表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

1

1


  視線を感じる。遠くから、近くから。わたしは振り返る。だけどそこには何もない。

  誰もいない。なのに感じる。見られている。

  ……誰だ。

 わたしは走る。上も下もない空間をねとつく視線から逃れようと走る。だけどそれは振り返ると必ずある月のように、人形に絡む糸のように、纏わりついてきて離れない。

 見られている。

 見られている。見られている。

 わたしは走り続ける。闇はどこまでも深く、終わりが見えない。

 息が切れてくる。足がもつれる。限界はとっくに超えていた。それでも止まれない。止まってはいけない。捕まってしまうから。

  それともわたしはとっくに蜘蛛の糸に絡まっているのだろうか。

  知らない内に、餌になっていたのだろうか……。



…………………………………………………


  目覚まし時計の音で目が覚めた。どこかでおばさんの声が響いている。だるい体を持ち上げて時間を見た。

 …7時半。

  眠気が一気に吹き飛び、わたしは飛び起きた。寝過ごした。

 慌てて階下に下りると葉月が出て行くところだった。中学のジャージを着て、生意気にもこちらを見て顔をしかめる。

 「ばたばたうるさいんだよ」

 「寝過ごしたの!」

 「おれより早く寝てるくせに何やってんだ」

 「うるさい。早く行きなさい」

 そう言い返すが、実際葉月の言う通りだった。最近妙な夢ばかり見ていて、わたしは寝不足だったのだ。だから昨日は早くベッドに入ったのに、結局寝坊してしまっては元も子もない。

  ばーか、と葉月は笑いさっさと出て行った。陸上部の朝練があるのだ。それを見送る余裕が無論わたしにあるはずもなく、ドアが閉まるのを待たずにキッチンに駆け込む。

 「ああ、やっと起きた。声かけても全然反応がないから、どうしたのかと思ったわ」

 「うそ、わたしそんなに寝てた?」

 「最近ずっとそうじゃない。夜更かししてるんでしょう」

 言いながら、おばさんが弁当を渡してくれる。まさか夢のことを話すわけにもいかないので、曖昧にごまかして笑う。

  ……ああ、もう、行かなくちゃ。

 どたばた一二階を行き来し、最後に和室に置かれた位牌に手を合わせる。ここ数年欠かしたことのない習慣。

 「行ってきます!」

 「はーい、行ってらっしゃい」

 声の主はもちろんおばさんだ。わたしたち姉弟には両親がいない。今のところは叔父叔母夫婦の養子という形で籍を入れている。外に出ると、煮え切らない曇り空が目についた。昨晩の雨でアスファルトの地面が濡れている。

  わたしは走る。いつものように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