好きな悪役令嬢発表ドラゴン
「た、大変でやすうぅ!!! アブソリュートヘルフレイムドラゴン様ぁああ!!!」
「む?」
吾輩が塒で一人の時間を満喫していると、パピィドラゴンが大層慌てながら飛び込んで来た。
「どうしたというのだパピィドラゴン? 見ての通り吾輩は今忙しいのだが」
「誰がどう見ても暇そうでやすが!? そんなことより、大変なんでやすよ、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様ッ!」
「むう」
誰がどう見ても暇そうという見解には思うところがあったが、ここまで慌てている以上、余程のことがあったのだろう。
吾輩もこのニャッポリート大森林の主として、治安と秩序は守らねばな。
「そこまで言うなら話を聞いてやることもやぶさかではない。何があったのか申してみよ」
「へい! 魔獣集団暴走障害でやす! ブラックバーンブルの大群が、物凄い速さでここに向かってるんでやす!」
「なにィ!?」
魔獣集団暴走障害か……。
フム、そういえばもうそんな季節か。
まったく、性懲りもなく。
「よしわかった。案内せい、パピィドラゴン。吾輩が蹴散らしてくれるわ」
「ありがとうごぜーやすッ! あなた様ならそう言ってくれると思っておりやした! あっちでやす!」
南東の方角を指しながら、吾輩の肩にちょこんと乗るパピィドラゴン。
「よし、飛ばすぞ。しっかり掴まっておれよ!」
「う、うわぁ!?」
吾輩は翼を羽ばたかせ、パピィドラゴンの示したほうへと飛び立った。
「あれか」
しばらく飛ぶと、地平線が黒一色で塗り潰されていた。
その黒の大群は地響きを立てながら、一直線にこちらに向かっていた。
なるほど、あれは確かにブラックバーンブルの群れだ。
ブラックバーンブルは鋭い二本の角が特徴の牛型の魔獣で、その突進力は、一匹だけで巨大な岩を粉砕するほどはある。
それがあれだけの数おるのだ。
このまま放っておけば、ニャッポリート大森林は奴らに滅茶苦茶にされてしまうことだろう。
――そんなこと、吾輩が決して許さんがな。
「――愚かなる小物の群れよ、吾輩の縄張りを荒らそうとした罪、その命で償ってもらうぞ。――ガアアアアアアア!!!」
「うひゃぁああ!?」
吾輩は口から灼熱のブレスを吐き出し、それでブラックバーンブルの群れを薙ぎ払った。
「「「ボアアアアアアアアアアアア」」」
ブラックバーンブルたちは吾輩の炎で、一匹残らず灰燼に帰した。
フム、他愛ない。
「FOOOOOOOO!!!! さすがアブソリュートヘルフレイムドラゴン様! アッシらにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ! アッシはアブソリュートヘルフレイムドラゴン様に、一生ついていくでやすよおおお!!!」
「ハッハッハ! 良きに計らえ!」
さあて、これで心置きなく、さっきの続きが読めるな。
「ふっふふっふふーん」
塒に戻った吾輩は、早速さっきまで読んでいた本を取り出し、前脚の爪で続きを開いた。
「ほえー、こんなに大きな身体で、よくそんな小さな本が読めやすねえ?」
「何だ、まだいたのかパピィドラゴン。まあ、これは人間界で手に入れた、人間用の本だからな。確かに吾輩にはちと小さいが、慣れればどうということもない」
吾輩の身体は、人間の優に百倍はあるからな。
パピィドラゴンは仔犬くらいの大きさしかないが。
「へー、そんなもんでやすか。アッシは本なんかよりも、メスドラゴンと遊んでるほうが楽しいでやすけどね!」
「フン、俗物が」
コヤツはこんな可愛らしい容姿に反して、とんだ肉食だからな。
まったく、つくづくドラゴンは見掛けによらないものだ。
「吾輩は今から読書に集中するから、くれぐれも邪魔はするなよ!」
「へーい。アッシは眠くなってきたんで、ちょいと昼寝させてもらいやす」
そう言うなりパピィドラゴンは、瞬く間にガーガーイビキをかき始めた。
チッ、うるさいな……。
まあいい。
続き続き、と。
「うおおおおおおおおおおん!!!」
「うわぁ!? ビックリしたぁ!?」
読み終わった吾輩は、あまりの感動に滂沱の涙を流した。
その拍子にパピィドラゴンも驚いて目を覚ましてしまったが、致し方ないこと。
それくらいの名作だったのだ……!
