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03

 20時38分、帰宅時のこと。

 敷地外まであとおよそ30メートルほど、という地点で3人に襲われた。

 これも想定内ではあった、私は左に大きく2メートル以上跳び、植え込みの中にもぐりこんだ。

 すぐ脇、スズカケの幹に細みのナイフが突き刺さる、二本、三本。

 生命を狙っているとは微妙に言い難い短い刃渡り、しかしこんなものがまともに当たったらいくらタフな私でも肉体的ダメージは相当なものであろう。

 バイタルデータは、心拍数などの変動だけでなく、出血などの外科的変化にも対応している。襲撃による出血、嘔吐などに伴う体液他の放出、その場合は、私の『敗北宣言』は無くともすぐに私の負けが判定されてしまう。

 心拍数は訓練により数秒で下がる、私はつとめて冷静に状況を把握すべく、かけている眼鏡をすぐさま赤外線対応のものに替える。

 暗がりの中に3つの影。次は鼻をきかせる、1人は先日課題遂行に失敗した細江田理紗、相変わらずバラ科の植物の花が匂う、夜道で人を襲うのならば絶対に犯してはならないセオリーだ、香りを身にまとうべからず。

 もう一人も女子、02番芥川芳子、小柄な学生で、こちらからは臭いはしない、成績も細江田以上に優秀、しかし体温が高いので把握は簡単だった。

 三人目は男子、15水無月ガブリエル俊介、ハーフの学生で上背がある。体温もかなり低く、しかも音を立てずに歩くプロだ、進級当初から気をつけていた学生の1人だった。

 この三人とはまともにやり合いたくない。私は『ロープ』、すなわち学外に逃げる道を選択した。学外に逃げたとしても、教授側に減点がないのが私には有利である。

 しかも、早く家に帰って風呂を浴びたく感じていた。私は隙をみて

「!!」前方の通用門に向かってダッシュ。言っておくが私は短距離とも長距離とも得意だ。

「教授が逃げたぞ!」水無月の押し殺した声、「ナイフを!」

 声とほぼ同時に空気を切り裂く音が耳元に響く、とんでもない数のナイフが私めがけて飛んできたようだ、よけきれるか? 最後、ダイブするよう大きく門扉外の階段下に身を投げ出し、そのまま前に転がる、そしてもう一回転、一般道へとまろび出た。

「諸君、判定を下しましょう」

 何とか立ち上がり、私はまだ構内に呆然と立ち尽くす三人に向かって言った。

「02番芥川君、合格。あなたの二投目が左太ももをかすりました」ひっ、と息を呑みながらも芥川、「あ、ありがとうございます」と上ずった声で言い、歓声ともとれるため息をついた。ほんのかすり傷だが、私相手にまあよくやったと言ってよいだろう。

「09番細江田理紗君」細江田がごくりとつばを飲んだのが聞こえた。

「合格。最後の一投が背中に刺さって抜けませんので」

 刺さりっ放しなので出血はしていない、しかしこれはかなり大目に見てやった。

 前回敗北の屈辱を味わった彼女も、震える声で感謝の意を述べる。

「先生!」水無月が叫ぶ。「僕のは刺さっていませんか?」

「15番・水無月君、残念ながら」私は右肩近くから一本を抜きながら答えた。

「肩を傷つけましたが、これは私が学外に出てから刺さったものです、よって課題は不可」

 がーん、感情も交えずそうつぶやいた水無月に、私は珍しく一言だけ

「今後の健闘を祈ります」


 そう告げた、その瞬間。


 がすっ、と激しい衝撃を道路下手側から喰らう、歩道に立っていたはずなのに、なぜか突っ込んできた原付に思い切り撥ねられたのだ。

 意識を失う瞬間、声が耳に入った。「ご、ごめんなさいもしかしてカンザキ先生? うっわ、どーしよごめんなさいすみませんバイトに行く途中だったんですうぅぅスリップしちゃって」

 この声に聞き覚えがある、受講生の中でも寄り抜きの問題児、ドジっ子グランプリと折り紙付きの18番・南奈美恵だった。

 あちゃ~ミナミンまたやっちまったよー、と水無月が走ってくる足音、アタシ救急車呼ぶ! と叫ぶ芥川の声等がだんだんと遠くなっていく。


 そうして、私は講義以外の不慮の事故でそこから半月以上入院を余儀なくされたのであった。

 もちろん、南をそんなことで合格にするはずは、ない。決して。


 看護師は私が搬送時うなされていたと言う、

「学外だ、学外、卑怯だぞコムスメ」

 と。そんなことはない、決して。


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