プロローグ 大いなる原初
かつて遙かなる次元の高みには、常識的に「了解」し得ないことに、「無そのもの」が「有」った。その有り様は「ゼロ」であると同時に「2」であり、「1」でもあった。0=0×2=0×1
矛盾でなく、いわば「三律共立」。「それ」は「深遠なる調和」を意味し、分かたれることなき「循環そのもの」サイクルの理想郷として完全に「存在」していた。
後の「言葉」で表現するならば、その本質は「陰」と「陽」。つまり、それぞれが「完全に独立した存在」でありながら、互いを映す「合わせ鏡」の中の「像」に「どこまでが」という境のないように、不可分の一つの「全体」だった。「陰」は「陽」に依存せず、「陽」もまた「陰」の在りように左右されない。そして「実体」は果てしなく「無い」けれど、「陰」は内包する側面、全てで満ちる「潮うしお」のようであり、「陽」は到達する側面、全てを満たす煌めく「力学」のようなものだった。「二つ」には絶え間ない交換相互作用が起こり、満ち溢れる大河の水のように一瞬として同じ姿を留めることは「無」だったが、その過程は「一つ」の「大いなる安定」として確立していた。
そう、「陰陽」は表裏が「一つの面」に「ともに有る」状態であり、音符と休符が交錯して旋律となり一つの意味を持つようなものなのだ。「陰」が受容するとき「陽」は拡散し、また「陽」が「醸す」とき「陰」は「舞踊」おどった。その「運行」には始点も終点もなく、ただ永久に「リズム」だけが清らかな「余韻」としてメタ・次元に揺蕩たゆたう。それは我々の時間の尺度を見事に超越した、「久遠なる統合」の象徴だった。
一つの中に二つがあり、二つの中に一つがある「陰陽」にとって、コミュニケーションの手段もしくは「意思疎通自体」が意味をなさなかった。それらは分断や差異を生む無駄なツールであるだけであり、「彼ら」でも「それ」でもある「陰陽」には、そもそも「区別される必要」自体がなかった。そこにふつふつと湧き出ているのは、ただ「循環の軌跡そのもの」リサイクルであり、直ぐに、全てを語り尽くしたような「寂滅」のみが広がっていた。
「陰陽」の境界は、「明確でありながら曖昧」で、犬と狼の見分けがつかない夕暮れや、何処からか白む曙に、光と闇、夜と昼が一瞬に混じり合うように、どこからが「陰」で、どこまでが「陽」であるのかなど、もしも観測しうる者が居たとしても、見定める事は出来ないのだ。境い目が滲むことで生まれる一つの「完成」こそが「彼ら」の「自然」だった。
一刹那、「陰陽」のリズムに、ほんのわずかな齟齬が生じた。それは検知し得ぬほど微妙の「揺らぎ」に過ぎなかったのだけれど、「波紋」は徐々に「共鳴効果」を引き起こし、やがて「陰」の内側に、密やかに“点ポイント”を作り出した。ただ形も意味も持たないはずの「点」が、しかし確固として、初めての「異質の第三」だった。
「陽」は、ふと「陰」に内在する「異変」を認識する。警戒と好奇の狭間に揺れながら、「第三の存在」に向かって、その”意識アーム”を伸ばした。
と、「異質」に触れた瞬間に永遠に続くと思われた「循環」が綻ぶ。真なる「空」に裂け目が走り、初めての「音」が轟いた。それは「静寂しじま」を断ち切るような波動であり、同時に新たな「曠野あらの」の誕生を告げる産声のようでもあった。途端、悠久からの彼ら「無=有」の楽園は瓦解し、同時に「全く」が「音」とともに再構築される。
オペレーティングシステム・リブート コンプリート。
闇を切り拓くように、かつて無かった「粒子」たちが溢れ、波のように泡立ち、果てしない広がりの中「時間」が脈動し始める・・・「陰」の内側の第三「空間」が膨張する「形」を成立させた。「光の速度」が決定し、そこに新たなる『ことだま』が響きわたる。それはただの「倍音の集合体」でも、ただの「記号」でもなかった。「その響き」は次元そのものを描き出す原初の聖なる「音声おんじょう」であり、同時に耽美な「ソナタ」だった。
ヒカリ・・アレ・・
『ことだま』はすべてを定義しながら星々の間に吸い込まれ、「宇宙自体」を表現する「文あや」となった。ほどなく『ことだま』を憶え、無限に蓄える場所が「陰」の傍らに芽吹いた。それが『アカシァ』虚空の蔵……静かなる書庫であり、宇宙自身が思い出をい抱き、また浸る「依り代」だった。