「ア、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様がこんなに号泣なさるなんて……! そんなに面白かったんでやすか?」
「ウム! これはまさに世紀の傑作だ!」
「へー、どんな話なんでやすか?」
「フッ、よくぞ訊いてくれた。所謂『悪役令嬢モノ』だな」
「悪役令嬢モノ?」
パピィドラゴンがキョトンとした顔で首をかしげる。
何だコヤツ、今時悪役令嬢も知らんのか。
「悪役令嬢モノというのは、姑息な男爵令嬢に濡れ衣を着せられ婚約破棄されてしまった悪役令嬢が、スパダリから溺愛されてハッピーエンドを迎えるという、今大流行の王道ラブストーリーなのだ!」
「はぁ、人間界ではそんなものが流行ってるんでやすか。アッシにはイマイチ面白さが理解できないでやすが」
「フン、俗物の貴様には、一生掛かっても悪役令嬢モノの素晴らしさは理解できぬだろうよ。さあて、今日はもう一冊くらい読むとするかな」
「ええ!? まだ読むんでやすか!?」
当然だ。
できれば吾輩は、寝ている時以外はずっと本を読んでいたいくらいだからな。
「……む? むむむむむむ!?」
「ほえ? どうされたんでやすか、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様?」
「……な、ない」
「へ? 何が?」
「――もう、未読の本がないッ!」
「っ!」
しまった……!
完全に油断していた……!
随分前に百冊近く入手していたからしばらくは大丈夫だと思っていたら、あまりにもどの作品も面白かったものだから、かなりハイペースで読んでいたらしい。
ぐううぅ……!
だが、吾輩はどうしても今、本が読みたいのだ……!
「よし決めた。今から吾輩は本を求めて、人間界に行くぞ!」
「ええ!? マジでやすか!?」
「ああ、大マジだ。貴様も一緒に来るか、パピィドラゴン?」
「へい! お供しやす!」
フフ、人間界に行くのも久しぶりだな。
心が踊るわ。
「わぁー! やっぱ人間界は華やかでやすねー!」
「フッ、そうだな」
例によってパピィドラゴンを肩に乗せながら、人間界の空を飛んでいる吾輩。
かなり低空を飛んでいるのに人間たちに気付かれていないのは、吾輩が認識阻害の魔法を展開しているからだ。
流石に伝説の存在である吾輩が人間界に現れたら、大騒ぎになってしまうからな。
吾輩はあくまで、本を買いに来ただけなのだ。
大事になるのは避けたいところ。
「あっ! アブソリュートヘルフレイムドラゴン様、あの一際派手でデカい建物は何でやすか!」
「む? ああ、あれは城だな。人間の王族が住んでいる塒だ」
「へー、あれが城でやすかー。あれだけ見栄を張らないと権威を示せないって、人間ってつくづく難儀な生き物でやすね」
「フッ、まあそう言うな。そこが人間の面白さでもある」
「ふーん、そんなもんでやすかねー。おお? 何だかあそこで大人数でワイワイやってやすよ」
「む?」
パピィドラゴンが指した方向に目を向けると、城の庭園でガーデンパーティーのようなものが催されていた。
参加者たちの服装を見るに、王家主催の、貴族間の親睦を深めるためのパーティーといったところか。
――まさに悪役令嬢モノの舞台、そのものではないか!
「よし、少し覗いてみよう」
「え? 本屋に行くんじゃなかったんでやすか?」
それは後でもいい!
聖地巡礼というやつだ!
「フレンザ、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」
「「「――!!」」」
なっ……!?
吾輩が会場の上空に着くなり、王子と思われる男が、金髪縦ロールの令嬢に対して、悪役令嬢モノの超定番台詞を吐いた。
これは……!!
「……どういうことでしょうかダリル殿下? 冗談を仰るのでしたら、もう少し笑えるものにしていただけませんと、反応に困ってしまいますわ」
金髪縦ロールの悪役令嬢は、眉一つ動かさず、王子をじっと見据えている。
……おぉ!
「クッ、もちろん冗談などではないさ! 君がキャシーに陰湿な嫌がらせをしていたことはわかっているんだ! 見損なったぞフレンザ! 君は僕の婚約者に相応しくない!」
「ダリル様……」
王子は隣に立っていた、悲愴感漂う令嬢の肩を抱く。
なるほど、アヤツが男爵令嬢なのだなッ!
