勇者の生まれた時に神に立ち向かう、そう設定されていた。がいつしか記憶をなくした人族は敵を神から魔族に変更し攻めてきた。

 王は民衆を纏めようとしていたようだが、数が多く纏めきれなくなり、大頭するものが現れ収集がつかなくなってしまった。

 人族の反乱が始まったのは数百年ほど前の話、そして鎮静化された今人族に王族の血を引くものは居なくなった。


「長い間苦汁を飲ませてすまなかった、お前たちを守ることもせず死んでいった同胞には向ける顔が無いだが、ここに初代人族の王と交わした盟約を破棄し、攻勢に出ることを宣言する」


 目の前には居城である、デビルズキャッスルの広場を埋め尽くさんばかりの魔族の大群。その数、数千はおろか数万を越える大所帯。

 これだけの数が一挙に集まれば当たり前のことだが周囲の瘴気濃度は高く、人はおろか瘴気に適性の無い生物が足を踏み入れれば、皮膚から侵食しただれ表面はあっという間に腐り、徐々に内部を破壊していく。

 肺から侵入した瘴気が肺を破り、内臓もろとも体内から食い散らかし、内外から破壊されつくし数分ともたず朽ち消滅する。

 昔は魔族も少なく瘴気無いに等しい濃度しか無かった。が魔族を生産するために意図的にこの環境を作り上げ数が揃った今


「攻勢に出ることを宣言したが、人族と言う種族を絶滅させてはならぬ。奴らにも利用価値はある、絶滅させてしまえば取り返しがつかない事態も起こりえる、そのため反抗するものに限定し殺傷を許可、降伏するものには魔法を使い、降伏の意が判断できたものに限り生を与えるものとする」


 ざわめく広場の魔族ども、小声で話してはいるが批判的な発言がちらほら聞こえる。下級程度の魔族がいくら反対しようと俺の意思に抗うことは出来ない。


「正直俺は全滅でもいいと思うぜ?」

「私も色々した後殺し尽くしたいね」

「我は無用な殺生を好まないため、サタンに従うぞ」


 アザゼル、ベルゼブブ、ルシファーが横から声を発する。


 最初に言葉を発した、中年風のスーツが似合いそうなイケてるおじさんはアザゼル。

 昔から情に厚いところがあり、それ故先に矛を向けてきた人族を根絶させたいと言っている。だが冷静な部分もあり有用性を理解してさえくれれば、矛を収めてくれる頼れる存在。


 少しチャラそうな兄ちゃんがベルゼブブ。

 頭の回転も速く、アザゼルほどではないが仲間思い名面もあり、ルシファーと同じ戦闘狂の血。ルシファーとは毛色の違う狂人で戦闘を長引かせ、苦しむ姿を見るのが楽しいらしく、泥沼化や混沌を望み自身で戦闘を長引かせる節がある。


 最後に見た目糞爺のルシファー。

 戦闘狂で俺たちの中で一番強い、俺たち三人がかりでやっと抑えられるほどの力量差がある。全盛期は『鮮血の悪魔』とか言われており、見た目が老体になってかなりの年月が経つが力は今でも現役、覇気が感じないのは見た目のせいもあるが、それ以上に上手く抑え隠している。


 この三人が俺の下についている、三大将軍であり俺の友人だ。

 彼らには俺の特権は通用しない。無理やり効かせることも出来るが、友人で有り信頼できる部下を自身の思い道理に操る傀儡にしては意味がないため、対等な相手に使用しても聞かない様に制限をつけている。