それはただそこに有るだけで、観測者が不在でも「記録する目」デバイスとなり、自動筆記の「書物」アーカイブとなった。「森羅せる万象」がそこに刻まれることとなる、「明日」あしたを語り、創り出すために。
・・・ドライブにアクセスするにはパスワードを入力してください
ナウマク アカシャ バザヤ オンアリ マリボリ スハカ × 1000000
・・・閲覧を許可します
本来的に終焉なき「寂滅」が砕け、あらゆる「感覚」をも圧倒するうねりがメタ・次元を貫いて拡散する。陰と陽――ふたつに「最初の狭間」が生じ、そこに一つの「違和」が鳴り響いた。
コーション!! シンタックス・エラー
メッセージに従い「修正」してください
・・・すると、無数の放射の残滓を背にしながら、象徴たる「女神」と「男神」の姿がきっぱりと「浮かび上がって」いたのだった。
そして、彼女がそっと手を差し上げると、袂から3つの「骨」ボーンが浮かび上がり、しばらく女神を取り巻く宙を漂った。生れたばかりのそれらは、透き通った乳白色の結晶のようで、淡い光を纏いながら、「原初のリズム」にも似た「鼓動パルス」を繰り返していた。
「あなたはーー理性と計画をーーわたしは―ーー感性と偶然をーー司る」
女神が初めて「言葉」を紡ぎ、己の役割を理解したとき、男神は「言葉」を認めぬように激しく震動した。
「疎通などー必要ないー偶然などー存在しないーすべては統合と秩序ー歪みは『異質』のせいーなのだ」
彼はそう言うと、「人間ごとき」ならば受けるだけでたやすく「粉砕」されるであろう「熾烈な視線」を彼女に投げかけた。
しかし女神はたじろぎもせず、ゆっくりと、男神に向かい、「初めての微笑」を見事に構築する。それこそ、まさしくアルカイック。
「私たちはーすべてを制御ーできないでしょうーこれからを成すのはー予測できないー運命を導く、可能性の力ーそれをわたしは信じます」
「これがー昨日を知りー未来を決めるものたち。」彼女が掌たなごころを向けると、3つの「骨」はそれに呼応して、神秘の尾を引きながら、綾とりをするように無数の「経路」を模索しつつ、女神の内なる「新生の三次元」という海原へ、一杯に風をはらんだ帆船のようになめらかに滑り込んだ。そして「光」まで越えそうな程に加速すると、いつしか「認識の網」からも外れてしまった。
「バックボーン」
「ウィッシュボーン」
そして「ローリング・ボーン」
彼女はその航跡にこころ奪われるように、自然とその「名前」を口にした。
過去、未来そして現在、それぞれの「骨」が、始まったばかりの時間変数の中で固有の意味を持っている。一つは、かつてを映し出す「遺物のように大きな影」の存在感を思わせ、一つは、「明日への飛翔」を思わせる不滅の熱い輝きを振りまいていた。そして最後の一つは、「転がり続ける者」ローラーとして、原動力の痕跡を辺りの「漆黒」に記しながら、しなやかに、また確固として進行つづけるのだった。
男神がそんな様子に眉をひそめる。
「そんな事に何の価値があるとー言うのだ?ただの、『偶然や可能性とやら』を弄ぶ、くだらぬ夢見る『玩具』にしかー過ぎないではないか。」
吐き捨てるような彼の言葉をまるで気にも止めず、女神はそっと口笛を吹く。子守歌ララバイにも似たその優しい調べは「骨」(ボーン)たちを庇護する「想い」となってその後を追うのだった。彼女の目に遠い未来の「ヴィジョン」が浮かぶ。それは、混沌と秩序が交錯する「新世界」の情景だった。彼はそれを見つめながら沈黙した。そして内なる「理性」に宿る「確定性」と、彼女の「偶然への信念」が交錯するのを感じていた。
「異質は、必ず、排除する。そう・・」
男神は「陰陽」としてあった、あの理想の日々を思い出す。
「徹底的に削除する。さもなければ・・」
彼の厳しい怒りの意識と表情が、「新生宇宙」を我が子のように案ずる女神の横顔に、ちらりと心配へと傾いた。
「・・その爆発的膨張がーいつか彼女自身をー飲み込み尽くすに違いない」
男神のぎらりとした鋭利な「眼光」は、緻密な「白い矢」のように形を変え、秘匿された「彼の計画」を携え、あの「骨」の行方にフォーカスして、軌跡をトレースし始めた。
「あっ」女神にその貫通を悟られぬように、素早く、細く「あの宇宙」へと。
彼女は小さく声を上げたが、その時にはまだ男神の行為や目的に気づくはずもなかった。
隘路 検索 開始します 目標物 三つの「骨」
管理実行者 ヨイ、ヨワ
絶対歴 00000000