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プリズム!  作者: 龍野ゆうき
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17/40

‐4‐ 複雑なキモチ

「ご馳走さまでした。それじゃあ…お先に失礼します」


夏樹は手を合わせた後、立ち上がって食器を下げると、目の前にいる仁志に一礼をした。

しっかり鞄も手にして帰る準備万端の夏樹に、流石に慌てた雅耶は立ち上がった。

「待てよ、夏樹っ。俺も帰るよっ」

だが、その時。

「あら?もう、こんな時間なのね?ついつい楽しくて話し込んじゃったわ。私も帰らないと」

薫も雅耶に寄り添うように立ち上がった。



(――どうして、こうなるかな…)


ネオンが煌めく夜の町と化した、賑やかな駅前裏通り。

いつもと変わらぬ景色ではあるが、今日は何故かそこを三人で並んで歩いていた。

とは言っても、人通りが多いので三人が横並びで歩くことは難しく、自然と会話が続いている二人が並び、夏樹は一人少し前を歩く形になっていたのだが。


「…えっ?それじゃあ二人は幼馴染みなの?やだ、そんな繋がりがあったなんて気付かなかったわ。だって、二人ともお店では素知らぬ顔してるんだもの。気付かなくて、ごめんなさいね」

「いえ、謝られる程のことでは…」


雑踏の中でも、後方からは二人の会話が聞こえてくる。

(…こんなんだったら、一人の方が気が楽なんだけどな…)

こちらを気にしている雅耶の視線を感じつつ、気付かない振りをして前を歩く。

(別に、自分なんかに気を使わなくて良いのに…。ま、それが雅耶の良い所…なんだろうけど…)

夏樹は気付かれぬ程に、小さく溜息を吐いた。



雅耶達の家の方面との分かれ道に差し掛かると、夏樹は二人を振り返った。

「それじゃあ、私はこっちなので…。さようなら」

薫に説明をするように挨拶をして、軽く頭を下げた。

「えっ?そうなの?気を付けてね」

二人が幼馴染みだと聞いて、帰る方向が同じだと思っていたらしい薫は、一瞬驚いた表情を見せて立ち止まっていたが慌てて手を振った。

その隣で一緒に歩みを止めている雅耶にも挨拶をする。

「じゃあ、またね。雅耶…」

軽く手を上げて、そのまま別れようとした、その時だった。


「薫先輩。俺もこっち行くんで、また…」


そう言って、雅耶は夏樹の横へと並び立った。

(雅耶…?)

その思わぬ行動に驚きを隠せず、夏樹は横にいる雅耶を見上げた。



「…どうして…?」

「何が?」

薫と別れてから暫く無言で歩いていた二人だったが、その沈黙を先に破ったのは夏樹だった。

「別に気を使わなくても良いのに…」


無表情で前を向いたまま話す夏樹からは、感情を読み取ることが出来ない。

その横顔は、相変わらず凛としていて綺麗だったけれど、そんな風に感情を隠してしまうと、再会したばかりの頃の入学当時の『冬樹』を思い起こさせる。

「別に気を使ってる訳じゃないよ。ただ、俺がお前と帰りたかっただけなんだけど…」

「………」

夏樹は前を向いたままだ。

「今日は、まさか薫先輩に会うなんて思わなくてさ…。ついつい懐かしくて話し込んじゃったけど…」

「………」

「――薫先輩とずっと話してたこと、…怒ってるのか?」

表情を窺うように覗き込むと、夏樹は足を止めた。

「…そんなの、怒る理由にもならないだろ?懐かしい先輩と会って、会話が弾むのは当然のことだ。何もおかしくない…。それをオレが怒ってたってしょうがないだろう?」


『言葉遣いが戻ってる』…というツッコミが一瞬頭をぎったが、戸惑うように見上げてくる夏樹の視線に、雅耶は言葉を飲み込んだ。




『薫先輩とずっと話してたこと、…怒ってるのか?』

その、雅耶の言葉に…。


思いのほか戸惑っている自分がいた。

『怒る理由にもならない』

『怒ってたってしょうがない』

そう自分で言いつつも。

(…それなら、このモヤモヤは何なんだ?)

自問自答をする。


(――あの早乙女さんと雅耶が知り合いだと知って驚いた)

世の中は狭い。本当にそれに尽きると思う。


(二人がとても親し気で、過去の共通の話題で盛り上がっていて楽しそうだった)

羨ましくない…と言えば、嘘になる。

自分の知らない出来事。人。その話題…。

でも、自分のいない過去なのだから仕方ない。


(綺麗な早乙女さんと、雅耶が笑顔で見つめ合うのが…?)

自分とは全然違う、憧れさえも抱かせる綺麗な彼女。

その隣で笑顔を浮かべる雅耶。


それは、自分が入り込むことの出来ない世界のようで…。

何だかよく分からないけど、モヤモヤして――…。



「…夏樹?」


「……っ!」

思わず、考えにふけってしまっていたようだ。

雅耶が視線を合わせて覗き込んでくる。

「…ごめ…ん。何でも、ない…」

夏樹は立ち止まっていた足を、ゆっくり前へと進めた。

すると、未だ立ち止まったままの雅耶が口を開いた。


「なぁんだ。ヤキモチ妬いてくれたんじゃないのか…」


口調は明るいが、ガッカリしたようにそんなことを言う雅耶に、夏樹は驚いて足を止めると振り返った。

「ヤキモチ…?……何で…?ヤキモチなんて、良いことないだろう?」


そう言いつつも、解ってしまった。

楽しそうに笑い合う早乙女さんと雅耶を見て、落ち着かない、モヤモヤした気持ち。


過去を一緒に共有出来ない、疎外感からなのだと思っていた。

(――でも、違う…)


自分のこの気持ちは…。

これこそが『ヤキモチ』なのだ、と。


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