完全に今まで何百回と読んできた、婚約破棄シーンそのものではないか……!
「アブソリュートヘルフレイムドラゴン様、もしかしてこれがさっき仰ってた、悪役令嬢ってやつでやすか?」
「しいっ! 静かにせんかパピィドラゴン! 今いいところなのだぞッ!」
「す、すいやせん! でも、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様の声も大きいと思うんでやすが……」
くううぅ……!
これは一秒たりとも目が離せんぞ!
「はて? いったい何のことやら? わたくしはキャシー嬢に嫌がらせなどしておりません。ドラゴンが周りを飛び回っている羽虫のことなど、いちいち気に掛けるとお思いですか?」
「は、羽虫だと!? 今君は、キャシーのことを羽虫と言ったのか!?」
「ひ、酷いです、フレンザ様……!」
うおおお!?
今悪役令嬢が、『ドラゴン』と言ったぞ!?
まさか憧れの悪役令嬢の口から、『ドラゴン』というワードが聞けるとは……!
今日は素晴らしい日だ!
「はえー、あの悪役令嬢、随分気が強い女でやすねー」
「そうッ! そこがいいのだッッ!!」
吾輩はどんな時でも動じず、常に気品を崩さない、気が強い悪役令嬢が大好きなのだッッ!!
「ん? おい、何か上のほうから声が聞こえないか?」
「ああ、確かに」
っ!
しまった!
あまりに興奮しすぎて、大声を出してしまった。
頼むからモブたちよ、スルーしてくれ!
「チュン! チュチュチュン!」
「ああ、何だただの雀か」
「まったく、紛らわしい」
なっ!?
パピィドラゴン……!
「へへ、どうでやすかアブソリュートヘルフレイムドラゴン様、アッシは鳥の声帯模写は得意なんでやす。これやると、メスドラゴンにメッチャウケがイイんでやすよ」
「フッ、でかしたぞパピィドラゴン」
動機は不純だが。
まあいい。
これで婚約破棄に集中できるというもの。
「クッ、これは最早不敬罪だ! オイお前たち、この痴れ者を、この場で叩き斬れッ!」
「「「ハッ」」」
なにィ!?
王子の命令で、悪役令嬢は剣を構えた無数の兵士たちに取り囲まれてしまった。
くぅぅ……!
「さあどうするフレンザ? 誠心誠意込めてキャシーに謝罪すれば、命だけは助けてやらんこともないぞ?」
「――フッ」
――!
が、フレンザはこの圧倒的な苦境に立って尚、不敵な笑みを浮かべたのである。
フレンザ――!!
「何を世迷い事を」
「よ、世迷い言だと!?」
「先ほども申したはずです。わたくしはキャシー嬢に対して、神に誓っても嫌がらせなどしておりませんから、証言を撤回するつもりは微塵もございません。――たとえこの命が脅かされようともです」
「クッ、そんなに命が惜しくないというのかッ!」
「ええ――貴族としての矜持を守れないことに比べれば、秤に掛ける価値すらありませんわ」
うおおおおおおおおおおおお!!!!
フレンザアアアアアアアアア!!!!
お前こそ、吾輩の理想の悪役令嬢だあああああああああ!!!!
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「「「――!?!?」」」
「なっ!? 何だあれはッ!?!?」
吾輩は認識阻害の魔法を解き、雄叫びを上げた。
「ア、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様!? 人間に正体を見せていいんでやすか!?」
「ああ、構わん」
ここから先は、スパダリの出番だからな――。
「あ、あの深紅の鱗で覆われた巨体――まさか伝説の、アブソリュートヘルフレイムドラゴンかッ!!?」
「フフ、いかにも吾輩がアブソリュートヘルフレイムドラゴンだ、人間の王子よ」
「そ、そんな……!」
王子は化け物でも見るみたいな青ざめた顔をしながら、足をガタガタと震わせている。
フッ、実際人間からしたら、吾輩は化け物そのものだろうからな。
他の人間たちも泣き叫びながら逃げ惑い、辺りは阿鼻叫喚となった。
「……」
「――!」
が、そんな中フレンザだけは、まるで憧れのスターと出会ったみたいなキラキラした瞳で、吾輩を見上げていた。
お、おお……??