「俺たちの相手は間違っても人族ではない、そのため種族を全滅させることは許さん。歯向かうもののみ対価を払って貰うこれは絶対だ」


 堕落し精進を止め、歩みを止めた彼らでも使い道はいくつか残っているはずだ、それに元は二種族連合での討伐設定、何か後々必要となるかもしれない。


「俺が全滅させたくない理由は」


「元が共闘なら、俺たち魔族のみでは対応できない可能性がある」

「アザゼルの言う可能性は確かにあるけど、それはあくまで過程。それに一人で事足りるかもしれない」


 沈黙している爺と頭の切れる二人。

 そこまで理解しているのならわざわざ反対しなくてもいいと思うのだが? これも一つの演出で、彼らなりに気を利かせているのかもしれない


「ベルゼブブ必要数が分からず、必要なのかもわからない存在を生かすのは確かに意味は無いかもしれない。が必要だった時に取り返しがつかなくなる、そのため一定数確保する必要がある」


「といっても剣を向けてくる奴とは共闘できないためふるいにかけると?」


「そう言うことだ」


「数匹残しておけば、繁殖なんて簡単じゃ?」


「確かにそうだが、繁殖にも年月がかかる。それに今年は勇者がいる、この機を逃せば勇者が生まれるまで待つのは時間がかかる、それまで待つのは色々と面倒だ、それに裏切られたところで痛くもかゆくもないが自殺され全滅されると困るため協力の意思のある数が必要。それに勇者の力は何かと役立つ」


 勇者は初めから設定されていた役職ではないため、おそらく居なくても支障なく物事は進む。進むが彼らがいれば助かる部分も多大にあるはずだ。

 神との戦いはこれが最初で最後と覚悟して居た方が良い。半壊して逃げ戻ってきたとして復興までにどれほど時間がかかる? 俺たちは無限に等しい時を生きられるが次の機会まで生きているという保証はなく、戦力を整えられるかも分からない。

 不安要素は極力消しつつ最善を尽くすべきだ。


「お前の心配性は今に始まったことじゃないか」

「今回はサタンの言うとおりにしますか」

「話が纏まったなら、広場のものらに次の話を」


 舞台上でぐだぐだ話している様を見せつけてしまったが、広場に集結した魔族は皆羨望の眼差しで見て居る。

 先程全滅がどうのと言っていたであろう、下級魔族も黙りこちらを見つめている。三人の様な腕利きに育つとは思えないが、下っ端でも傀儡より戦士が要る方が役に立つ。

 おそらくアザゼルの目的はこれだったのだろう。


「再度通達する。反抗しない人に危害を加えることを禁ずる、これは最重要遵守事項である。次に皆には班分けをして貰う。攻勢と言っても当たり前だが選別の意味も兼ねているため魔族総出で初陣を飾る訳じゃない。いつもどおり魔窟で戦力補充の部隊。我らと一緒に人族の町に攻め込む部隊。後この城を守る兵に分かれる」


 種族を根絶させるなら総出で行った方が楽だが、下級魔族に人の選別が出来るとは思えない。それに彼等の使える魔法は数も質も知れている。


「魔族が総出で攻めれば対話も出来ない。友好的に思っている人間がいても反射的に剣を取りかねない。後はどの程度人が魔族を敵視しているかの視察も兼少数で向かう」


 実際のところどの程度人族が魔族を敵視しているのか明確には分かっていない。実態を把握すれば攻め方を変えることが出来る。その間手持無沙汰を遊ばせておく余力はないため、働いてもらう。


「といった理由から敵対行動があるかの調査や判断が必要、それが出来てからでも遅くないだろ? 先程も言ったが魔法を使用し相手の本心を破るため降伏しても殺すものは出る、その時はお前たち留守組にも機会を与えよう」


 アザゼルのおかげで小声でも反対する下級魔族は居なかったが、一応伝えることを伝え話が纏まったため班決めをする。


「班分けだがいつもの様にアモンは城を守ってくれ、フルフルは魔窟向かって食料と仲間となりえるものの確保、最後に隠密だが……ティアマトに頼む部隊編成は各々好きに見繕ってくれ。隊に任命されなかったものは訓練や勉強に励め」



