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アキハバラは何処よ!《宿屋》

 

 宿屋に着くと、寝る場所を用意してくると言って少女は奥に消えてしまった。

 ちなみに宿屋と言っても、何人も泊まれるような建物では無い。見た感じは普通の家だ。


 待っていろと言われたこの部屋も、6人くらいが座れる程度のテーブルがあるだけの……普通の部屋だった。


「ЙЩМИП」


 向かいに座るおっさんが話し掛けて来るが、言葉がわからない。何故ここで違う言葉を話し始めたのかは謎だが、魔法を使い直して、おっさんと言葉を合わせる。


 この魔獣用の魔法だが、頭に浮かべるイメージに合うように言葉を切り替える魔法なので、言葉が変わる度に使い直す必要があるのだ。


「聞いてるか?」


 って、私たちの世界の言葉か!

 自分の使える言葉なら、魔法を切れば済むのに、わざわざ魔法掛けちゃったじゃない。


「ちょっと! あんたのチートはどうか知らないけど、私の魔法は複数の言語は扱えないのよ。ころころ話す言葉を変えないでよね」


「あぁ、済まない……ちょっと聞かれない方が良いと思ってな」

「……なによ? まさか、さっきの子に悪戯でもするつもり?」


 聞かれたくない話が他に浮かばす、まさかと思いながらも聞いてみる。もちろん、気持ち悪いので少し後ろに椅子を引いてだ。


「するか! するなら、わざわざいう必要も無いし」

「言わずにする気なの? 私になにかしたら、本当に殺すわよ?」


 更に椅子を引きながら……既に椅子は壁に当たっているので、身体を後ろに引きながら言った。


 あの少女がどうなろうと気にはしないが、その様な事を企む男の側には居たくない。


 私に何かするつもりなら速攻で殺す。殺そう。うん、何かする前に殺してしまおう。


「いや、ちげーって! この世界の話だよ」


 どうやら、違う話らしい。普段から信用が無いからいけないんだ。

 会ったのはついさっきだけど。


 とりあえず、椅子を元のテーブルの傍に戻しながら尋ねる。


「この世界の事わかったの?」


「あぁ、俺も詳しくないから断言は出来ないが……ここは俺が元いた世界だけど、場所と時間が違う」


「場所はリスボンよね? アキハバラからは遠いの?」


 大事なのはそこだ。場所が違うなら行けば済む。

 問題は、アキハバラはどっちなのだ?

 今のところ、ここがリスボンと言う場所である事しかわからない。


「秋葉原は……地球の裏だな」

「裏? 裏って何? アキハバラは裏にあるの?」


 私は行ったことは無いけど、地面の裏にあるの? 落ちないの?


 床を見ながら聞くと、驚きの言葉が返ってきた。


「世界は丸いんだぞ?」

「……はぁ?」


 何を言ってるの? 丸い?

 おっさんの顔から目を離して、再び床を見るがやっぱり平らだ。いや、見直したりしなくても、床も地面も平らだ。



 可哀想なこの男はどうやら混乱しているらしい。

 いや、気持ちはわかるよ? 聖地に戻れると思ったら、違う場所に飛ばされたんだから……私もこの場所に混乱しているしね。


 だけど、地面が丸いとか混乱するにも程がある。



「何言ってんの、あんた……頭、大丈夫?」


 冗談かも知れないので、つっこんであげたら、おっさんは困ったような顔になった。

 困るくらいなら、訳の分からない事なんて言わなきゃ良いのに。


「まぁ、それは良い。とりあえず……秋葉原は、凄い遠いんだ」


 おい! 地面の話はどうなった!

 いくら困ったからと言っても自分の発言には責任を持て。

 まぁ、変な話に付き合わされるよりはマシか。



「って事は、移動手段が必要って訳ね……持って来た金貨で馬車でも買う?」


 リスボンからアキハバラが遠いなら、徒歩と言う訳にも行かないだろう。


 どれくらい遠いのかはわからないけど、このおっさんは人の国から魔王の国にある魔王城まで来たのだ。

 確か馬車で真っ直ぐ向かっても、1年くらいは掛かった気がする。


「あ〜、何を考えているのかわかる気がするが……馬車だと何年掛かるかわからないぞ? と言うか、多分無理だ」

「何年も? 随分、この世界は広いのね」


 元の世界の人の国と、魔族の国は大地の反対側にある。

 その周りは海があるだけだ。

 それよりも広いとは、流石に聖地¨アキハバラ¨がある世界だ。



「ん〜……この世界が広いと言うか……いや、これは話が脱線するな、置いておこう。重要なのはそこじゃない」


 畏まった表情になったおっさんが、何やらテーブルに身を乗り出してくる。

 釣られて私も少し身を乗り出してしまう。


「あのな……」

「うん」


「……秋葉原は、どこにもない」

「……」


「はぁ?! 今なんつった! アキハバラが無かったら、あんたは何処から来たのよ!」


 おっさんの胸ぐらを掴み問い詰める。

 わざわざ殺されてまで来たと言うのに、アキハバラが無いだと?



 物音を聞きつけたのか、驚いた表情の少女が部屋に飛び込んで来た。


「ЙМЩП!」

「ЙПШИ……ЩЙПМЙЩКМ」


 あ〜もう! またこっちの言葉か! ころころと忙しい!


 だが、言葉を切り替える前に少女は頷いて、何故か私に抱きついたかと思うと、背中をトントンとされてしまった。



「何を言ったのよ」


 少女が部屋から去った後で、おっさんに尋ねる。


 おっさんが少女に何かを言ったのはわかったが、言葉を切り替える前だったので、何を言ったのかはわからなかったのだ。


「故郷の事で興奮しただけだと言ったんだよ」

「……そうね。私の心の故郷の話だからね」


 おっさんが何か言いたげな顔を見せるが、知ったことではない。こちとら、命を掛けて来ているんだ。


「と言うより、遠いって言ったのに無いってどう言う意味よ」


「う〜ん……秋葉原と言う場所はあるかも知れないけど、行きたがっている秋葉原とは別物なんだ」

「んん? 訳がわからないんですけど?」


 おっさんがため息をついた。

 いったい、なんなのよ……さっきから意味がわからないんだけど?


「ここは、俺が元いた世界の……多分、500年くらい昔だ」


「……ちょっと待って! 500年?!」

「落ち着けって。正確には知らないけど、それくらい昔の世界に戻されたっぽいんだ」


 地面の裏側で、500年前? もう何がなんだかさっぱりだ。

 なんだ? 私は500年間旅をして、裏側にある聖地アキハバラに向かえばいいのか?


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