‐1‐ 『少年』から『少女』へ
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。
入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。
だが、八年前。
兄と入れ替わっている間に、両親と兄が事故に遭い行方不明に。
夏樹は、その事故を境に兄に代わり男として生きていくことになってしまう。
家族を失い『冬樹』として八年の年月を過ごしてきた夏樹だったが、ある事件に巻き込まれ、色々あって…以下省略!
そう!無事『夏樹』に戻ることが出来たのである。
そうして、始まる新しい生活。
でも…。
どうしよう…。
女の子って、ムズかしい…。
連載していた『ツインクロス』が無事完結したのは良いものの…。
終わってしまったら、何だか寂しくなってしまい…。
ついつい、続編などに手を伸ばしてしまいました。(苦笑)
あらすじにも書かせていただいた通り、本編を読んでなくても分かる内容になっていますので、はじめましての方も気軽に読んでいただけると嬉しいです。
気長にゆっくり更新して行こうと思ってますので、どうぞよろしくお願いいたします。
おしゃれや可愛いものの話。
好きな男の子のことや美味しいスイーツの話。
そんな様々な話題で盛り上がっている、ふわふわキラキラした同年代の女の子達が可愛らしくて…少し、羨ましかった。
自分には、ないもの。
きっと、ずっと…
自分には縁のないものだと思ってた…。
「む…ムリ…。こんな短いの、有り得ないよっ」
真新しい制服に身を包みながら、スカートの丈を気にする少女。
その様子は端から見れば初々しく、とても愛らしい。
その制服は私立女子高の制服で、地元では可愛いと評判のデザインだった。
濃紺のブレザーは、縁に白いラインが入っていて、左胸ポケットにはお洒落なエンブレム入り。膝上より若干短めのプリーツスカートは、赤ベースのチェック柄で、同系色のリボンが襟元を飾っている。
ある意味、とても女の子っぽい制服ではあるが、その目の前の少女に、とても似合っていると清香は思った。
「そう?すごく似合ってるわよ?」
思うままに感想を口にするが、少女はスカートの違和感が消えないようだ。
「何か、足がスース―するっ」
そんなことを言って恥らっている様子は、まるで男子に女装させてスカートを穿かせた時の反応と同じだと、清香は心の中で苦笑した。
浅木清香は、私立成蘭高等学校の養護教諭…いわゆる保健の先生をしている。
成蘭高校は男子校なのだが、学祭の時に何かの企画で女装している男子生徒を多々見たことがあり、その時の生徒達の反応が、まさにこんな感じだった。
だが、それは仕方のないことなのかも…と、清香は思う。
何故なら…この目の前の少女は、訳あって小学二年生の頃から八年間、ずっと男として過ごして来たのだ。
「それを着て明日から新しい学校へ通うのね…。大丈夫。すぐ慣れるわよっ。もう正体を偽る必要はないんだもの。そのままの貴方で良いのよ。頑張ってね!」
「清香先生…。…うん、ありがとう…」
少女は、はにかみながらも笑顔を浮かべた。
そう、清香のことを『先生』と呼ぶ、この少女…野崎夏樹は、つい先日までその成蘭高校の生徒だったのである。
彼女は特異な経歴の持ち主だった。
夏樹には、冬樹という双子の兄がいる。
二人は、二卵性双生児でありながら親も間違える程、そっくりな双子だった。
よくお互いに入れ替わって遊んだり、時には悪戯をしたり…。
とても仲の良い兄妹だった。
だが、そんな彼らが小学二年生の頃。ある事故が起きた。
両親と夏樹の乗った車が、崖から海へと転落したのだ。
そして、その場所の地形や天候などの不運が重なり、三人は行方不明のまま捜索は打ち切られてしまうのだった。
家族を失い、一人ぼっちになってしまった冬樹…。
だが、その冬樹こそが、事前に入れ替わっていた夏樹本人だったのである。
その事実を誰にも言えず、誰にも気付かれることなく、夏樹は兄が見つかることを信じて『冬樹』を演じたまま過ごしていく。
そして、無情にもそのまま八年という年月が経過してしまうのだった。
そうして『少年』は、高校生へと成長し…。
そして、男子校である成蘭高等学校へと入学したことで、保健医の清香と出会うことになる。
その後、ある事件に巻き込まれたり、様々な出来事が夏樹扮する冬樹の身に襲い掛かるが、ある時事態は思わぬ急展開を迎えた。
何と、兄の冬樹が生きていたのだ。
そこを語るには、様々なドラマがありすぎて(?)簡単には説明しきれないのだが、兎にも角にも、夏樹は無事に『少年』から『少女』へと戻ることが出来たのである。
そして、とうとう明日は…夏樹として、新たな学校生活がスタートする。
私立成桜女学園高等学校へと、転入することが決まったのだ。
成桜女学園は、その名の通り女子校である。
男子校から女子校へ…。
その大きな環境の違いに多少の不安はあるものの、夏樹が何よりも心配なのは自分自身のことだった。
自分が女の子として果たして上手くやっていけるのかどうか…。
それこそが、一番の問題点であり不安要素だった。
夏樹が以前『冬樹』であった時に、何故敢えて危険度が増す男子校を選んだのかというと、その理由は『女子がいないから』で。
同年代の女子を見ているのが辛くて、関わることから逃げたのだ。
『もしも、自分が夏樹のままだったなら…?』
そんなことを少しでも考えてしまう自分が許せなかった。
彼女達の中に『夏樹』の影がチラつくのが苦痛だったのだ。
それは、女の子達に対する憧れもきっとあったのだと思う。
その中に入ることが出来ない自分を切り捨てる為に…。
憧れをも断ち切るように、自ら男子校を選んだ。
だが、実際に戻れることになるなど想定していなかった…というのが本音で…。
行動も、言葉遣いも、何もかもが男そのものの自分。
以前より少しだけ髪は伸びたけれど、どうしても『冬樹』の時の自分と何かが変わったとは思えなかった。
鏡に映る自分の制服姿を眺めながら、夏樹は小さく溜息を吐いた。
(…何か、やっぱり女装してる気分…)
どうしても見慣れない自分のスカート姿に、恥ずかしさを通り越して気持ち悪さしか感じない。
(最近よく、ニューハーフの人とかがテレビでバリバリのミニとか着こなしてるの見るけど、実際男として生まれて育ってきて、よく普通に着れるよな…)
それこそ尊敬に値すると思った。
鏡の前で本気で肩を落としている夏樹に、清香は苦笑した。
「また…何かマイナスなこと考えてるわね?何か不安があるなら相談に乗るわよ?」
「う…ん。とりあえず、大丈夫…。こればっかりは、もう慣れるしかないしね…」
鏡の中の自分から目を逸らすと、夏樹は後ろにいる清香を振り返った。
「折角の日曜日なのに、わざわざ来てくれてありがと、清香先生…。先生に見て貰ったお陰で、少しだけ不安も解消された気がするよ」
自分だけでは、どこか変じゃないか…?と不安で、明日の朝家を出るのを躊躇していたかも知れない。
「そう?お役に立てたなら良かったわ」
優しい笑顔で見守ってくれている清香に、夏樹は微笑みを浮かべると、
「ごめんね、先生。今お茶入れるから、ちょっと待ってて」
そう言って、とりあえず着てみた制服を慌てて着替えに掛かった。




