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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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鈍い自分に反省して

 ――――追いかけてきた? 俺のことを?


 げぇっ、と一瞬だが狼狽えてしまう。

 閉じこもってばかりいたヴァーミリオンが自分の意思で部屋から出てきたなんて本当は喜ばしいことなんだろうけど、ヤツは一体どこから俺の挙動を見ていたんだろうと、少しだけ不安になる。

 けっこうぶつぶつと独り言を呟いていたような気もするし、深刻に悩む姿を遠目からでも見られていたんだろうか。

 俺は比呂だ、みたいなことをボヤいていたと思うんだけど、ヴァーミリオンの耳に届いていなかったか心配になってくる。


「い、いつから俺のこと追ってきてたんだよ。全然気づかなかったんだけど」

「……ちょうどお前が部屋を出ていった後だ」

「えっ、そんな前から!? じゃあ俺の独り言、聞こえてたんじゃないのか!?」

「独り言? 先程ここで転がりながらぶつぶつ呟いていたことか? そんなもの、俺には一切聞こえていない」


 そう言うと彼は肩に剣を置いたまま、ぷい、と横を向いてしまった。

 と、届いていないなら良かったけど……。意識もせずにけっこう大きな声でぶつぶつ呟いていたから、丸聞こえだったんじゃないかと少々焦ってしまった。

 だって、俺がウェインから離れたら……とか、向こうの世界に戻って……とか、なかなか際どいことを言っていたから、そんなの聞かれてたら確実に怪しまれるだろ? いや、怪しまれるに決まってんじゃん。

 俺ももう少し慎重に、周囲の目を気にしなければいけないようだ。下手をすると自分で首を絞める結果を招くことになりそうだし、自滅だけはどうあっても避けたい。

 ほっと胸を撫で下ろしてヴァーミリオンの方に目を向けてみると、俺はあることに気づいてしまった。


「……ヴァーミリオン」

「なんだ」

「……耳、真っ赤。具合でも悪いのか?」


 目の前にいる少年の耳が、まるでトマトのように赤く染まっていた。

 そう指摘すればなにか思い当たる節があるのか、彼の目が大きく開いた。

 途端、肩に置かれた剣に、ぐぐぐ、と一気に力が込められたような気がする。俺の肩を斬り落とそうとする剣の刃に、ひぃっ、と声にならない声を上げてしまった。

 やばい、自ら地雷を踏みに行ってしまったようだ。でも、耳のことを言っただけでそんなに怒る? なんで? 図星なのか? さっきとはまた違う意味で自滅なんてしていられない。

 でも、そこまで赤くなるなんてどうしたんだろう。若干ほっぺたも赤くなっているように見えるし、よくよく見れば首筋まで。……風邪でも引いているんだろうか。いや、もしかして本当に具合が悪い? 我慢してまで外に出掛けてきたのか?


「いやいやいやいや、ちょ、ちょっとヴァーミリオンさん、それはまずいんじゃないですかね!? そのままだと俺の肩から血が吹き出すっていうか、斬り落とされるっていうか!! だって本物の剣だよね、それって! マジでやばいって、やーめーろー!! 落ち着けぇ!!」

「……っ、それよりも早く答えろ!」

「えっ、早く答えろって、なにが!?」

「騎士の誓いだ! イエスか、ノーか、はっきりしろ!」


 ヴァーミリオンが強く睨みつけると同時に、その剣を握る手が微かに震えていることを察してしまう。かたかたと、意識しなければ気づかないほど僅かにだが、それは確かに揺れていた。


 ――――ヴァーミリオン……?


 俺はもう一度ヴァーミリオンを見上げた。

 彼も俺を見下ろしていた。

 ただ、その瞳の中に宿る炎は、強く風に吹かれたように不安げに震えていた。


「……ヴァーミリオン」


 そこで俺もようやくわかったんだ。そりゃ、俺の独り言なんて彼に聞こえているわけがなかったんだって。

 だって今のヴァーミリオンはきっと、いつも以上に体に力が入り、緊張しているはずだから。

 耳だって真っ赤になるし、手だって震えるし、もしかしたら背中に汗だってかいているかもしれない。脈だって速くなりすぎて、辛いんじゃないか?

 よくよく考えたら、そうだよな。

 今までは自分から相手を突き放してばかりいたヴァーミリオンが、今度は自分から勇気を出して一歩を踏み出してきたんだ。断られるかもしれない、嫌がられるかもしれない、拒絶されたらどうしよう、なんて考えれば、緊張だってするし相当怖いはずだ。だからあんなに今すぐ答えを欲しがっているんじゃないだろうか。

 俺は反省した。鈍い自分に、とにかく反省した。

 ウェインから離れたらどうしよう、とか、ヴァーミリオンを裏切ることになるかも、とか、散々悩んでいたのに。彼の勇気を目の前にしたらそんなことは吹っ切れていた。

 俺は剣に手を添えて、ヴァーミリオンに応えた。


「……俺はお前の騎士になるためにここへ来たんだ。拒絶するはずがないだろ」


 赤い少年が、目を丸くした。

 なんだろう、その反応。まさか断られると思っていたんだろうか。

 俺、ここに来てからずっと自分からは帰らないとか主張していたはずなんだけどなぁ、そんなに驚くことでもないと思うんだけど。あまり信用されてなかったってことでしょうか。