「クッ、ひ、怯むなお前たち! 所詮相手は一体だけだ! 数で押し通せば勝てるッ! ――サラマンダー竜騎士団、出撃せよッ!」
「「「ハッ!!」」」
ほう、腐っても人間を束ねる長。
そんな切り札まで用意していたとは。
鋭い翼の生えたサラマンダーに乗った無数の竜騎士たちが、空中で吾輩を取り囲んだ。
フフ、奇しくも先ほどのフレンザと同じ状況だな。
「ハッ、どうだアブソリュートヘルフレイムドラゴン! これが人間の力だ! 低能なドラゴン如きが、人間様に勝てると思うなよッ!」
リーダー格と思われる一際大きなサラマンダーに乗った王子が、吾輩の前方に現れた。
「やれやれ、この程度の雑魚がどれだけ集まっても、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様にとってはそれこそ羽虫の群れに過ぎないってこともわからないんでやすかねー」
「フッ、そう言ってやるなパピィドラゴン。人間というのは、自分が一番強いと思わずにはいられない生き物なのだ」
さて、とはいえ、吾輩としてもサラマンダーを殺めるのは流石に気が引ける。
――よし、ここは穏便に。
「ガアアアアアアア」
「「「っ!?!?」」」
吾輩は魔力を込めたブレスを、上空に放った。
「なっ!? こ、これは!?」
その途端、瞬く間に空は暗雲で覆われた。
「――見せてやろう、力の深淵をな」
「「「ああああああああああああああああああああ」」」
雲から落ちた夥しい数の雷が、サラマンダー竜騎士団に直撃した。
サラマンダー竜騎士団は一匹残らず撃墜し、ピクリとも動かなくなった。
よし、これで静かになったな。
大分手加減しておいたから、死ぬことはないだろう。
「FOOOOOOOO!!!! さすがアブソリュートヘルフレイムドラゴン様! アッシらにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「ハッハッハ! お前はそれしか言わんな!」
「バ、バカなああああ!!! 我が王国が誇る最強のサラマンダー竜騎士団が、一瞬でええええ!!!」
吾輩の雷で黒焦げアフロヘア―になった王子が絶叫している。
ほう、手加減しておいたとはいえあれで気絶せんとは、腐っても王族といったところか。
フフ、むしろ好都合だ。
「よいしょ、と」
「「「――!」」」
人間の姿に変化した吾輩は、王子の目の前に下り立った。
もちろん服も着ておるぞ。
服を生成することくらい、吾輩には造作もない。
吾輩の肩に乗っているパピィドラゴンは、マスコットとしてそのままの姿にしておるがな。
「なっ!? き、貴様、アブソリュートヘルフレイムドラゴン、か……!?」
「左様。さて人間の王子よ、特別に吾輩が、お前がそこの女に騙されているということを証明してやろう」
「っ!?」
「えっ!?」
吾輩は男爵令嬢を指差す。
まさかここで自分に矛先が向くとは思ってもいなかったであろう男爵令嬢は、露骨に目を泳がせた。
「ひ、酷い、です……! わ、私は、ダリル様を騙してなどおりません……!」
「そ、そうだそうだ! キャシーがそんなことするはずがないだろう!」
男爵令嬢はメソメソと泣き始めた。
フフフ、それでこそ悪役令嬢モノの男爵令嬢。
この状況で尚、そこまで被害者を演じられるとは。
「さて、それはどうかな?」
「――!?」
吾輩は右の手のひらを男爵令嬢に向け、魔力を放った。
「あ、あががががががががが……!!」
「キャ、キャシー!?」
吾輩の魔力を受けた男爵令嬢は、自らの喉を搔き毟りだした。
「キャシーに何をしたアブソリュートヘルフレイムドラゴンッ!」
「フッ、案ずるな。ただの自白魔法だ」
「じ、自白魔法!?」
「左様。これでしばらくの間その女は、本音しか喋れなくなる」
「なっ!?」
さて、悪役令嬢モノの山場、断罪シーンの始まりだ。
「では質問だ女。お前は本当に、フレンザから嫌がらせを受けていたのか?」
「い、いえ、受けてないわ……! 噓をついていたのよ……!」
「キャシー!?!?」
フフフ、男爵令嬢と王子の絶望に塗れた顔。
これぞ悪役令嬢モノの醍醐味よの。
「何故噓をついたのだ?」
「そんなの決まってるじゃない……! このバカ王子を騙して婚約破棄させて、私が未来の王妃になるためよ……!」
「バ、バカ王子だとおおおお!?!?」
ハッハッハ。
よいぞよいぞ!
