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見果てぬ夢

〈馘首さる惡夢を見たり寒き床 涙次〉



【ⅰ】


月末である。悦美は彼女の愛車・マツダ サヴァンナRX-7に乘り(運轉はじろさん。悦美は翔吉を連れてゐたので)、秩父の「猫nekoふれ愛ハウス」迄來てゐた。要件は、「ふれ愛ハウス」の金錢的な精算である。* 11歳の「ふれ愛ハウス」マスター、比良賀杜司。「ハウス」の每日の切り盛りは彼に任せて置けば良かつたが、税務の関係もあり、一應決濟は悦美の担当となつてゐる。「お父さんは猫逹の相手でもしてゝよ」と悦美。今月の収支は- だが悦美の計算では、収入と支出が合はない。「あれ、可笑しいわね」。杜司がレジのカネを誤魔化して着服する、とは思へない。然し悦美が用を足しにトイレに立つてゐる隙に、テーブルの上にメモが載つてゐて、これは正確な決濟報告書なのであつた。それは、紅茶(杜司の考案で始めたメニュー)とケイキのセットの賣り上げが、悦美の計算では一部、漏れてゐる事を突いてゐた。(メモは翔吉の仕業ね...)。悦美にはさうとしか思へなかつた。



* 當該シリーズ第32話參照。



【ⅱ】


悦美は「翔吉、*(今日は「翔子」の日ではなかつた)ありがと」と云つたが、翔吉はお乳が慾しかつたのか、むづかつて「ほぎやあ、ほぎやあ」と泣くばかり。悦美は翔吉の「不思議な赤ちやん」としての特性は、全て受け容れてゐた。「翔子」の件にしたつて(双子を育てゝゐるやうなものだわ)と悦美は思つてゐたのである。彼女は杜司に、「杜司くん、萬事OKよ」と告げた。杜司は肩の荷が下りたみたいで、安堵の表情。「さ、お父さん、帰りましよ。カンテラさん逹がお腹空かして待つてるわ」。悦美は史上稀に見る「美形ママ」なのに、自ら好んで「縁の下の力持ち」を買つて出てゐるのだつた...



* 當該シリーズ第2話參照。



【ⅲ】


ところ變はつて魔界。「ニュー・タイプ【魔】」全盛の時代だとは云へ、「オールド・ウェイヴ【魔】」逹はコミューンを作り、共同生活を送つてそれに對抗しやうとしてゐた。大別すれば「ニュー・タイプ【魔】」逹は共和派であり、叛黑ミサ派だと云へる。それに對し、「オールド・ウェイヴ【魔】」逹のコミューンは、それより強固な王制を打ち立てゝ、黑ミサを復活させる事を強力に推進してゐた。こゝに、魔界でのカンテラ一味の協力者・*「密告屋」が絡んで來るのは、一見して畸妙な事であつたが、彼には壯大な夢があつた。



* 當該シリーズ第23話參照。



※※※※


〈懐かしのゲーム喫茶よ今いづこ氣が付けば俺昭和族なり 平手みき〉



【ⅳ】


「密告屋」は、表向きカンテラの刃に恐怖し、屈從してゐるやうに見せ掛けながら、翔吉誘拐を画策してゐた。「翔子」としての翔吉を、彼自身が手鹽に掛けて養育し、將來の黑ミサ「祭壇」にせんとの野望を抱いてゐたのであつた。最早その頃老齡で、カンテラの左腕(カンテラは左利き)此井 -じろさん- はリタイアしてゐるだらうし、さうなればカンテラ一味の力は凋落し、自分がカンテラの剣に恐れ慄く時期は終はつてゐるだらう、との讀みで、その成功を見果てぬ夢としてゐるのだつた。悦美、「カンテラさん、わたし最近誰かに見張られてゐるやうな氣がしてならないのよ」-カンテラ、女の勘は莫迦に出來ない事を知つてゐた。



【ⅴ】


カンテラは密偵として、一味の女スパイ涙坐を放つた。「オールド・ウェイヴ【魔】」逹のコミューンに、透明人間化して潜入した涙坐は、意外な事實を摑む。勿論、「密告屋」の下剋上への活動の事である。涙坐から報せを得たカンテラ、「はて、だうしたもんかね」と思案顔。「密告屋」は今現在、「ニュー・タイプ【魔】」逹の動向を知る上で、カンテラには非常に役立つ存在なのである。さう簡單に斬れると云ふものではない。



【ⅵ】


で、こゝは一つ、剣で脅して「密告屋」に洗ひ浚ひその野望を吐かせるか- さう考へた。さすれば彼は自分の非力さを改めて思ひ知るだらう。カンテラ、單身魔界に降りた。そして「密告屋」を呼び付けると、傳・鉄燦を拔き放ち、彼のそつ首に押し当てた。「お前の『夢』とやらを聴かせて貰はう」。根は小心者の「密告屋」、全てをゲロしてしまつた。それが、コミューンの皆への「裏切り」となる事も考ヘずに-



【ⅶ】


結果として「密告屋」は裏切りの為処刑された。カンテラ「ちい、消されたか。俺とした事が、当てが外れたやうだな。まだまだ俺は甘い」。だがじろさん、「甘かつたのは『密告屋』の方だよ。俺は翔吉が一人立ちする迄、現役を續ける積もりだ」-愛妻・澄江さんの頭痛のタネが一つ増えた。笑ひ事ぢやなく、彼女はじろさんに、出來れば危ない橋は渡つて慾しくはなかつたのである... で、「オールド・ウェイヴ【魔】」のコミューンの存在は、「魔界健全育成プロジェクト」の知るところとなり、その勞をねぎらつて、一味にはルシフェル=仲本堯佳から報奨金が下りた。カンテラ「一つ損をして、一つ得るのは、自然の摂理なのかなあ」と呟いたとか。お仕舞ひ。



※※※※


〈今思ふ湯冷めと不貞寢の相関よ 涙次〉


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