 魔窟

 魔界の周囲を覆う形で広がる魔獣の住処。木々は腐り辺りは日中でも暗く、濃度の高い瘴気は紫や、黒色をつけ周囲を覆う。

 かつては魔界より瘴気が多かったが、今では魔界の方が質も量も優れている。



 分担自体は今まで道理で変わりがあるとすると、ティアマトの隊くらいだが先程の様に小声での批判の声が上がらない。血気盛んな魔族が騒がない辺り、アザゼルとの会話はがしっかり頭に入っているということだ。

 そのことからも分かるように、魔族にも勉強や訓練で見に着くことがある。

 鍛錬を怠り知恵を磨かなければ足元をすくわれる。微々たる可能性だとしても不安要素は消すに限る。


「了解」

「ふぃ~」

「分かりましたわ!」


 アモンは精霊と仲の良い武人、見た目を炎の化身に変化させたりすることのできる魔族だが、精霊と仲良くするうちに精霊の力を授けてもらえた稀有な存在。普段は口数少ない大柄な男。


 フルフルはちょっとノリが軽いが、彼我の力量差を見極める瞳を持ち、強者を敬う彼の態度から分かりづらいが、一応敬っている。

 何より交渉というか勧誘が上手い。彼がいないと傘下の魔獣の数はもっと少なかった。知性の無い魔獣は基本食用だが、知性のある魔獣は仲間に引き入れている。もちろん知性の無い魔獣も使いようはあるため少数だが仲間にいる。


 ティアマトは希少な黒魔術師、隠密や索敵が優れ主に諜報や暗殺などが得意。魔族は生殖能力がないため基本的には男が多いが彼女は珍しく女である。性別による力の差は特にない。


「ティアマト誰か連れて行くか? 連れて行く者の選定があるなら待つが?」


「いえ、魔王様及び三大将軍様をお待たせする訳には」


「構わん」

「少しくらい待つのに何も支障ない」

「ゆっくり決めてくれていいよ」

「我はさっさと行きたいが……行ったところで戦闘があるか分からぬか、なら多少の遅れぐらい構わんぞ」


「では私の部隊以外に数名お呼びするので少しお待ち下さい」


 ティアマトに限らずフルフルもアモン等中級上級魔族は自身の眷族に近い部下が複数名いる。

基本は自身の部隊の者で行動するが、部隊以外のやつを連れて行くって事は掘り出し者を見つけたということだ。

 掘り出し物は見つけにくいが偶然でも見つかったのなら、その力量を計るのにうってつけなのは実践。失敗が許される実践では意味がない。


「お待たせしました」


「うむ」


 連れてきたのはフードを深くかぶった二人の小柄な子供、あと黒ずくめに包まれた彼女の部隊の連中。

 子供と言うのは少し興味がある、なにせ魔族にも年齢がある。十数年で戦闘に適した身体は出来上がり、数百年経てば自身のスタイルに特化するよう色々発達する。

子供の姿で実践を経験するのは少ない。特にティアマトの部隊なら尚更。これは期待できる新人か?


「皆いるな? では行くぞ」


【ゲード最果ての地アステル】



 アステル

 この町は人が住む国の最南端に位置し、魔界と呼ばれる我ら魔族の住んでいる土地から一番遠い場所であり、戦闘を知らない平和ボケした町。



 呪文を唱えると足元に大きな魔法陣が描き出され俺の識別した仲間が光に包まれる。直ぐに光は消え去り周囲の風景は一変し木々が覆い茂る森に移動した。


「周囲に人影無し」

「我らの展開していた魔法、健在」

「索敵範囲内に敵対意識者存在せず」

「前方に百メートルの位置に生命体発見数三うち二は獣です」

「前方二キロの位置に町発見」

「後方四百メートルの位置に建物複数集落かと思われます」


 次々に列挙し始める周囲の索敵の言葉に幾つか気になる項目が上がる。

 一つは後方にある集落。これは開拓民と考えれば筋はとおりそうだが、開拓するなら町の方から開拓すれば面倒が減る。そうしないのは何かわけでもあるのか?

