第29話 仲間はずれ
疾風視点。
時おり、無力な自分に泣きたくなる。
思えば俺は、ひとり蚊帳の外だった。
そう、いつだって。
PiPiPiPi…♪
鳴り響くのは、聞き慣れたアラーム。耳をつんざくそれに、脳が少しずつ覚めてゆく。俺は枕元にある目覚まし時計を、やや乱暴に掴み、音をとめた。
気だるい身体をゆっくりと起こし、手のなかにある時計を見る。短針は7を指していた。
「……なんで休日にこんな早く起きなきゃいけないんだ」
セットしたのは自分なのに、文句をこぼす。出てきた声は掠れていた。そういえば、喉がカラカラである。だけど動くのがひどく億劫で、俺は再び枕に顔を埋めた。
カーテンの隙間から入る陽射しが眩しい。柔らかくて、穏やかで。また眠りに誘われる。
───夢を見た。
あまりに朧げな夢。覚えていないのに、胸が哀しみと孤独感に蝕まれている。どうして、こんなにも。
「……遥、どうなったかな」
小さくこぼす。
結局昨日、彼は戻ってこなかった。追い掛けることは、しなかった。
来斗のもとに行ったのだろうか。話せただろうか。昨夜はどこで寝たのだろうか。
疑問が頭をかけめぐる。どうして朝から脳を働かせなきゃいけないんだ。
――面倒なやつら。
なんだかムカついたので、頭のなかで殴っておく。ちょっとスッキリした。
「喉痛ぇ…」
渇きを訴える喉。いつもならルームメイトに頼んで水でも持ってきた貰うが、生憎彼の姿はなかった。
――なんでいないんだよ。
理不尽な怒り。矛先はいつも相手に向かう。そう、いつだって。
(もう、縁切りだ)
病室でそれだけ言って、来斗は踵を返した。離れてゆく背中。追い掛けることも止まることも罪のよう。
(ちょっ、来斗)
(疾風、お前もそうしたほうがいいぜ)
(タケ……)
痛々しく赤い頬。包帯が巻かれた左足。理由なんて、聞かなくても分かる。
(人殺しと一緒にいたいか?しかも寄りによって親友の妹だぜ)
(殺しって、違うだろ。お前は……)
(俺のせいだよ。俺が佳奈を盾にしたんだから)
(ッ!)
そんな訳ないって、分かってたのに。タケがそんな奴じゃないと知ってたのに。
どうして俺は、気付けなかったんだろう。彼の瞳の哀しみに。
(お前は殴らないんだな。まぁ佳奈と直接的な関係はないから、それほど悲しくないか?)
(うるせぇ!)
笑うタケに感じたのは怒りだった。その神経に、多分かなりキレていたと思う。
病室から去ろうとする俺に、タケが最後に言った言葉。
(本当に、馬鹿だよお前等)
その意味を俺は掬えなかった。
何も言わない来斗。
嘘ばかりつくタケ。
二人が溺愛してた佳奈。
じゃあ俺は、なに?
俺はどこにいて、何してるんだ?
気付いてなかった孤独を知ってしまった。
俺はいつも、後ろにいた。
並んでなんかなかったんだ。
「なんで今、思い出すかな」
このせいで、今日は丸々憂鬱だ。俺は盛大なため息を吐きだす。チクショー、夢の内容もこれか?
俺は卑怯だ。だって三人バラバラになんてなっていない。二人が引き裂かれただけだ。
独りが怖くて、俺は来斗に寄りそった。タケと、距離をつくった。
あの時するべき行動は、他にあったのに。
(重さなんて関係ないよ)
そう言った遥の顔が、何故かいま脳裏に描かれる。欲しかったのは、そんな言葉だったのかもしれない。
普段こんなに頭使わないから、余計に苦しくなる。だけど、こんなにも涙腺が緩むのは
「…頭痛ぇ……」
きっと、寝起きのせいだ。
本当は知ってたんだ。気付かないふりをしていただけで