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掌編小説集

紙飛行機の行先を決めるだけの能力〜戦場から君へ愛を乗せて〜

作者: 卯月 幾哉

『リア、愛してる』


『例のスキルの力で、戦場から君にこの手紙を送ってる。ハズレスキルだけど、こんなときは便利だな』


『明日は決戦だ。生き残ったら、また手紙を飛ばすよ――紙飛行機にして』



    †



 ――彼から最後の紙飛行機が届いて、もう三か月。


 愛してるなら、ちゃんと告白してから出征(しゅっせい)してほしかった。

 紙飛行機で告白なんてひどくない?

 居場所がわからないから、返事も書けないし。


 私はいい加減な幼馴染(おさななじみ)に胸中でありったけの文句を並べながら、今日も教会で祈りを(ささ)げる。


 ――どうか、彼が無事に帰って来ますように、と。


「熱心なことですね」


 神父が私の肩に手を置く。


「シン、でしたか。軍の知人に尋ねましたが、あなたの幼馴染の名前は元いた部隊の名簿にはなかったそうです。この意味がわかりますか?」


 ――彼は死んだ。

 神父はそう言っていた。


「……それでも、私は最後まで祈りたいと思います」


 私は神父から顔を背けつつ、そう答えた。

 しかし、神父は私の頭を両手で(つか)むと、強引に前に向ける。

 男の端正(たんせい)なマスクが間近に映る。


「いつまで?」

「や、やめてください……」


 おかしい。抵抗できない。

 まさか、そういうスキル――?


「私なら貴女(あなた)を幸せにできる」


 あの(うわさ)は本当だったのか。

 村の若い女が、何人も神父の(とりこ)になっているという。


 神父の顔が近づいて来る。


「い、いや! シンっ!!」





 ――ただいま!!





 明るい大声が教会に響き、神父はパッと私から距離を取った。


「……シン?」


 逆光でよく見えなかったけど、夢や幻なんかじゃない。

 待ち()がれた幼馴染が、確かにそこに立っていた。



    †



「ずっと連絡できなくてごめん。決戦前に上官に俺のスキルを明かしたら、通信兵にさせられてさ。しかも、実は俺のスキルって、一日に使える回数が決まってたんだ」


 決戦から今日まで軍の連絡で働き詰めだったから、私に手紙を送れなかった――という話だった。

 確かに、彼はいつも自分のスキルを「何の役にも立たないハズレスキル」と言って、私以外には秘密にしていた。だから土壇場(どたんば)でそんなことになったのか。


「俺のおかげかはわからないけど、やっと戦況が好転してきたんだ。それで、お偉いさんに直談判(じかだんぱん)してさ。故郷に帰らせてもらった」


 通信兵の任務はあるけどな、とシンは歯を見せて笑った。


 すると、彼は急に真顔になり、私の前で気をつけの姿勢をした。

 彼の空色の瞳の中に小さな私の顔が映る。


「――リア、愛してる。俺と結婚してくれ」


 私は、はい、と答えた。


【余談】

この後、神父は二人の結婚の立会人を務めました。


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