 次に獣。ただの獣なら気にしなくてもいい。が後方の集落と同じく何か引っかかる。まさかとは思うが魔獣か? だが魔獣は魔窟にのみ生息する。知性の有無関係なく魔窟でしかまともに生命活動が行えない。その彼らがこれほど遠くに来ることは無い。

 普通に考えれば。

 そして最後は獣と一緒にいると言う一つの生命体。これは獣に襲われた人と考えて問題ないと思うが……もし魔獣なら何故そんな存在の近くにいるのだろう?

 いくら考えても結局見ないと分からない。狩人が二匹の獣に襲われているだけかもしれないし……


「再索敵、その三つの生命体の近くに存在する他の生命反応」


「再索敵。生命反応三つ以外に存在認められず」

「周囲を拡大、結果は同じく反応なし」

「反応、町に多数及び集落に少数以外なし」

「森の中に存在は認められません」


 再度の索敵に反応を示した生命体はくだんの三つのみ、という答えが出た。

なら俺たちの転移を察知しての罠か? だが魔法は種類を問わず人には習得不可能のはず。それにティアマトの部下が言っていた魔法の健在が事実だとすると、こちらの魔法を看破することになる。それこそ転移の察知以上に高度な索敵が必要だ。他の可能性としては転移先を予想しており事前に知っていた。

 だがこれらも現実味のない仮説だ。最後に有力なのは勇者など特別な存在が魔法を習得することが可能らしいが、彼らによる我ら魔族の索敵に引っかからないほどの高度な隠密魔法。仮にその魔法が現実だとすれば……


「それは無いかと」


 幾つかの仮説を立てどの可能性が高いか判断しようとする前に、横からつぶやくのはティアマト。俺自身人に魔族を上回る魔法が行使できるとは思っていないし、彼女の部下を疑った訳ではないが、人は魔法を阻害する兵器や、魔法を感知する機械や、魔法を無力化する機械、などの開発は奴らの専売特許。

 それを行使されればここで俺たちは全員消し炭になる可能性だってある。その危険性を鑑みてもティアマトが断言したのなら確実にこれは罠ではない。


「なら助けてみるか」


 ティアマトの事を全面的に信頼している……と言ったら上に立つものとして失格かもしれないが、下のもの。それも信頼を置ける仲間が言う事を信じれないなら何を信じればいいのだという話だ。

 と言う感情論とは別に彼女や彼女の部下は希少な黒魔術遣い。それに彼女は優秀だ、彼女をも欺くような術を持っているのならどの道敗れる。


「正気か? 何て聞くのは野暮だな」

「ここに来た目的がそれでもある訳ですし……」

「我も構わん、どの道血を浴びることになる」


「なら行くかどうせすぐだし」


 百メートル歩いて行ってもいいけど森を歩くのは汚れるし、疲れるし面倒なので短期移動用の魔法を起動する。


【ワープ】


 ゲートと同じく足元に光の輪が広がる。ゲートとの違いは頭で場所を思い浮かべなくていい所。

 ゲートの場合は距離制限がない代わりに飛びたい場所を明確にイメージしなくてはならない。言葉に出すことで似た場所に飛ぶことも出来るがあくまで補助。補助にのみ頼った場合全くの別の場所に行く可能性がある。

 それに比べワープは最大移動距離が決まっており、長距離移動できないが、方角と距離を数値として頭で想像するだけで移動できる。


「キャッ」


「ガルゥウ?」「グルぅル」


「まさかまだあの実験が繰り返されているのかと思ったがそのまさかとは……」


 眼前には薄汚れたぼろきれを身に纏い、頭を隠すようにフードをめぶかに被る少年と、二匹の犬。

 少年の方はフードの上からでも分かるほど大きな耳が目を引く獣人だ。

最後まで読んでくださった方ありがとうございます。

この作品だけでなく、短編も合間に投稿していくので完結は気長に待ってください。


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