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秋葉原を目指して送還されます

 

「凄いな……全部入った」

 魔法の袋ふたつに、宝物庫にあったものは全て入った。


 床には、いくつかの袋が転がっているだけだ。

 魔法の袋に、魔法の袋は入れられないのだ。


「はい。これもかけといて」

 そう言いながら、私は袋を拾うとおっちゃんの首から掛けた。


 これも何かの役に立つかもしれない。どうせこの部屋に置いておいても、誰も使わないから良いだろうしね。


「なぁ……これからどうするんだ?」


 二つのパンパンの袋を両肩からたすき掛けした上に、首からは空の袋をぶら下げていると言う、馬鹿っぽい格好のおっちゃんが聞いてくる。


「勇者は、帰る時に身に付けた物だけしか持っていけないのよ」

「えぇ!? そ、それじゃぁ、城の前に止めた馬車の荷物は?」


「勇者達が残していった物は、全部この部屋にあったの見てたでしょ?」

「あれ、全部落とし物かよ……」

 何か言いたげな顔をおっちゃんがしている。


「こっちは何回も殺されてんのよ? 荷物くらい良いでしょ?」

 そう言うと、おっちゃんは黙った。


「なんだか……ネコババしてるみたいで、やだなぁ」


 ブツブツ言う男を無視して、宝物庫の奥に飾ってあった一際風格漂う剣を、その鞘ごと手にした。


 まだブツブツ言う男に向かって、その剣を放り投げる。


「わっ! 剣を投げるなよ、危ないな……って、やたらと凄そうな剣だな」


「エクスカリバーって名前だそうよ。その腰の剣と付け替えて。鞘にも魔法掛かってるらしいから」

「え、エクスカリバー!? マジか?」


 興奮した表情で驚きを見せる。


「なに? 知ってんの?」

「いや、有名だし、知らない方がおかしいだろ」


 喋りながら剣を引き抜いくと、何やらうっとりした顔をして剣を見つめている。


「鞘!」


 惚けているおっちゃんにそう叫ぶと、思い出したかのように慌てて鞘を取り替え始めた。


 だから、身に付けていないと持っていけないんだってば。

 まったく……こんな奴で上手くいくかなぁ? どうも頼りなさ過ぎるが、他に方法を思いつかない。



「ふぇ?」

 おっちゃん左手を掴むと変な声を上げられた。


「お、俺は幼女趣味は無いぞ?」

「誰か幼女よ! あんたより、年上よ!」


 こんな見た目だけど、既に自分の歳すら数えていないほど、生きている。少なくとも、目の前のおっちゃんよりは間違いなく年上のはず。


 私は、そのままおっちゃんの左手を自分の左手で掴んだ状態で上から布で縛った。


「何をしてるんだ?」

「だから言ったでしょ? 身に付けているものだけなの」


「まさか……お前も来る気なのか?」


 ようやく気がついたのね。何のための用意だと思っていたんだか……

 なんで私が、おっちゃん一人をわざわざお土産付きで元の世界に戻してあげなきゃいけないのよ。ついて行くに決まってるじゃない。


「当たり前でしょ? 私を倒して一緒にアキハバラに戻るか、今この場で私に殺されるか、人の国に戻って人に殺されるかよ」


 指を一本ずつ立てながら男に説明すると、おっちゃんは顔をひきつらせながら、


「せ、選択肢は……」

「今3つ言ったわよ?」

「他ふたつが、俺死ぬんだけど」


 観念したのが、ガックリと肩を落とした。

 どうやらアキハバラ行きを選んだようだ。いや、そうでなくては困る。



 おっちゃんが諦めたのを確認すると、目を閉じてゆっくり深呼吸をする。


「今度は何してるんだ? あ、いやそうだよな……戻るには、魔王を討たないといけないんだよな」


 ん? 私が死ぬのを恐れてると思っているのかな?

 今から死ぬとわかってれば、少しくらい平気なんだけど。


「何か勘違いしてるみたいだけど、魔力抑えてるだけよ? そうしないと、私を殺せないじゃない」


 おっちゃんが苦虫を噛んだような顔になった。


「でも、死んだら日本に戻るとか出来ないんじゃないか? 俺、あっちで死体と一緒とか困るんだが……」

「魔王舐めてない? 大丈夫よ」


 おっちゃんが持つ剣 ──エクスカリバー ── を掴んで自分の首に当てる。


「服は破りたくないから、ここでお願いね」

 流石にこの聖剣だとメイド服も切れてしまう。


「なぁ、やっぱり……」

「さっさとしなさい!」

 足を踏みつけると、その弾みで……私 ──魔王 ── は、討たれた。



 ◇



 ふ 次の瞬間、真っ白い世界に居た。


「もういいかな?」

 おっちゃんに話し掛けるが……目をつぶっていた。


「ちょっと! 目を開けなさいよ!」


「えっ? あぁ、てっきり死んだの……うわぁぁー!!」


「さっさと拾って首の上に置いてよ」


 私は、¨床から¨言った。


「な、なんで、首が……うわぁぁー!」


 慌てたおっちゃんが後ろに逃げたものだから、手が繋がった状態の私の身体が、上にのしかかった。

 変なところを触られてそうで嫌な気分になるが、今はこの男のボケに付き合っている場合じゃない。


「良いからさっさと首を引っつけてよ。流石に長くはもたないんだから」


 そう頼むと、意を決した様に目をつぶって、そのまま手探りで首を元の位置に戻そうとする。


「あぁ、もう! だから、なんで目をつぶるのよ!」


 なんとか首を元の位置に戻して貰うと、身体に力を流して動かせるようにする。


「はぁ〜、へたれ。本当に死ぬとこだったじゃない」

「い、いや……って言うか、なんで首を切り落とされて生きてるんだよ!」


 なにやら喚いているのを無視して、左手の布を解くと床に落ちた剣を拾う。



「何これ〜、壊れてんの?」


 馬鹿っぽい女の声がしたと思ったら、これぞ女神といったヒラヒラの服を身にまとった女が姿を現した。

 女は、何やら手に持った懐中時計のような物を見ながら、それを振ったりしている。


 あの時計みたいなので、この部屋に人が来たのがわかるのかな?


「魔王も復活してないのに、誰もいる……うわぁぁー!」


 あっ、おっちゃんと同じ反応だ。


「な、な、なんで人が居るのよ!」


 どうやら、陰に隠れる形で、まだ私には気が付いて居ないらしく、その女はおっちゃんに指を指しながら喚いている。


「あんたが勇者として送ったんじゃないの?」


 横にずれながら、女に問い掛けるが、


「ま、ま、魔王の娘まで!」

「娘?」

 女の言葉に疑問に思ったのか、おっちゃんが聞いてくる。


「まだ前に倒されてから復活してないから、私が代理なのよ」


「お、おい……良いのか? 魔王が居なくなるんじゃ」


「良くないわよ! 魔王が居なかったら、勇者が送れないじゃない!」


 女がこちらに向かって喚いてくる。

 どうやら魔王、いや父親の謎の行動には、変な拘り以外にも何やら理由がありそうだが……私には関係ない。


「お喋りしに来たんじゃないわ。さっさと元の世界に戻して」


 手にした剣 ── エクスカリバー ── を女に向けると、


「いやぁァァ、私は戦う力なんて無いのよォォ」

 おっちゃんと私が立つ床が光りだした。


「やった! これで、聖地に行ける! アキバデビューだァァァ…… 」

 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。



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