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耐え難い生活《トイレ》

 

「まぁ、言いたいことはわかった。でもな……」


 まだカズヤは何か言いたそうだったが、


「お部屋の準備が出来ましたよ」


 少女が呼びに来た。

 いつの間にか日は落ちて、食事の際に持って来てくれたロウソクも短くなっている。


「続きの話は、また明日にしようか」

「そうね」


 時間は500年もあるなら、1日、2日など誤差だろう。


 そう思って席を立つと、少女に連れられて2階へ上がる階段を登る。


 しかし……階段が急だ。そう言えば、この町の建物はやたらと狭い土地に上に階を作ってる家が多い。


 町の周りはまだ見てはいないが、こんなにキツキツに建てる必要あるのか?と思ってしまう。



「こちらです」


 少女に連れて来られた部屋を見て……落胆してしまう。

 食事からある程度の覚悟をしていたのだが、予想より酷かった。


 と言うより、寝台が一つしか無いんですけど?!

 なに、おっさんと一緒に寝ろってか?


「ねぇ、一つしか無いのは気のせい?」

「すいません。うちは空き部屋に旅の方を泊めてるだけなので、他に寝台はないんですよ」


 おい! 宿屋の定義! 一部屋だけしかないとか、それは、宿屋を名乗って良いのか?


「それに、叔父と姪でしたら大丈夫ですよね?」


 ぐぅ……まさか、適当に言った嘘が、こんな形で返ってくるとは。しかし、無いならゴネても意味が無いか。

 今から他を探そうにも、右の左もわからない。


 そう思って諦めようとした時、


「なぁ、明日市場に連れてってくれないか?」


 カズヤが少女に言った。

 市場? 何を買うんだろ?


「流石にこの服だと目立ちすぎるから、服を買いたいんだ」

「良いですよ。私も買い物行きますから、その時で良ければ」



「あ、それならついでに両替商とやらもお願い」


 金貨を渡した時の、この子の反応が怪しいのよね。


「えっ……両替商に行かれるんですか?」


 やっぱり……何から挙動が怪しい。この国のお金でも無いのにあっさり受け取った時点で、変だと思ったのよね。


「別に、今日渡した分を返せなんて言わないわよ。でも、明日からは渡した金貨の価値通りで払うからね。

 お金に困っては無いけど、騙されてるのは嫌なのよ」


 まぁ、明日以降も泊まるとは限らないけどが、一応言っておこう。

 ぶっちゃけ、もう少しマシな宿があったら移りたい。



「いや、私は両替商では無いので、私が損をしているかもですよ?」

 灯りがロウソクの火だけなので良くみえないが、変な汗をかいているように見える。


「他に買い物するにも、どちらにしてもお金はいるのよ」

 そう言うと、少女は諦めたように去っていった。やっぱり金貨の価値は泊まる値段に釣り合ってないのね。



 危ないから寝る前にロウソクは消してくれと、小さなテーブルの上に少女が置いていったロウソクだけが、部屋の灯りだ。



「はぁ〜、なんだが色々辛いわ……と、トイレの場所聞き忘れた」


 ロウソクを持っていくと、部屋が真っ暗になるが、魔法の光源を見せると大騒ぎされて面倒な予感がする。


「とりあえず聞いてくるわ」


 この部屋の分の光源として、魔法で光の玉を作って適当に浮かせると、ロウソクを片手に部屋を出て階段を降りた。



 少女は先程の部屋で食器を重ねて運ぶところだった。

 ロウソクの光だけで、うろうろ探し回らなくて助かった。



「あら? どうかされました?」

「トイレは何処?」

「トイレ?」


 おや? 言葉が通じないのか? イメージがそのまま言葉になっている筈だから、通じるはずなのだが、何故?


「トイレよ、トイレ」


 やっぱり通じないらしく首を傾げられてしまう。


「もう、おしっこしたいの」


 言わせるなよ! 流石にこれなら通じるだろ。別世界とはいえ、排泄をしないとは思えない。


「あぁ」


 良かった。やっと通じたか……

 しかし、何故トイレが通じない? 魔法を使っているから、イメージと同じ意味の言葉に置き換わって聞こえている筈なんだけどなぁ。


「それでしたら、外に出て脇道で済ませて下さい」

 笑顔で少女が何か言った。


 今なんて言ったのかな?

 いや、きっと聞き間違いだろう。まさかね?


「脇道って……外?」

「はい。足が汚れないように気をつけて下さいね」


 笑顔で言われてしまった。


 なんて事でしょう……トイレはありませんでした。

 なるほど通じない訳です。

 町を歩いていた時から感じていた悪臭も納得です。


 って、待てい!


「ほ、他の家も……そ、そうやって済ませてるのかな?」


 ま、まさかね? 違うよね? この宿が変なだけよね?

 お願いします……そう言ってください。


「貴族様だと、おまるを使ったりしてますが、結局捨てるのはその辺にですよ?」



 ……終わった。

 こんな世界で500年とか無理です。


 女神様……殺したりしませんし、魔王代行も頑張ります。何を目的にやってるかは知りませんが、勇者の相手もちゃんとするから、私を戻してぇぇ!!



「だ、大丈夫ですか? 暗いのが怖いのでしたら一緒について行きましょうか?」

「大丈夫です」


 いや、見られながら道端でとか、もっと無理だから。


 我慢しようかと思ったが……生理現象はどうしようもない。諦めて脇道に入るとすぐにわかった。臭いで!

 本当に皆ここでしてるのね……。



 置かれた状況に涙が出そうになるが、それ以上に臭いのせいで吐き気がこみ上げてくる。

 それに耐えながら、用をたしてから部屋に戻った。



「トイレ何処だった?」


 カズヤ……いや、なんだか、おっさんを通り越してエロ親父に見えてくる。こいつ、もしかして知ってたんじゃ無いのか?


「……無かったわよ」

「やっぱりか」


「知ってたの? ねぇ、知ってたの?!」

「いや、下水とか時代的に無い気がしたし……臭いでな」


 ぐぬぬ……八つ当たりで殺すか? もう誰かに八つ当たりでもしなきゃ気が済まない。


「でも、あっちの世界はなんかトイレあったけど、どう言う仕組みだったんだろうな」

「仕組みってなんの話?」


 トイレはトイレでしょ? 勇者様はトイレ行かなかったの?


「いや、水洗じゃないから汲み取りなんだろうなと思ってたんだが……それにしては臭いも無いし、汲み取りしている人も見なかったなぁとおもってさ」


 水洗? 汲み取り? なんの話をしているのかさっぱりわからない。


「なんの話をしてるのよ。トイレなんてスライム使ってるに決まってるじゃない」

「はぁ? す、スライム?」


 何故そんなに驚くんだろうか?



「そうよ、なんでも食べるからね。それは人間の町でも一緒だったはずだけど?」

「そ、そっか……スライム、役に立ってたんだな」


「魔物は、色々と生活の役に立ってるのよ。あんた達勇者は、お構い無しに殺して回るけどね」

「す、すまん……」


 なんだか落ち込んでしまった。

 とりあえず、苛めるのはこの位にしておこう。



「まぁ、それはどうでもいいわ。それよりも、さっさと町を作るわよ! アキハバラにするのは後でも良いけど、こんな毎日嫌よ」

「いや、それなんだけど……派手な事すると、秋葉原が無くなるかもだぞ?」



 は? 無くなる?


「どう言う意味よ? 500年後に出来るんしゃないの?」

「変な事をしなければな」

 そう言うカズヤは、何やら難しい顔をしていた。


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