最高の景色
陸上のあるべき 自分
いつも自分の前に人がいる練習に飽き飽きしていた。今日の練習が終わり、ヘロヘロになっているときに
「明日の試合でリレーメンバー決めるらしいよ」
「俺には縁のない話だよ」
「いや、がんばれよw」
俺はそのあとの話を聞く気にはなれなかった。マジで疲れてたからフル無視して帰った。
うちの陸上部はちょうど中堅校で部員は男子12人女子6人で、先輩に一人10秒台がいたけど、後のみんなはよくて11秒中盤ぐらいだ。
「俺はこの前のシーズンでやっとこさ12秒2だぞ、冬季もみんなよりさぼってるし無理にきまってんだろ…」俺はあぜ道を歩きながらぶつぶつと文句を垂れた。俺だって最初は自分が出来ると思っていたよ。
どこかのオリンピックで日本がアメリカから逃げ切り、銀メダルを取っていた。今では快挙だし素直にすごいと思う。でも、幼かった俺はお金もらってスポーツしてるんだったら金メダルじゃなきゃダメでしょ、とアホをいっていた。中学生になる時には俺が世界を相手に勝つのだと本気で思っていた。だけど部活の初めの練習で本物をみた。ああいうのが世界と戦うんだろうなと、ここであきらめてたらどれだけ楽だったんだろうか。「自分には才能があるのだと」考えていたかった、毎日すがりついたけど、ついていけばいくほど差を感じた。俺が中学二年生になる時には本物と100メートルのベストには2秒も差がついていた。
「あぁ無理だ、やめたい」何度この言葉をつぶやいただろうか。スマホを開く数より多いと思う。だけどここでやめたら今までの頑張りは何だったのか、どうして陸上を始めたのかが脳裏にちらつく。諦めきれない自分がずっと隅っこにいた、”もしかしたら”を考えたかったからだ。
そんなあいまいな気持ちで高校でも陸上をしてしまった。そこに本物はいなかったけど努力家がいた。陸上が大好きなのが会話から感じる程だからマジで異常だと思った。高校で急に自分の才能が開花してタイムがぶちあがるなんてこともなく、俺の100mはのんびり屋だ。そんな事を忘れかけている自分は明日の試合の準備をした。
夜の10時頃には布団に入りながら、アニメを見て眠った。
「試合だ」ため息交じりにいいながら、スタンドに上った。みんなの顔がちょっと怖かったのはきっとリレーメンバーを決めるからだろう。僕はそそくさとアップを始めた。その時に、中学校の頃にいた本物が話しかけに来てくれた。
「ひさしぶり!お前なかなか試合で見ないから陸上やめたのかと思ったよ」
俺は苦笑いをしながら答える
「ずるずる続けてるだけだよ」ちょっと気まずい空気になり、適当に理由をつけてその場を離れた。
アップも終わり招集に行き、コールを待つ。俺の高校のみんなは好タイムの連発で、ちょっと胸がきゅっとなった。心臓で何も聞こえない時間が一生に思うほどに長く続いているときに、また本物が話しかけてきた。
「これからだろ?がんばれよ、俺はタイム終わってたから仇取ってくれよw」
俺は反射で聞いた
「何秒?」
気まずそうにしながら答えてくれた。
「11.0だったよ。初戦は10秒だしときたかったわw。」
「それだけはやけら、気楽でいられるだろうな」と心で思ったつもりだった。
「なんだよそれ。ろくに頑張ってないのに気楽とかないだろ」
初めて怒らせた、地雷を無意識に踏んでしまったようだ。だけどその言葉は俺にとっての地雷であった。
「俺の頑張りを知らないでそんな知ってる気で言うなよ」気分は最悪だ。すこし見返してやりたいとミジンコほど思った。
タイムは一応自己ベストだった。なにか心に残るものがあるけど俺は終わった。どうせ今シーズンの公式試合は出られないし、友達の3000をみて帰ろう。
学校でのミーティングでリレーメンバーの発表があった、もちろん補欠にすら入れていない。
家に帰ってからマネージャーがとってくれた自分の動画を見ると、スマホが濡れ始めた。
「やっぱり悔しい」とかすれた声で言う。遅いのは自分が悪いのに他人のせいにして、練習もさぼって、タイムが出なくて悔しい。なんて傲慢なのだろうか。でも明確に自分の思いに決心がついた。
「変わりたい」
高校3年生の引退試合、俺は3走を走った。結局10秒台にすら届かなかったけれど、本気で陸上をやれた気がする。リレーでは準決勝で敗退してしまった。みんなで泣きながらありがとうを言い合った。
これが僕にとっての”最高の景色”だと気づかせてくれた
~Fin~




