新しい家族
パーティーが始まっても、子供たちは子犬に夢中だった。祖国では幼い弟妹の兄として暮らしていたマルコムにセシリーとグレッグのふたごはすっかりなついていた。
大人たちはそんな子供たちの姿を見て、幸せな気持ちになった。特にマルコムの子供らしい笑顔にスコットとスーザン夫妻は、自分たちの選択は間違っていなかったという確信をさらに強くした。
「ところでイーサンとみなさん」
あらたまった口調のシンディにみんなの視線が集まると、彼女はグラスのソフトドリンクを一口飲んでちょっともったいぶるように間をあけた。
「何だい?」
イーサンが促した。
「来年のクリスマスはもっとにぎやかになるわよ」
夫を見つめながらシンディがいたずらっぽくウィンクした。
「もしかしてシンディ! すてきなニュースなのね?」
女の直感で真っ先にラルフがシンディの報告を察知した。
「そうなの。私たちは新しい赤ちゃんを授かるのよ。私、イーサンから最高のクリスマスギフトをもらったの」
「ワオ! シンディ! 気づかなかったよ。なんてすばらしいニュースなんだ!」
イーサンが妻を抱きしめてキスをした。幸福なサプライズに盛り上がる大人たちの様子に気づいたふたごが子犬を抱いたまま両親の間にやって来た。
「セシリー、グレッグにもステキなニュースを知らせなきゃ。来年新しい赤ちゃんが生まれるんだよ。キミたちはお姉ちゃんとお兄ちゃんになるんだ」
イーサンが娘と息子をその両腕で抱きながら伝えた。
「やったぁー! えーと、ダディとマムとセシリーと僕とPUPPYと赤ちゃんの6人家族になるんだね」
「じゃあ来年のクリスマスは赤ちゃんとマルコムとザカリーと、マルコムのPUPPYと、えーと……」
セシリーは両手全部の指を使って来年のクリスマスに集まることになるメンバーを数えた。
「指が足りない、でもいっぱい家族が増えるってとってもステキ!」
家族のメンバーとしてカウントされたPUPPYが、セシリーの指をせっせとなめていた。
その時、イーサンのスマホが着信を知らせた。
「おっと、父さんからだ」
イーサン、エヴァンの父親であるレイクはバイセクシュアルという事実を封印したまま、妻亡き後の家庭では父親として、社会では会社経営者として40数年間、堅実に生きてきた。
しかし父の過去を知ったふたりの息子たちが奔走して、レイクと元のパートナーであるジョーイを再会させたのだった。そして父親はジョーイを残りの人生のパートナーとして、彼のもとに身を寄せていた。
「また動画だ。でもいつもの弾き語りじゃないよ、屋外だ」
寒そうな屋外でコートを着た父親レイクがカメラに向かってスケッチブックを開いた。
「Merry Xmas!」
1ページ目、カラフルでポップな文字で書かれたクリスマスの挨拶。そして次のページ。
「Welcome! Malcolm」
マルコムを歓迎するメッセージが現れた。驚いたような表情のマルコムをスーザンが抱き寄せた。
そして3ページ目を開く前にレイクは忽然と画面から消えた。消えたのは立っていたレイクがかがんだせいだった。
その動画を撮っているであろうジョーイがあわててカメラでパートナーのレイクを追ったらしく動画は激しく手ぶれを起こした。
そして片ひざ立ててひざまずいたレイクが開いた3ページ目。
「Will you marry me? Joey」
40年の時を越えたパートナーへの心からのメッセージが現れた。
次の瞬間、さっきよりもさらに画面が激しく上下した。
「Yes! Of course!」
ジョーイの返事とともに反転した動画は、澄んだ冬の青空をただ映していた。
ギルバート家、来年のクリスマスはもっとにぎやかになりそうだ。
完