世界を滅ぼした魔法使いが、自分を殺してくれと迫ってくる!
「すみません、送っていただけないでしょうか?」
初めは、誰に話しかけているのか分からなかった。
ただの旅行者である俺が「送って欲しい」という問題を、解決できる立場に無い事は明白だ。
にも関わらず、声の方を振り向いた。
反射的に好奇心が反応したに他ならない。
そこには、女の子が浮いていた。
浮いている。
状況を確認するために、二度状況を確認した。
「私は魔法使いでして、魔力をお持ちのあなたに力を貸して頂きたいのです」
なにかの冗談だと思い、さっきまで見ていた静かな波の様子を確認してから再び視線を戻す。
過去に例がないほどの、ゆっくりとした二度見。
女の子は困り顔で、体がふわふわと浮いていた。
「可能ですか?」
耳に心地よい声と、綺麗な顔で少し上目遣いに潤んだ目で聞いてきた。
良い匂いもする。
胸は・・・まぁ、人にはそれぞれ良さがある。
「話を聞くくらいなら・・・」
女の子に頼まれて断れるほど、俺は強い男じゃなかった
なぜ浮いているか?魔法使い?そんな疑問よりも、目の前のえらく可愛い女の子に興味を持った。
退屈な旅先で、面白そうな事が起ころうとしている。
「私、ソフィアと申します。魔法使い最後の生き残りなんですが――」
「ちょっと私の居た魔法使いの世界を滅ぼしたら、この世界に飛ばされまして・・・」
「帰る場所がなくなりまして――」
「絶望したので、あの世に送っていただこうと思いまして」
正直、失敗したと思った。
容姿とその色香に惑わされ、好奇心で少しだけでも話を聞こうと思ったが、大失敗だった。
見た目は良いが、危険な匂いしかしなかった
「離せ、俺は帰らせてもらう!」
「行かないでください・・・んぎぎぎ!」
俺に抱き着いて、がっちり逃がさないように必死でしがみ付いてくる。
「話を聞いてくれるって言ったじゃないですか!」
「だから聞いた。帰らせてもらう。離せ!!」
「待って、本当に待って!!!」
「それになんか恐ろしい事を言ってなかったか!?」
「やむにやまれぬ事情があるんです!」
「薬の量は足りてるのか!?」
「話を・・・んぎぎぎ」
「専門の医師に聞いてもらえ・・・んががが!!」
「だから、話を聞いてくださいってばぁ!」
必死の攻防の末、引っかかれまくった俺の体は宙吊りになっていた。
逆さまになって。
魔法使いというのは本当らしい。
「・・・解放してくれないか?」
「解放したら逃げるじゃないですか!」
「そりゃそうだろ、なんとなくお前が悪い魔女だというのは分かった」
「世界を滅ぼしたとか言ってたしな」
「本意じゃないんです・・・」
「どっちにしろ、頭に血が上って死んでしまう。降ろしてくれ」
「逃げないでくださいよ・・・」
そう言って、女の子はしぶしぶ地面に降ろしてくれた。
やっと自由になった、はやくこの場から逃げよう。よし逃げよう。
バインド!
すかさず手足を拘束され、その反動で頭から地面に突っ伏して顔面を強打する。
「逃げないでくださいってば!!」
「おまえ、電波でメンヘラ属性に加えて束縛するヤンデレ属性もあるのか!」
「何言ってんですか・・・」
どうやっても逃げられそうにない。
俺は抵抗を諦め、彼女の話を聞くことにした。
不本意だが、話が終わらなければ解放してもらえそうになかった。
「さっき言いましたが、私は魔法使いの世界を滅ぼしました」
「でも、本意じゃなかったんです。いや、信じてください」
「しかも世界が崩壊して、この世界に飛ばされちゃって」
「帰る場所も無くなったし、途方に暮れていて」
「もう、死ぬしかないな・・・と」
話が飛躍しすぎている、なにもかもだ。
どれから反応したらいいか分からないが、とりあえず話は聞いた。
世界を滅ぼした話と自殺相談だな。
うんうん、大変だろうが頑張れよ、そして解放してくれ。
「まだです・・・魔法使いは寿命以外で、自ら死ぬことができないんです」
「魔法が使える人に殺人魔法で殺してもらうか・・・」
「魔力を持った人と、その―――」
「なんだ?」
「ちゅ、ちゅ・・・う・・・ちゅ・・・」
ちゅ?
「ちゅーをするんです」
はい?
「ちゅーをして一定量以上の魔力を注ぎ込んでもらって、爆死するんです」
「おい、ソフィアさんとやら。爆死というのは一旦置いておいて」
「その、チューというのは接吻の事か?」
「はい・・・」と顔を真っ赤にして俯く姿は、実に可愛らしかった。
「ならば、ちゅー ではなく キス と言ってもらおう」
「・・・」
「そして、はやくキスをしよう」
「悲しいが、君を送るための苦渋の決断―――」
「私、それだけは嫌なので、あなたに殺人魔法を教えます」
「へ?」
「なので、その魔法で私を殺して欲しいんです」
「よし、断る。そして帰る」
殺人犯になるのは嫌だからな。
見ず知らずの魔法使いを助けてやるほど、俺は魔法には飢えていない。
面白い旅の思い出もできた事だし、さあ帰ろう!
