奇病は気からではない
季節を問わず眠気と戦っている。いつも眠ってしまわないかと思いびくびくしているのだ。特に布団を覆いかぶり横になるのは危険すぎる。寒くてもタオルケットしか使わないので掛け布団の感触を忘れてしまった。
目覚め続けるには体を温めないに尽きる。眠って死にそうになってからかれこれ3年になるのだ。今は眠気に慣れて眠らなくても苦にならない体質に近づいた。眠りで無駄な時間を作り出していると思いつつ、眠っていたことを思うと1日8時間の睡眠が愛おしくなる。
横になって眠りに落ちて心地よく寝息を立てる、夜が明ければ遠くの養鶏場から元気のいい鶏たちのコケコッコーが聞こえるのだ。毎日、鶏たちに起こしてもらう自然の目覚め。今は眠ると死んでしまう奇病と仲良しになった。異常というものも日々、繰り返していくと普通になるのが実感できる。奇病は単なる健康なる病原菌であると思えるなら、サナエが質の悪い病気にかかっていると思う。
サナエは僕の眠ると死にそうになる奇病のことをケラケラと笑い言う。
「ハルオっていったいいつ寝てるの? そんな冗談を言っても通用しないからね」と。
僕はすかさず言った。
「死ぬことは寝ること。つまり自殺を意味している。常に死がつきまとっているから緊張感があるのだ。サナエには分からないさ」
とっくにサナエはハルオの主たる死生観の過ちに気づいていた。急にサナエは真顔になり、ハルオに言うのである。
「誰もが生と死に向き合いながら生きている。ハルオは意識を集中して睡魔を呼び起こすだけで死ねる。命の尊さも半端ないのにいとも簡単に死ねる矛盾。よく考えてみれば意識を自らの動作に置き換えて、自殺をすればいい。ハルオのバカ」
今までの奇病が思い込みであったとハルオが思った瞬間、ハルオが死んでしまった。
「ハルオ、おやすみ。良い思い出をありがとう」とサナエは優しく微笑む。