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自己紹介しようか《食事》

 

 とりあえず、落ち着いておっさんの話を整理しよう。


「ここはおっさんが居た世界」

「はぁ。おっさんって呼ばれ方が気になるが……まぁ、そうだ」


 何か不満そうだか、今は無視だ。


「で……地面が丸いかは置いとくとして、おっさんの居た場所からはかなり遠い」

「そうだ」


「仮にそこに着いても、後500年待たないとアキハバラは無い」

「うん、その通りだ」



 …………。




「で、アキハバラ何処よ」

「だから、無いっつってんだろ!」


「やかぁしぃ! じゃぁ、私は何の為にわざわざ死んでまでこっちに来たってのよ!」

「俺に言うなよ、女神に言えよ」


 くそ、あの女神……よりによって場所はともかく、500年前ってなによ!

 今度会ったらただじゃおかない。どうやったら会えるのかは知らないけど……。


「って言うか、500年くらい生きてられるんじゃないのか?」

「500年も待てるかい!」


 おっさんは、なんで大阪弁なんだよとかぶつくさ言ってるが、大阪弁を話す勇者の手伝いをしている時にうつっただけだ。


 と言うより、そんな事はどうでも良い。


 今から500年間待てと言われても、その間が暇すぎる。

 ぶっちゃけ待ってられない。こんな良くわからない所でただ待つだけなら、自分の部屋でマンガを描いてた方がましだ。



 そんな事を考えていると先程の少女が何やら持って部屋に入って来た。

 どうやら食事のようだ。


「もう言葉、戻していい?」


 使う言葉を切り替えないと、少女が何を話しているのかもわからない。


「あぁ、いいけど変な事言うなよ?」


 地面が丸いなどと言う男に言われたくはない。


「食事持ってきました」


 やっぱり食事だった。

 言葉を戻してないと食べていいのか悩むところだ。



 と思ったが、少女がテーブルに置いた物を見て固まる。

 黒いパンが数切れに、チーズに、具がほとんど無いスープと、得体の知れない濁った飲み物。


 それだけだった。

 肉も魚もない。と言うか、海が近いのに魚とか無いの?



 流石に文句を言おうと少女の顔を見たが、ニコニコしている。


 まさか……これが普通なのか? おっさんを見ると、ウンウンと頷いている。


「あ、ありがとう」

 顔が引き攣りそうになりながら少女に言うと、


「いえいえ、金貨を頂いていますからスープもお付けしました。あ、食器は置いといて下さい。後でお部屋に案内しますね」


 そう言うと去っていってしまった。



「……ねぇ、これが普通なの?」

 目の前に並べられた質素な食事を見ながら言った。


「多分、そうだと思う」


 当たり前の様にパンを食べだすおっさん。なんだか酸っぱいなと言いながらも食べている。


 酸っぱいパン?

 どれどれ……パンに手を伸ばし口に頬張る。


 うん。

 素晴らしい歯ごたえに、固すぎて顎が鍛えられそうだ。

 この強い酸味も鼻にツンと来て味覚だけでなく、嗅覚でも味わえてしまう。


 固くて飲み込むのも辛いパンに思わず、飲み物をぐびっと呑む。


 うん、このなんとも言えない苦味に、ドロッとやたらと絡みつく喉越し……


 って、不味いんじゃー!!


「何なのよ、これは! あんたら、美味しい物いっぱい持って来てたじゃん!」

「あんたらってのは勇者達の事か?」


「そうよ! 米に、醤油に、味噌に、卵かけご飯に!」

「味噌だけ仲間はずれだな」


 ん? そう言えばそうだな。って、違う!


「そうじゃない! あんた達の世界は食べ物が美味しいんじゃなかったの?」

「ん〜、それは……500年後の話な」


 またそれか!


「はぁぁ……もう帰りたい。これじゃぁ、あんた達勇者が来る前と変わらないじゃない」

「やっぱり、勇者が来る前はこんな感じだったのか?」


 そうか。こいつは、私らの世界の昔を知らないのか。

 テーブルに項垂れながら答える。


「まぁ、パンとかは……すっごく、懐かしい感じがしないでもないけど、それでも肉も魚も卵も食べてたわよ」

「魔王の娘だし、そうかもな。でも、普通の人達はこんな感じだったんじゃないのか?」


 普通の人間の暮らしなんて知らないわよ。手伝いに行っても、勇者御一行様だから、お金は困らなかったし。


 美味しそうでは無いが、おっさんは話しながらもパンにチーズをのせて食べている。


「食べないなら貰っていいか?」

「嫌よ!」


 気は進まないが、なんだか取られるのも嫌なので我慢してチーズを口にする。


 ん? チーズは癖があるけど、普通にチーズね。


「しかし、なんであんたそんな落ち着いてんのよ? 元の場所に戻れなかったのに」


 そう聞くと、おっさんは悩み出した。


「ん〜、召喚されてしばらくは農村暮しだったから、こんな感じだったし……戻っても家族がいる訳でも無いからなぁ」

「なんだか、寂しい話ね」


 そう言うと、苦笑された。


「流石にいきなり召喚されて10年だからなぁ。友達も連絡つかないし、会社は首だろうし……ま、生きてれば何処でもあまり変わらないだろ?」


 どんだけ覇気の無い勇者よ。その辺りの村人でも、まだ夢だの持ってそうだわ。


「はぁ、わかったわ。とりあえず、私はアキハバラを作る! あんたはそれを手伝いなさい」

「はぁ? 秋葉原を作るって何言い出すんだ?」


 驚いた顔をされたが、どうせ500年暇なのだ。

 なら、アキハバラらしいものを作ってしまえば良い。

 少なくとも、食事だの娯楽だのは何とかしないと、待つとしても辛い。


「どうせする事も無いんでしょ、手伝いなさいよ」


 そう言うとおっさんは、やたらと大きなため息を付いてから


「内政チートみたいな知識も無いけどな……。

 とりあえず、名前を教えてくれ。俺は、松永一也。カズヤで良い」

 そう言いながら、手を差し出して来た。


「マツナガ……が姓だっけ? 私はカティア。姓なんて無いわよ」

 そう応えながら、おっさん……カズヤの手を握った。


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