第十四章
神津はあの日以来、口数がめっぽう減った。〝夜〟も〝夜〟で、帰ってきても自室で過ごすことが多くなった。
二人に少しずつ変化が表れ始めたのは一目瞭然だった。
しかし、その理由というものがはっきりしない。
数日たった今でも、〝夜〟も神津も、あの日のことは一切口にはしなかった。
「何かあったんですか?」
堪え切れなくなって、〝夜〟がいないところを見計らって神津に問う。
対する神津は、不気味なくらい無表情で、その表情には、喜びも、悲しみも、何もなかった。
しばらく黙った後、神津は初めて精気が宿ったような顔をした。そして、恐る恐る、といった感じで言葉を発する。
「もしかしたら、君に言ったら何とかなるかもしれない」
それは、自分に対する決意と、私に対する期待が含まれているように感じられた。
「どうしたんですか?」
私はなるべく彼を刺激しないように心掛けながら、ゆっくりと質問する。
「君は、あいつが帰ってきた夜のことを知っているか?」
「え?」
唐突な神津の質問に、私は動揺を隠せなかった。
知っている、と答えたら神津は何て言うのだろうか?
だが、それより早く、神津は言葉を発した。
「君は知らないだろうが、あいつは、ここに戻ってきてから、二度、蘭方医を呼んでいる」
「なぜですか?」
「あいつは医者嫌いだ。そんなあいつが医者に掛かる理由は一つだろう」
私の中で胸騒ぎが広がった。まるで、「胸喰」という虫が、少しずつ胸を喰らって、侵食していっている感じだ。
「まさか、〝夜〟の身に何か―?」
「さあね。僕は興味がない」
神津はきっぱりと答えた。
「なぜです?〝夜〟の事が心配じゃないんですか?」
私の問いに、神津は面白そうにこう言った。いつもの調子を取り戻しつつあるようだ。
「あいつはそう簡単に死ぬようなタマじゃないと思うけど?」
「そうですけど―」
その後も、しつこく何度も訊いたが、神津は動こうとはしなかった。それよりか、〝夜〟のこの状況を、面白がっているようにも思えた。
なぜ、神津は〝夜〟にあまり干渉しないのだろうか?