Family
クリスマスイブの午後、パーティーの準備がすっかり整ったギルバート家では最後のゲストの到着を待っていた。車の停まる音がした。
「あ! 来たよ!」
グレッグとセシリーがドアを開けて飛び出した。ツインズに連れられて贈り物の箱を抱えたスコット、スーザン夫妻と背の高いアフリカ系黒人の少年が入って来た。
「メリークリスマス! ようこそ」
ホストであるイーサンが笑顔で一家を出迎えた。
「メリークリスマス! ご招待ありがとうございます。彼を紹介させてください。僕たちの新しい家族、息子のマルコムです」
スコットに紹介されたマルコムはちょっとはにかみながら挨拶した。
「マルコムです。L国からやってきました。みなさんに会えてとても嬉しいです」
マルコムはイーサンと握手すると、待ちきれない様子のシンディにハグされた。
それからエヴァン、ラルフと次々に歓迎された。マルコムは精悍な小顔の持ち主だった。
「なんてキュートなの、マルコムって」
ラルフはもうすっかりマルコムに夢中だった。
いつも大人たちの中にいたグレッグとセシリーは、少しでも自分たちと年の近いマルコムの訪問に目を輝かせていた。
それよりもさらにふたごたちの関心を引いたのは、スコットが抱えてきたギフトの箱だった。金色のリボンが結ばれているだけで華やかなラッピングもされていない段ボールの箱にはいくつかの小さな丸い穴があいていてその穴から、かぼそい小動物の鳴き声が漏れていた。
「メリークリスマス! グレッグ、セシリー。あなたたちへの贈り物よ」
スーザンが幼いふたごの間に贈り物の箱を置いた。ふたりは箱の中の気配に、期待と不安とが入り混じった目で恐る恐るリボンをほどいてふたを開けた。
箱をのぞき込んだふたりは同時に歓声をあげた。
「PUPPY!」
箱の中では茶色の子犬がいきなり広がった視界にちょっぴりおびえた様子でうずくまっていた。
セシリーがそっと子犬を抱き上げた。小さくて温かい子犬はセシリーの腕の中ですんすん鳴いた。
「僕にも抱っこさせて」
次にグレッグに抱かれた子犬は彼の顔をぺロペロなめた。
「ひゃあ! くすぐったい!」
スコットとスーザンからの思いがけない贈り物にふたごたちはもう夢中だった。もちろん、事前にイーサンとシンディの了解を得ていたのは言うまでもない。
「めずらしい犬だね。なんていう種類?」
エヴァンが子犬の頭をなでながら聞いた。
「SHIBAっていう日本犬だよ。あまり大きくはならないけれど昔は猟犬として熊にも向かっていった勇敢な犬なんだって。日本人の同僚の家で産まれたのを譲ってもらったんです」
説明するスコットが子犬を見ると、今度はマルコムの腕にしっかり抱かれていた。そのくったくのないマルコムの笑顔を見て、スコットははっとした。
数年前、L国でマルコムと出会って、彼の家族にも受け入れられていっしょにサッカーボールを蹴っていたころのマルコムの笑顔だった。
あれから両親と弟、おばあさんを相次いでエボラ出血熱で亡くしたマルコムから少年らしい笑顔はすっかり消えていた。
「ねえ、マルコム。うちでも一匹飼おうか? どうかな、スーザン」
「ステキ! 私、犬って大好きだわ」
「ほんと? 本当に飼ってもいいの?」
マルコムの顔がぱぁっと明るくなった。
「同僚の家では子犬が4匹産まれたんだ。受け入れてくれる家庭を探していたよ。すぐ連絡してみるよ」
スマホを手にしたスコットが同僚と話すのをマルコムが心配そうに見ていた。
「ありがとうございます。明日、さっそく引き取りにうかがってもいいですか?」
そう言いながらスコットはマルコムに向かって親指を立ててウィンクした。
その時ベビーベッドの中でザカリーが泣き出した。
「あらあら、みんなマルコムとRUPPYに夢中だからザカリーがいじけちゃったみたいね」
ラルフがその太い腕で息子を抱き上げた。
「はじめまして、ザカリー」
「まあ! なんてハンサムなの!」
スコットとスーザンがザカリーに駆け寄った。