男「俺の自転車が重い」女霊「当然じゃん。私が荷台に座ってるんだから」
会話文だけのSSを書いて見たかったのだ。
男「さて、と。今日も無事に全授業を終えたので、帰りますか」
男「毎日時間に縛られている電車通の奴らとかには悪いけど、」
男「自由な時間に帰れて好き勝手移動できる自転車下校組の俺は激しく勝ち組だ」
男「この蒸し暑い季節、自転車で風を切っている時は何とも言えない爽快感を味わえる」
男「っと、あれ?」
男「自転車を漕ぐのが辛いぞ」
男「自転車が重い。故障したのかな。」
男「まぁ無理もないか。高校入学と共に購入し、それから二年半毎日のように酷使させてたもんな」
男「それにしても間が悪い。あと数ヶ月で卒業するのに今壊れるなんて」
男「どれどれ、チェーンがバカになってるのかな」
男「?」
男「何も異常はないな」
男「見た限りどこも故障してない。それどころかまだまだ現役、って感じだ」
?「なにしてるんですか?」
男「え? ああ、ちょっと自転車の様子を見てただけです」
?「そうですか。自転車なら大丈夫ですから早く乗ってください」
男「え、誰なんですあなたは」
女霊「地縛霊です」
男「地縛霊?」
女霊「うん。地縛霊。地に縛られている幽霊と書くのだ」
男「この人頭打ったのかな」
女霊「聞こえてるぞ少年よ」
男「突然私は地縛霊です、って言われても」
女霊「あ、証拠とか見たい?」
男「ぜひ」
女霊「えいっ」
男「あ、消えた」
女霊「お分かりいただけただろうかー」
男「まじかよ」
男「そういえば」
女霊「うん?」
男「地縛霊っていいましたけど、どの場所に縛られているんですか?」
女霊「ああ、言ってなかったね」
男「やっぱりこの道路?」
女霊「君の自転車の荷台」
男「はい?」
女霊「君の自転車の荷台」
男「だから異様に自転車漕ぐのが重かったんですね」
女霊「実質二人乗りだからね。あと重いとか言うな。呪うぞ」
男「え、シャレにならない怖い」
女霊「いいから自転車に乗れ!」
男「なんか俺も普通に受け入れちゃいましたけど、」
女霊「だよね。適応力高いなって思った」
男「なんで自転車の荷台になんか取り憑いてるんですか」
女霊「だよね。私もそれ不思議なの」
男「わかんねえのかよ」
女霊「うん。多分どうでもいい理由だと思うよ。たまたま通りかかったからとか」
男「そんな理由で」
女霊「ほら、ちゃんと前を向きなさい。自転車を漕いで、ここから見える景色はこんなに綺麗なんだから」
男「雪も溶けたし、今日から久しぶりに自転車通学するか」
女霊「毎日のように自転車に乗って私と何処かに行ってたくせに」
男「まあね。でもお前が勝手についてくるだけだからな」
女霊「だって霊だもーん。…そういえば、さ」
男「ん?」
女霊「残り僅かの高校生活が終わって、大学に受かったらもうこの自転車には乗らないんだよね?」
男「まぁ、そういう事になるな」
女霊「そしたら、もう私と一緒に自転車乗る人はいないわけだよね」
男「…まあ、ね。お袋は乗らないし親父は車があるし」
女霊「あーあ。そしたら暇になるなー」
男「じゃあ、俺が大学に受かったらお前を成仏させてやるから」
女霊「いままで何回も試みてできなかったくせに?」
男「うん。一種の願掛けだと思っといて」
女霊「…わかった。適当に期待しておく」
男「まさか本当にあいつが荷台から消えるとは」
男「大学に受かったら本当に幽霊じゃなくなってしまった」
男「久々に帰省したものの、なんか拍子抜けだ」
?「おーい、何感傷にひたってるような顔してんのよー」
男「お前、わざわざ俺の帰省についてきて何がしたいんだ」
?「いいじゃん、これから男の嫁になるのでよろしくお願いしますって言うくらい」
男「ぜんぜんよくない。両親卒倒するからやめてくれ」
?「照れてるくせにー」
男「だいたい、そんな目的がある事も今知ったし。そろそろ家に着くんだけど」
女「はーいはい。照れ隠しは良いから前を向きなさい。ここから見える景色はこんなに綺麗なんだから。」