売り物
「本当にこの値段で売ってくださるのですね?」
俺はその問いに首を縦に振る。肯定の合図だ。
「ありがとうございます。こんな安価で譲ってくださるとは思っていなかったです」
楽しそうに笑う男。
俺は、動物を保護しそれをそのまま他人に売るという仕事―実際には両親が死んでしまって引き取る場合が多いのだが―をしている。
そんな言い方をしてしまうと俺が聖人君子のように慈愛に満ちた人間だと思われてしまって恐縮だが、実際はただそれが儲りそうだと思っただけである。
それに、世の中はリサイクルだ。用の無いと思われ殺されるだけの動物なら俺が保護し売った方が世のためになるのではないか、とも考えたからだ。
実際、今のように商談が決まったときの客の笑顔を見れるのは悪くない―と俺は思う。
「他の業者で買うとこの十倍以上の値段はする。こんな安価でやっていけるのですか?」
俺はその問いに、少し申し訳無さそうな顔をして答える。
「他の業者さんは動物の手入れや躾が行き届いていますからね。私の方の動物は如何せん保護してきたばかりなので躾はセルフサービスになります」
「セルフサービスか。面白いことを言うね。よし、じゃあもう一人買っちゃおうかな」
「ありがとうございます」
俺はその言葉に笑顔で対処し、店の奥から『商品』を取り出す。
「では、こちら雄の七歳、××万円でございます」
「やはり安いな。良心的で助かるよ」
「いえいえ。世の中リサイクルですから」
「あ、それと少し疑問に思ったのだが」
「ええ、可能な範囲で答えましょう。何ですか?」
「なぜ、貴方は『これ』を動物扱いするのです?」
なんだそんな事か、と心底くだらなく思いながら、義務的に俺は言う。
「内紛で親も死に、道端で人々に物乞いをし、汚物に塗れたパンを食う、」
そこで俺は言葉を一旦区切り、『それ』を指差して言った。
「そんなのが、私と同じ血の通った人間だと思いたくないからですよ」
人身売買の話。
『商品』とは人間の事。