死霊使い
「...え?」
母さんは、俺から死霊使い(ネクロマンサー)になった事を聞くと、手に持ってた皿を床に落としてしまい、落として割れた皿には目もくれず俺の方によろよろとした足取りで歩いてくる。
「あっ。」
そこで俺は思い出す。死霊使い(ネクロマンサー)は禁忌とされている事を。
「ル、ルキウス?・・・いい?死霊使者っていうのは禁忌とされている死者の体を操る術者で、正義の神派閥では認められていない職業よ!
この事が公になってしまったら異端とされ、高い賞金をつけられて指名手配犯となってしまうわ!
こうなってしまったら、さっき『天職の儀』を行なった教会に行き、神官様に事情を説明して、『転職の儀』を受けれる年になるまで教会の外に出れなくしてもらうしか無いわ!
ほ、ほら!はやく行くわよ!」
母さんは、青褪めた顔でそう言い、俺の手を掴んだ。
「ッ!」
しかし、俺は母さんの手を振りほどいた。
なんて事だ。俺は取り返しのつかない間違いを犯してしまった。知らせるべきでは無かった。
だけど、死霊使い(ネクロマンサー)を諦めたくはない。
「ごめん、教会には行けないよ。母さん。」
震えた声で俺はそういった。
「は?何を言っているの?あんたはね、確かにいい子だったよ。
でもね、異端となってしまったらその家族にも異端を産んだものとして、異端と扱われるのよ?
私はね、夫と普通の子供がいて、普通に農民として普通の暮らしができたらそれで十分なのよ!
ほ、ほら!わかったらとっとと教会に行くよ!」
昔、いや先ほどまで優しかった母さんの面影はとっくに消え去っていた。
いまの母さんはとても怯えており、もう俺の言葉は通じないと感じた。
「親孝行できなくてゴメン。そして、さようなら。」
俺は、辛い涙を流しながら、古びた本だけを持って、村の外へと飛び出した。
「ま、待ちなさい!あ、あなたなんか産まなければ良かったのよ!この、悪魔の子めぇー!」
後ろの方から聞こえるかつて母親だった人の声に、俺の心は罪悪感でいっぱいになった。
△△△△△△△△△△△
「はぁ、はぁ、はぁ。」
どれくらい走っただろうか。髪は汗でびしょびしょに濡れ、足はガクガクと震えている。
しばらく走れそうに無いと判断した俺は、近くにあった、少し大きめの石に座り、古びた本をめくった。
違うだろ俺!今すぐにでも家に戻って、母さんに謝るべきだ!まだ、今なら間に合う!さあ!
俺の中の常識がそう叫んでいる。
そうだ、異世界で家出なんて生き残れる気がしない。なんせ、ここには盗賊が、魔物が、魔王がいる。強く無い自分が生き残れる筈が無い。
・・・でも、それでも!俺にとっての死霊使者は特別なんだ!これだけは、どうしても諦めたく無いんだ!
改めてそう、決意した俺は、『死霊使者』という字のみが書かれているページをめくって、内容を見始めた。