魔法の勉強 ①
「では中庭に向かいましょう」
ミチタネにさそわれてカナタは外に出る。
階段を下りると草履が用意されていたからはく。
カナタの靴は見当たらなかった。
「魔術の基本は自然とふれ合うことと聞いています」
「ふうん」
カナタは池の水や魚を見た。
(水魔法とかカッコいいよな)
周りの植木もながめる。
(植物魔法なんてのもゲームにあるし)
開かれた門の外も見てみると、大きな木の前に人が三人いる。
(あの髪の毛‥ヒナゲシだ)
「あらカナタ」
近づくとヒナゲシの方から声をかけてくれた。
カナタはホッとした。
周りが大人ばかりだと疲れたみたい。やっぱり子供とおしゃべりしたかった。
「おはよ。オレも一緒に魔法の勉強していい?」
「まあうれしい」
ヒナゲシの笑顔にカナタはうれしくなっちゃう。
「今日は一人だけでつまらなかったの」
ヒナゲシの言葉にカナタは首をかしげた。
彼女はさっきからおばさん二人と一緒にいるのだ。
「この人たちもいるじゃん」
「嫌だわカナタ、彼女たちはただの使用人ですもの」
ヒナゲシは後ろの二人にそっけない。
「学院の上級生や教授方は天界人の記録探しに動員されておりまして、下級生は
みな自習なのです」
解説係のミチタネにヒナゲシが口をとがらせる。
「みんなはお部屋でお休みなのに、わたくしは見張られながらお勉強ですのよ」
ヒナゲシも部屋で友達とおしゃべりしたかったそうだ。
「でもカナタと一緒の方が楽しくてよ」
「我々がご一緒するので下がって良い」
ミチタネがおばさんたちに声をかけると二人はおじぎをしていなくなった。
「今は木の言葉を聞く練習をしていましたの。これ難しいのね」
ヒナゲシは地味顔のお姉さんに話しかける。
「そうですか?」
お姉さんはきょとんとする。
「まあナガミはすぐにできたの?」
ようやくカナタにもお姉さんの名前が分かった。
(ナガミ、なんて変な名前)
そのナガミは木と向かい合って「簡単なのに」なんてつぶやいている。
「では私たちに教えて下さい」
ミチタネに急かされて、ナガミはやっとこちらを見た。
「えーっと木の幹に筋が入っているでしょう。木って種類や年齢で筋の入り方が
全然違うんです。一つ一つじっくり観察すると‥この子のことがだんだんと
分かってくるんです」
ナガミは大きな木ににっこり笑いかける。
まるで木が友達のようだった。
カナタとヒナゲシが顔を合わせたのは偶然じゃなくて
ほとんどミチタネの誘導です。
えらい人はえらい人同士で仲良くしてくれ、程度の思惑で。
後ヒナゲシは無自覚わがままお嬢様です。
悪い子じゃないけど使用人を個人として見ることはない、くらいで。
お嬢様ってそんなモンかなと。




