episode3
中庭を出たあと、俺と百合川は、ほとんど言葉を交わさずに校舎へ戻った。
昼休みの終わりを告げるチャイムが、遠くで鳴っている。
(……何してんだ、俺)
百合川と並んで歩いているだけで、胸の奥がざわつく。
ただ、誰かと一緒に並んで歩いているという事実が、こんなにも居心地が悪い。
竹本や他の人には感じたことのない、なんともいえない違和感がそこにはあった。
教室に入ると、さっきの騒ぎが嘘だったように、みんな何事もなかったように座っていた。
とは言っても、視線はチラチラと百合川を追っている…気がする。
百合川は、自分の席に静かに座る。
俺も、何事もなかったように席に着く。
竹本がこっそり振り向いた。
「大丈夫だったか?」
「……ああ」
「百合川、泣いてなかった?」
「……ああ」
「そっか!ならよかった!お前があんなんするの珍しーからびっくりしたわー」
竹本がニヤニヤしていたが、俺は知らん顔して机に顔を突っ伏した。
授業が始まり教師の声が聞こえるが、俺の意識は、百合川の背中に向いていた。
(……なんで、気になる)
ーー放課後。
帰り支度をしていると、百合川が、少しだけこちらを見た。
目が合う。
「……あの」
「なんだ?」
「……さっきの場所……」
百合川の視線が泳ぎ、一瞬だけためらうのがわかった。
「……また、行っても……いい?」
「……」
(ダメだ)
そう言いたい。ーー本当は。
それなのに。
「……勝手にしろ」
口から出たのは、それだけだった。
百合川は、少しだけ笑った。
「……ありがとう」
***
なんともいえない空気が流れているところに、明るい声が飛んできた。
「おーい!俺部活行くけど、下駄箱まで一緒に行こうぜー!」
ーー竹本だ。
竹本は、三年生が引退してから、サッカー部の主将をしている。
(こんな能天気なやつが主将だなんて大丈夫なんだろうか)と思うが、
実はコイツ、サッカーの才能はめちゃくちゃあるらしく、すでに大学からも声がかかっているんだそうだ。
しかも、部活中は別人のように真剣なんだとか。そのギャップが、コイツの良さだったりもする。
「ああ」
「百合川も一緒に行こうぜー!」
「……え、いいの?」
「いや、逆になんでダメなんだよw」
そう言って竹本が笑うと、百合川は嬉しそうにしていた。
「じゃあ、俺部活行ってくるわー!二人とも、また明日なー!」
竹本は嵐のように去っていった。
「…ごめんな、なんかあいつ騒がしくて」
俺は(なんで俺が謝ってるんだ)と思いながらも、謝る。
「……ううん。すごく明るくていい人だね」
百合川は優しく微笑んだ。
「ああ、いいやつではあるよ」
そう、竹本は本当にいいやつだ。
あの時だってーー。
「……どうかした?」
俺がぼーっとしていると、百合川が声をかけてきた。
「いや、なんでもない」
外に出ると、校門の外で記者らしき人だかりができていた。
記者の一人が、校門の柵越しにこちらへ気づいた。
「……あ、いたぞ!」
一斉に、視線とレンズがこちらに向く。