 なんとも言えない顔をしていると、ヴァーミリオンの肩に力が入った。


「……な、ならばその証明として、剣に口付けしろ」

「口付け? 剣に?」

「そうだ、それで騎士の誓いは完了する。そうすれば今これよりお前はもう俺の騎士だ。誓いを破らない限り、ずっと」

「……ずっと」

「生涯、俺に仕えることになるんだ」


 ずっと、か……。

 その言葉に、あの問題が頭にちらついてくる。俺がいつまでウェインでいることができるのか、解決できそうにない深刻な悩みだ。

 押し込んだって、どうやったって、そいつはほんの僅かな隙間から頭を覗かせてやってくる。

 早く答えてやらなきゃ、ヴァーミリオンに不審に思われる。いつまでも悩んでいたってどうしようもないし、勇気を出してくれた彼にそんなことでは顔向けできない。

 俺も、踏み出さなきゃいけないことなんだ。

 悩みは、いつか話せばいい。バカにされるかもしれないけど、それでも話しておけば理由がわかるはずだ。ヴァーミリオンなら、きっと気づいてくれるはずだから。なんてったって、俺の主様なんだからな。さっきみたいにやる時はやる子だ、大丈夫。

 だけどヴァーミリオンは俺が考え込んでしまったせいか、微妙に眉が下がり始めていた。自信がなくなったのか、しょんぼりとしてしまっている。


「……やはり、考える時間が必要か?」

「えっ!?」

「悩む時間も、必要か? 簡単に決められる話でもないからな、お前にとっては。誓えば、これから一生俺の傍に仕えるということになる。お前の人生がここで決まってしまうんだ。そうすれば自由が利かなくなるし、好きに生きることはできない」

「え、いや、だから俺はお前の騎士になるためにここに来たわけで、べつに考える時間とかそんな必要は……」

「さっきも、悩んでいたようだから」


 さっき……?

 声をかける前の俺の姿と照らし合わせているのか、紅い瞳が寂しげに伏せられてしまった。

 違う違う、そうじゃないんだけど、お前にそんな顔をさせたいわけじゃないんだけど! 俺の言葉を聞く前に自分の思い込みで決めつけるのやめてくれないかなー!? しかも悪い方向に考えてるし……!

 というか、なんで俺が騎士について悩んでいたか知ってるんだ? そこのところ、声に出したっけ? 知らずの内に心の声が漏れていたんだろうか。だとしたら相当やばいぞ、俺。


「何だったら、後で答えを聞かせに部屋に来てもらってもいい。俺も勢いでここまで来てしまったところがあるから、その……悪かったな。お前の顔を見ていたら、猪突猛進な自分に反省した」

「待て、ヴァーミリオン。俺の答えはもう決まってる」

「気を遣う必要はない。急かすべき話ではなかった。俺もおかしなところで焦っていたようだからな。今までが今までだった分、自分から動いたことなどなかったから……加減がわからなくなっている。すまない」

「……お、おい!」


 悲しげな顔をしたヴァーミリオンが剣を引こうとしたから、俺は慌てて引き止めた。剣の刃を、そのまま自分の手でぐっと掴んで。

 このまま引けば俺の指が斬れそうだなんて考えながらも、掴んだ手は離せなかった。だって離したらきっと逃げちゃうだろ、お前。


「そのままだと指が落ちるぞ」

「じゃあ、剣を引くなよ。言っただろ、俺の答えはもう決まってるって」

「ならばなぜ答えない。挙げ句、そんな心底困ったような顔をして……!」

「そ、そんな顔してたか? ていうか、答える前にお前が勝手に返事を決めちゃってたんじゃん! まぁ色々悩んでるのは事実なんだけどさ!」

「は?」

「うーんと、そこは本当デリケートな悩みでさ。俺もどうしたらいいかわからなくて、負のスパイラルに陥ってるところだったんだ。でも、いつかはきっとお前に話さなきなゃいけないことだと思ってるから」


 ヴァーミリオンは隠しもせずに「何を言ってるんだ、こいつ」って顔してる。眉根に思いきり皺が寄せられてる。少し真面目に聞いてくれよ、失礼な奴だな。


「……あのさ」

「なんだ」

「俺、ヴァーミリオンの騎士になりたいんだ。そこは変わらないんだよ」

「ならば、やはり悩む必要は……」

「ただ! ただ、言っておきたいことはある!」


 あぁ、また怪訝な顔をして俺を睨んでいる。なかなか承諾しない俺にイライラしてしょうがないんだろうなぁ。

 でもこのまま何も言わずにいたら、後々大変なことになると思うんだよ。これは男の勘だけれど。

 だけどストレートには言えないから、そこは少しだけ言葉を濁しておく。違う世界からやってきて、この世界の子供に転生しました、なんて唐突すぎるし非現実的すぎるから。


「……変なこと言うけど、引くなよ」

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