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おとしもの
なんかありきたりになっちゃった。
その男にあったのは、夜遅く俺が残業を終えて家路に帰っている時だった。
薄暗い路地を通る。薄汚れて街灯がちらちら点灯しているその状況は小心者の俺に恐怖を与えるのには十分であった。
こんなところは早急に走り抜けてしまわなければ。
小走りで路地の出口へと向かう。と、その時不意に後ろから声が聞こえた。
「僕の落し物を見ませんでしたか?」
男は俺にそう言って来た。もちろん俺はこの男に面識など無いし、そもそも何を落としたのかすら分からない、何よりこの男の存在に心底驚き簡単にいうとビビってしまった為、いいえとそっけなく応える他なかった。
「そうですか…」
暗くて表情がうまく読み取れなかったが、その声は落胆を隠しきれないようだった。そんなに大切な物を無くしたのだろうか。
「一体、何を落としたのですか?」
そう聞くと、男はこの薄暗い路地でもはっきりわかるくらいの微笑みを見せて俺に言った。
「僕は、昨日ここで命を落としたんです」