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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
知らない世界、知らない家族
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嫌な姉さん

 家の中へ戻って大体一時間。

 俺はどうすることもできずに、結局その汚い布団の上で横になることになっていた。

 普段通りに布団を持ち運びしようとすると、ウェインのあまりの腕力の無さに引っ張ることもできず、引きずることもできず。持ち上げることなど到底出来るはずもなく、俺は早々に観念し、諦めた。

 いつもなら簡単に出来てしまうことが、このウェインという体になった途端何もできない。自分が小学生ぐらいの頃に戻ったような感覚だ。

 布団に乗れば、まず最初に鼻と口を塞ぎたくなる程の大量のホコリが宙を舞った。これは確実に鼻炎を起こすと思い、俺はすぐさま自分の顔半分を手で覆ったが、ウェインの家族はなんのその。埃が舞おうが窓を開けたりすることもなく、平然とそのまま部屋で過ごしていた。

 くしゃみや涙を流すこともなく、ハウスダストアレルギーとは何なのかと考えてしまう。この汚い環境に慣れすぎて、感覚もおかしくなってきてるんじゃないだろうか。埃を気にする人達じゃないんだろうなぁ、と思いつつ、俺は天井を見上げていた。

 数分そこで横になっていれば、今度はなんだか居心地が悪くなってきて、落ち着いていられなくなる。動かずにはいられないというか、なんというか。なんかこう、とにかくこの空気が気に入らない。

 何が嫌って、やはり部屋が一つしかないせいか、プライベートな空間が全くないのだ。

 家族が同じ部屋に長い時間居座れば、自分だけベッドの上で横になっていることがどうもいたたまれなくなってくる。

 しかも部屋が狭い分、ベッドがそのスペースを大半埋めてしまうため、なんとも気まずい空気が室内を漂っている気がするのだ。俺が気にしすぎているだけなのかもしれないが、それでもやっぱり嫌なものは嫌なんだ。

 ウェインは一体ここで、どんな想いで横になっていたんだろう。俺だったら息苦しくて、家に居場所も見つけられないから外に行っちゃうよな、うん。


「ねぇ、ウェイン」


 もやもやしたものを胸に抱えながら色々と考えていると、急に姉のジルが話しかけてくる。

 彼女が隠しもせずにこちらを怪しんでいる分、会ってたった数時間だが俺もなんとなく苦手意識を抱いてしまっていた。すでに視線には訝しむ色が含まれていて、何を聞いてくるつもりなんだろうと緊張してしまう。するとジルは予想通り、やっぱり嫌な事を的確に突っ込んできてくれた。


「ウェインって、今何歳だっけ」

「え」

「誕生日がいつだったか、覚えてる?」


 もちろん知っているわよね? 覚えていないわけがないわよね? だって自分のことなんだもの、知っていて当然よね。というような意味を込めた瞳で、奴は俺を挑戦的に睨みつけてくる。

 なんともネチネチとした性格をしている女の子だ。やだなぁ、そうやって遠回しに責めてくる姿勢が好きじゃないなぁ。追い込んでほしくないなー。

 対する俺は乾いた笑みを浮かべることしかできない。

 だって比呂はウェインのことについて、何一つ知らないからだ。

 ウェインがどんな顔をしていて、どういう髪や瞳の色をしていて、一体どれぐらいの年齢なのか、身長や体重さえ何一つわからない。圧倒的に情報が足りていない。

 ジルはさっさと答えろと言わんばかりに、腕組みをして俺のことを見据えている。にゃろう、俺が答えられないと知りながら聞いてきたな。なんて奴だ。それでも姉か。

 どうしようと困り果てた様子で悩んでいると、見兼ねた母さんが俺に助け舟を出してくれた。


「ウェインは今十歳で、誕生日は雪の降る月の初めの日よ」

「もうっ! お母さんが答えないでよ! 私はウェインに聞いてるの!」

「ちなみにジルは十二歳で、ウェインよりも二つ歳が上なのよ。覚えていて損はないでしょう?」

「お母さん!」


 ふむふむ、なるほど。俺が十歳で、この姉さんが十二歳か。思いがけないところで良い情報を仕入れる事ができた。誕生日は大体冬、と。頭の中に叩き込んでおこう。助けてくれてありがとう、母さん。


「ジルってばどうしてそうイライラしているの? ウェインを困らせて楽しい?」

「答えられて当然のことを聞いただけだよ。別に困らせるような質問じゃないもの。だからお母さんが代わりに答えなくてもいいんだよ。私、ウェインにはもっと聞きたいことがたくさんあるんだから」


 なんという姉だ。その様子からするに、それはこれからもウェイン自身に関する質問を俺に投げつけていくということか。

 そこまで俺がウェインじゃないことを暴きたいのか、姉さん。やられてばかりじゃいられないけど、それにしたってまだ俺にはウェインの情報量が少なすぎる。

 家の中の空気がアウェーになりかけているので、耐えきれず俺は外へ飛び出した。

 どこに行くの、と母さんに止められたが、構わず俺は「おしっこ」とだけ言うと、川へ向かい走り出した。

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