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僕の騎士道物語 孤独の主と友誼の騎士  作者: 優希ろろな
炎の加護を受けた少年
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ヴァーミリオン:複雑な心中

 * * *


 ヴァーミリオンは自分の耳を疑った。

 あの少年は男に対し、なんと言った? 怖くないのか、そう聞かれ、少年は笑顔で「かっこよかった、憧れた」と答えてみせた。恐れもせずに、それも平然とした態度で。

 信じられなかった。

 あの力を目にして、それでも恐れることなく瞳を輝かせる少年に、ヴァーミリオンはどうしたらいいのかわからなかった。

 今まで顔を合わせてきた人間は、大抵距離を置くものだ。

 人の顔色を窺って、声をかけることも少なくなり、次第に関わり合いを持たないようにもなって。最終的には顔も見なくなる。奴等は視界にすら入れたくないらしい。

 だからヴァーミリオンはいつも諦めていた。なにも期待はしなかった。

 いくら子供であろうと、大人達の態度は変わらない。実の母でさえ、息子のことを畏怖した。兄には侮蔑した目で見られていた。

 怖がらずに接してくれたのは父親と、シアン、気づかない振りをしていたが屋敷に仕える執事もそうだった。

 だけど、心から信用していたわけではない。どこか自分のいないところで、必ず何かしらの悪態はついてると子供心ながらに思っていたからだ。

 陰口を叩かない人間などいない。人の良い振りをして近づく人間も、必ず見えないところで悪い噂を流している。見えないところで、何かしらのアクションを起こしている。

 子供だから何を言っても気づかないと思っていても、ヴァーミリオンにはわかってしまう。嫌でもわかる。自分はそこまで鈍くはない。

 この力のせいなのかはわからないが、人の心が透けて見えてしまうのだ。どんなことを考えているのかはさすがに読むことができなかったが、あくどい事を考えている連中はその内が真っ黒に染まるのだ。

 だから自分を嫌う人達のことはすぐに判断できた。それで自分から無意識に壁を作っていた。

 だけどあの少年は違った。あの少年だけは、見透かそうとしても内を見せてはくれなかった。いや、見えなかったのだ。靄がかかっているようで、実は心が空っぽの人間なんて初めてだった。

 口には出さずにいたが、この少年も普通の人間とは到底思うことができなかった。

 ガウェインに髪の毛をくしゃくしゃとされているウェインを見ていると、とても複雑な気分になる。

 彼は自分のことを、知らないと言った。聞いたこともないと言っていた。

 悪い意味で名の知られているヴァーミリオンの存在を、彼は何一つ知らないでいたのだ。

 だから先程の点も踏まえた上で、やはりおかしな男だとは思っていた。

 説教じみた事を面と向かって言ってみたり、いちいち突っかかってきたり。自分から距離を置こうとしているようには見えなくて、ヴァーミリオンはウェインとの接し方に困っていたのだ。

 距離感がわからなくなってしまった。いつもは他人から距離を置き始めるのに、ウェインには自分から距離を置こうとしている。

 でも彼は、なかなか遠ざかってくれなくて。離そうとしても、逆に縮めてきて。

 ガウェインの力を見ても、全く引かずにいるウェインを見ていたら、忘れかけていたものがつい顔を覗かせようとしていて。しっかり蓋を閉めたつもりなのに、それでもどこかに隙間が空いているようで。

 期待してはいけないんだと自分に言い聞かせても、一度開いた蓋は簡単には塞がってくれない。上手く塞がらない。


 ――――俺が同じように力を使ったとしても、お前は恐れないのか?


 駄目だ。誤魔化されてはいけない。

 ウェインはガウェインのことを気に入っている。だから力を目にしても怖がる事がないのだ。


 ――――俺は皮肉ったことしか言わないから、きっとお前は俺を嫌っているに違いない。だから力を使えば、必ず突き放す。俺の騎士になんて、なってくれるはずがない。


 そうだ、期待なんてしてはいけない。信用してはいけない。信頼もできない。

 あれはガウェインが相手だからこそだ。ガウェインでなければ、あんな風に近づいてはくれない。

 ヴァーミリオンはいつも独りぼっち。今までも、これからも、この先も、ずっと孤独に生きていかなければいけない。

 羨ましいだなんて思わない。俺にも、だなんて思わない。

 だっていつもこうして生きてきた。だから変わらない。今日も、明日も、それから先も、ずっと、ずっと――――。


「ヴァーミリオン様」


 シアンが肩を掴む。

 呑み込まれてはいけないと、引き戻すように強く名前を呼ぶ。


「恐れることはないのです。言ったでしょう。彼は貴方の騎士になるべき方なのだと」


 わかっている。本当はわかってる。

 でも、それでも心が追いついていかない。

 常に心を閉ざしてきたからこそ、どうしてもすぐには受け入れられない。

 だって信用して、心を開いて、それでも裏切られたらどうする? どうしたらいい? どうやって傷を治したらいい?

 怖いのだ。そう、裏切られることが怖い。せっかく手を伸ばしたのに、振り払われたらどうしたらいいんだろう。その先が全く見えない。

 わからないんだ。また独りになるのが怖い。嫌なんだ。

 拒絶された時のことを考えたら、胸が苦しくなる。置いていかないでと、縋りたくなる。

 それでも突き放されたら、自分は……俺は、心が壊れてしまう。

 嫌だ。独りは嫌だ。心が痛いんだ。気づいてほしいのに、でも誰も気づいてくれない。こんなにも苦しいのに、声も上げられない。


「突き放されることばかりを考えてはいけません。掴んだ手を振りほどかれるのが嫌ならば、貴方から離さなければいいのです。自分から掴んだ手は、絶対に離してはいけません。例えあの子が嫌がろうとも、この先何があろうとも、貴方からは絶対に――――」


 瞬間、子供の悲鳴が聞こえた。

 目を移した時には、魔物に呑み込まれる子供の姿だけが映っていた。

 名前も知らない誰かを庇うようにして、ウェインだけが呑み込まれていった。

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