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違いに戸惑う《服装》

 

「だ、大丈夫ですか?!」

 へたり込んだおっさんに驚いて、少女が声を掛ける。


「まさか……ここは……」

 何やら呟いている。


「リスボンでしょ? さっき教えて貰ったじゃない」


 まだ中年くらいにしか見えないが、既にボケ始めたか?


「あ、あの……具合いが悪いのでしたら、うちに来ますか?」


 少女がおっさんを心配してだろうが、女の子が会ったばかりのおっさんを家に上げるの?

 流石にそれはお人好しを通り越して、警戒心が無さすぎるんじゃ?

 それともこの世界には貞操観念は無いのかな?


「会ったばかりの人を家に上げるのは、止めた方がいいわよ?」


 とりあえず一応注意しておこう。余り男を軽々しく信用するものじゃない。なんせ、大抵の勇者はハーレム作るしね。


「あ、すいません。そうではなくて、うち宿屋なんです」


 客引きか!! 貞操の心配をした私が馬鹿だったわ。


「ちょっと荷物取って来るので、そしたらお送りしますね」


 そう言うと、少女は近くにあったレンガ造りの倉庫に入っていった。




 まだ泊まるとも答えていないのだが、少女の中では決定事項なのだろうか?


「泊めてもらう?」


 とりあえず、行くアテも無さそうだか念の為に意見を聞いてみる。


「あぁ……もう少し情報が欲しいからな」


 何やら神妙な顔をしておっさんが呟いた。

 やっぱり他にアテは無いのか。


 しかし……ふむ。そういう顔をしていると、ちょっと勇者っぽくていいかもね。


「泊めてもらうのは良いとして……おっちゃん、この国のお金とか……は、持ってるわけないよね」


 なんせ、おっさんも飛ばされて来たばかりだから、手持ちは宝物庫の中身だけの筈だ。


「おっちゃん……おっさんと、おっちゃんが混ざるな、お前」

「お前、言うな!」


 へたり込んだままのおっさんを蹴飛ばしたら、仰向けにひっくり返ってしまった。


 って言うか、人をおまえ呼ばわりすんな!

 ちょっとカッコよかったから、おっちゃんにしようかと思ったが、やっぱりおっさんで良い。


「す、すまん。でも、お金は、金貨なりを交換してくれる店があるはずだぞ……銀行なのか両替商なのか、詳しくわからないけどな」


 おっさんが起き上がりながら、お金に関して案がありそうな事を口にする。


「ん? なんだか、やたらと詳しいじゃない。知らない場所じゃなかったの?」


「あ〜、知ってるような、知らないような……」

 なんだか、煮え切らない返事だ。



「お待たせしました」


 そこに少女が帰って来る。

 荷物を取りに行ったようだが、手に持ったカゴ以外は増えていなかった。わざわざ、このカゴを取りに来たのか?


「申し訳ないんだが、この国のお金が無いんだ。何処かお金を交換してくれる場所を教えてくれないか?」


「両替商……ですか?」

 おっさんの言葉に少女が少し困った顔になった。


 お金が無いのを心配してるのかな? と思ったが、そうでは無かった。


「数年前に、両替商をしているユダ……新キリスト教の方々が居なくなったので、数は少ないのですが……」


 どうも何か気にしている風に、少女は言い淀む。


「あ〜、俺たちは違うから気にしなくて良いぞ」

「良かったです。同胞の方だったら、お気を悪くするかと思って」

 少女がおっさんの返事で安堵の表情を見せるが、何のことかわからない。


「ねぇ、なんの話?」

「ん〜、両替商が追放されたか、なんかだったと思うんだが、俺たちが同じ仲間かわからないから気を使ったんだよ」


 両替商の仲間は確かに居ないけど……両替商が居なくなったら、不便じゃないのかな?

 まぁ、今はそんな事よりも……


「困ったわね。泊めてもらうにも、この国のお金が無いんじゃ払いようが無いし」

「おふたりのお国のお金はあるのでしょうか?」


 少女の言葉に、袋から向こうの世界の金貨を取り出して渡した。


「き、金貨ですか! こ、これは……金ですよね?!」


 少女が、やたらと驚いた顔を見せる。

 金貨なんだから金なのは当たり前だろうと思うのだが、少女は食い入るようにひっくり返しながら見ていた。


「と、と、とりあえず、今晩のお代はこれで充分でしゅ!」


 少女が裏返った声で良いと言うので、今晩は少女の宿屋に泊めて貰うことにした。

 しかし、なんだか反応が怪しい。とはいえ、この国のお金が無いどころか、相場すらわからないから指摘のしょうもない。


 金貨を懐にしまいながら、やたらとニヤつく少女に連れられて二人は少女の宿屋へと向かった。




「なんだか……やたらと周りから見られてるんだけど」

 町ですれ違う人が立ち止まり、振り返ってこちらに視線を向けてくる。


「それは、おふたりともこの辺りでは珍しい格好をされてますから」


 少女が理由を教えてくれた。

 その言葉に周囲を見ると、顔立ちも違うが確かに服装が違う。



 男性は、上半身はカミーチャ(シャツ)の上に、ジュベット(胴衣)を身にまとい、

 下半身はブレー(ぴったりとしたズボン)を履いているが、その上から左右で色違いのショースやカルツェ(長靴下)を重ねている人もいた。


 一方、女性は、ゴンネッラ(長めのワンピース)を身に付ける者が多く、胸元が大きく開いており、尚且つ、腰周りが絞ってあるので、やたらと胸を強調している印象を受ける。

 髪はリボンでひっつめ髪をまとめていたり、色々な被り物をしていたり様々だ。


 貧富の差なのか、服の素材や派手さは人によって差があるが……明らかに言えるのは、私達の服装とは異なる。



 私達の服装といえば……特に私はピンクのメイド服なので、確かに目立つ気がした。




 だが、そんな周囲の服装を見ながら、私は、なんだか、昔の服装に似てるかも? と思っていた。


 異世界から召喚されて来た勇者達が持ち込んだ文化に毒されて、今では殆ど見られなくなっていたが、その前は確かこんな服装だった。


 そう考えたら勇者達って他所の世界を随分変えちゃってるんだなぁ、などと思いながら歩いていた。


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