そうだ、拘束されているんだったな・・・。
「解け」
「嫌です」
「協力する義理がない」
「せっかく見つけた貴重な大魔力持ちなんですから、逃しません」
「おまえ、魔法使いの世界で何て呼ばれてた?」
「破滅の終焉者ソフィアです」
「・・・」
「やっぱり、悪い奴じゃないか!本意じゃなかったとか言ってたけど、キレて滅ぼしたんだろ!」
しかも、ちゅーとか言っちゃって。ガキじゃあるまいし。
「はぁぁぁ!!!?ハァ???ハァぁああ?違いますケド!?というか、あなただってさっき美少女とチューができるって知って、股間を膨らましてたでしょう!?」
「膨らましてないし、ズボンのシワですから!俺は純粋に人を助けようと!」
汚らわしい、これだから男って最低!と毒を吐きながらエンガチョしている。
さっきまでのしおらしく、恥じらう美少女はどこに行ったんだ。
潤んだ瞳で可愛かった頃の、あの美少女はどこに消えたんだ!
ふと彼女を見ると、少し様子がおかしかった。
――そこで初めて、ソフィアが笑っていないことに気付いた。
さっきまで騒いでいたのが嘘みたいに。
冗談めいた声も罵り合っておどけた顔もなく、目には涙を浮かべていた。
「・・・ほんとうにお願いです、殺人魔法で私を殺してください」
それは懇願だった。
破滅の終焉者とか、殺人魔法とか、二重人格のヤバイ女とか、全て置いといて。
切実な一人の女の子の、ありえない願いだった。
「いや・・・」
「もし、殺すのに抵抗があるなら、罪悪感が軽くなる魔法と忘却魔法もかけます」
「死後処理も必要のない、強力なとっておきの殺人魔法を教えますので・・・」
「ほんとうに待って」
「そもそも、どうしてそんなに死にたいのか聞かせてくれ」
「私はあの世界では悪い魔法使いでした・・・」
「たくさんの国を滅ぼしました」
「自分では正しい事をしていると思っていました」
「でも違ったんです」
「悪い人に洗脳されていた事に気が付いたんです」
洗脳って。つまり、ソフィアは悪くないんじゃ?
「いえ・・・私がやった事には変わりありませんから」
「自分で言うのもなんですが、元々、すごい魔法使いなんですよ。わたし」
「だから、その問題自体は自分でなんとか解決できたんです」
「でも、その頃にはもう世界中の魔法使いは私が・・・」
そんな事があったのか・・・
「当時の記憶だけは残ってますから、私は犯した罪に苦しみました」
「洗脳で操られたといっても・・・全て私の手でやった事なんです」
「だから禁断とされる、遡行魔法に手を出した」
「全部終わらせようと思ったんです」
「私が殺した人たちを・・・世界を元に戻せるかもしれないって」
「賭けたんです」
「そしたら世界が崩壊させてしまって・・・」
それで、こっちの世界に飛んできてしまった・・・という事か。
「どうしたらいいか分からなくって。もういっその事!!」
「なんというか・・・」
それからは言葉が出なかった。
洗脳されて暴れまわった挙句、気が付いたら世界が半壊。
過去を清算するにも、崩壊させてしまって戻る世界がない。
重すぎる。
ソフィアは俯いたままだ。
(世界を滅ぼした魔法使い・・・か)
目の前にいるのは、傷付いてただ途方に暮れる一人の女の子だ。
「あー・・・事情は分かった。正直信じられない所は沢山あるが、理解してやる」
「死にたいという理由も、まぁ分かった」
「もちろん、聞いてる以上に問題があるんだろうが・・・」
「正直、俺は知らん!」
「止める気も、協力する気も起きん!」
「・・・え?」
「どうしても今、ここで死にたい!というのなら」
「キスをしよう!!」
「えっと、だから、それは・・・ちょっと・・・」
「昨日は歯を磨いたか忘れたし、昼に食べたにんにくが歯の間に挟まっているんだ」
「トッピングで青のりも追加だ、取ってくれるかな?ニィーーーッ」
「ひぇっ!気持ち悪い!!近寄らないで!!!」
ロックプレス!
「ほんの少し・・・1日、いや3日待て」
埋まってしまった体がひんやりする。
地面から顔だけを出したまま、俺は宣言した。
「世界を滅ぼしたとか知らん」
「どうみても、俺には独りぼっちで苦しんでる女の子にしか見えん」
「だから―――」
「お前が抱える罪悪感に押しつぶされないよう」
「自分の気持ちに整理が付くまで」
「俺が笑わせてやる」
「すくなくとも、今のお前を放って帰れるほど薄情じゃない」
「それでも嫌になって、前向きになれないなら」
「その時は俺が殺人魔法とやらを覚えてやる」
読んで頂きありがとうざいます。




