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プリズム!  作者: 龍野ゆうき
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15/40

‐2‐ 意外な来店客

――放課後。


今日はバイトに入る為、夏樹は『Cafe & Bar ROCO』に向かって駅前裏通りを歩いていた。

端から見ても分からない程度ではあるが、その足取りはどこか軽い。

今日、愛美に過去の全てを話せたことで、夏樹の中では何処か気持ちが軽くなったような、そんな気がしていた。

そして今日は、それ以外にももう一つ嬉しいことがあったのだ。


帰り際に珍しくメールが届いていることに気が付いた夏樹は、それを開いて思わず表情を緩ませた。


(――雅耶からだ。…珍しいな)


そこには『今日部活帰りにROCOへ寄るね』と、短く書いてあった。

雅耶と会えるのは随分と久し振りで、夏樹は嬉しくなった。


時々、夜に電話を貰ったりして、いくらか近況を話したりはしているのだが、なかなかお互いに会う時間を作れないでいるのが現状で。

本当なら会いたければ、少しでも会いに行けばいい…と、思うのに。

家も近いのだから、いつだって会いに行ける距離なのに。

なかなかそれを出来ないでいる自分。


(…だって、改まって会いに行って、何を話したらいいかなんて分からない…)


それに最近、雅耶は忙しそうで…。

大した用事もないのに会いに行って、迷惑を掛けたくはなくて…。

同じ学校へ通っていた頃は、そんな意識なんかしなくても良かったのに、何でこんなに臆病になってしまうのか自分でもよく解らなかった。

でも、だからこそ…。

雅耶が今日、お店に顔を出してくれると聞いて嬉しかった。

例えそれが、直純先生への用の『ついで』とかであったとしても――…。


「………」


(…何で、こんなにマイナス思考になっちゃうんだろ…。なんか、イヤだな…)

折角、雅耶と会えると思って嬉しい気持ちでいたのに、だんだんと気持ちが沈んでゆく。

夏樹は歩きながら小さくため息を吐いた。




夏樹が仕事に入って約二時間程が経過した頃。

そろそろ雅耶が来る頃かな…?と思っていた所に、意外なお客がやって来た。


来客を知らせるベルがカラン…と音を立てて、店の扉が開く。

「いらっしゃいませーっ」

テーブル席からグラス類を下げて来ていた夏樹は、遠目に入店してきた人数をさっと確認すると、トレーをカウンター横へと運び置き「お客様1名様ですか?」と、すぐに対応した。

だが、客の顔を確認するや否や、はた…と動きを止めてしまう。

そこには見慣れた制服を身に纏った少女が一人立っていたのだ。


「あ…早乙女…さん?」

「あら?あなたは――…」


そこにいたのは、成桜女学園の生徒皆の憧れの存在である生徒会長だった。

「確か野崎さん、だったわよね?あなた、このお店でアルバイトしているの?」

「あ…ハイ…」

驚いたような表情を見せている彼女に。


(…あれ…?成桜って、バイト禁止じゃなかったよな?)


一瞬、そんな不安が頭をぎる。

彼女は生徒会長だ。

もしも、バイト禁止の校則があるとすれば、どんな理由があろうとも学校内の風紀を乱す者に対して、きっと厳しく取り締まるだろう。

だが、その点に関して特にそれ以上触れて来なかったので、夏樹は内心でホッとしていた。

そんな時、後ろから声が掛かった。

「おっ?薫じゃないかっ。久し振りだなぁー」

「あっ直純先生、ご無沙汰しています」


(…直純先生の…知り合いなのか…?)


きょとんとしている夏樹に気付いた直純が、「夏樹、良いよ。ありがとう」と、軽く手を上げて案内をしないで良いことを告げてくる。

「あ、はい」

小さく頭を下げると、夏樹は自分の持ち場へと戻って行った。

「薫、こっちへどうぞ。よく来てくれたな」

直純先生は、早乙女さんを目の前のカウンターへと案内した。



「素敵なお店ですねー。お店オープンするって聞いて、ずっと来たいなって思ってたんですけど、なかなか来れなくて。今頃すみませんっ」

カウンターの席から店内を見渡していた薫は、直純に向き直ると肩をすくめて笑った。

そんな仕草も綺麗で、作業の手を動かしながらも夏樹は気になって、ついつい視線が彼女へと向かってしまう。

「いや、来てくれて嬉しいよ」

直純は、とても嬉しそうだ。

「でも、驚いたわ。野崎さんが直純先生のお店でアルバイトしてたなんて…。凄い偶然よね?」

突然話を振られ、夏樹は内心で慌てながらもゆっくりと頷いた。

「…そうですね」

そんな二人の様子を見て、直純は首を傾げた。

「何…?二人とも知り合い?そう言えば、その制服って…」

どうやら、夏樹が普段着ている制服と同じだということに気付いたらしい。

「そう、彼女とは同じ学校なの。ねっ?」

キラキラした笑顔で同意を求められて、夏樹は「ハイ」と小さく頷いた。


(直純先生を『先生』って呼んでるってことは、もしかして早乙女さんも空手をやってたりするのかな…?)


片付けの手を動かしながら、そんなことを考える。

「そうかー。お前、成桜行ったんだっけかー。でも薫は今二年生だろう?学年違うのに交流とかあるもんなのか?」

「ふふっ…彼女ね、成桜では注目の的の『噂の転入生』なのよー」

その言い回しに、直純が何かを心配したのかこっちに視線を寄こした。

話しの流れからして、痴漢を撃退したことで多くの部からスカウトが来ていたことを暴露されるのだと気付いた夏樹は、何となくその場には居たたまれず、水の入ったピッチャーを手にそそくさとホールへ足を運んだ。


そんな様子を横目で見ていた直純は、薫から語られる夏樹の武勇伝に、思わずクスッと優しい笑みをこぼすのだった。


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