最高に盛り上がってきたではないか!
「グッ、貴様あああああ!!! 覚悟しろよッ!! 生まれてきたことを後悔するような罰を与えてやるからなッ!」
「うるさいわねッ! 騙されるほうが悪いんじゃないッ!」
「何をををッ!?!?」
フム、まあこんなものか。
後は放っておいても、なるようになるであろう。
「なるほどー、これが悪役令嬢モノでやすか。アッシにも、少しだけ面白さがわかりやしたよ」
「フフ、そうであろうそうであろう」
吾輩も憧れの悪役令嬢モノの登場人物の一人になれて、実に満足であった。
「あ、あの……」
「――!」
その時だった。
フレンザが遠慮がちに、吾輩に声を掛けてきた。
お、おぉ……!
改めて見ると、何と美しいのだ……!
意志の強そうな切れ長の目に、シミ一つない陶器のような肌。
そしてフワッフワの金髪縦ロールに、ピンと伸びた背筋。
――やはり吾輩の理想、そのものだ。
「わたくしの濡れ衣を晴らしてくださり、誠にありがとうございました。お陰様で助かりましたわ」
フレンザは優雅なカーテシーを披露してくれた。
嗚呼、生のカーテシーが見られるとは……!
感動だ……!!
「いやなに、吾輩も下心があって、やったまでのことだ」
「下心……?」
フレンザはキョトンとした顔で、首をかしげる。
フフ、そんなところだけ鈍いのも、また萌える――!
「――フレンザ、どうか吾輩の、伴侶になってはくれまいか」
「――!」
吾輩はその場で片膝をつき、フレンザに右手を差し出した。
一度はやってみたかった、スパダリの求婚シーン!!
「ヒューヒューでやすよ! 熱い熱いでやす!」
「うるさいぞ、パピィドラゴン」
茶化すでない。
「わ、わたくしで、本当によろしいのですか?」
フレンザは口元を手で押さえながら、頬を桃色に染める。
も、萌えええええええええ!!!!
「ああ、お前でなくてはならないのだ、フレンザ」
「――嬉しい! 実はわたくしも、生粋のドラゴン萌えだったのですッ!」
「ん?」
フレンザ??
「ドラゴンのあの雄々しさと、可愛らしさが絶妙に同居したフォルム! そして絶大なる力を持っているにもかかわらず、決してそれをむやみには振りかざさない器の大きさ! それら全てが、わたくしの理想そのものなのですッ!」
「お、おぉ、そうか」
フフ、どうやら吾輩とフレンザは、似た者同士なのかもしれんな。
「では、吾輩の伴侶になってくれるな?」
「ハイ! 喜んで!」
フレンザは吾輩の右手に、自らの左手をそっと重ねたのであった。
「FOOOOOOOO!!!! おめでとうございやすお二人ともおおおおお!!!! 結婚式の二次会の幹事は、アッシに任せてくだせーい!!」
「ハハハ」
「ウフフ」
随分気が早いな。
お前に任せたら、いかがわしい感じにされそうで若干怖いが。
「アブソリュートヘルフレイムドラゴン様、どうか娘のことを、よろしくお願いいたします」
「お願いいたします」
フレンザの両親と思われる二人が、吾輩に頭を下げてきた。
フフ、流石フレンザの両親。
聡明そうな二人だ。
「任せておいてください。フレンザのことは、吾輩が生涯を懸けて幸せにしてみせます」
「……お父様、お母様、今まで本当にお世話になりました」
「……身体にだけは、気を付けるんだぞ」
「たまには帰ってらっしゃいね」
「……はい!」
くうぅ!
やはり両親との別れのシーンは、泣けるのう!
「さあ、参りましょうか、アブソリュートヘルフレイムドラゴン様」
「ああ、フレンザ」
その場で吾輩はまたドラゴン形態に戻った。
肩には例によってパピィドラゴン、そして背中にはフレンザを乗せて。
「そうら!」
吾輩はすっかり暗雲が晴れ、燦燦と太陽が輝いている大空へと飛び上がったのだった。
「わあ! 前にダリル殿下のサラマンダーに乗せていただいたことがあるんですけど、それよりずっとはやいです!!」
「ハッハッハ、そうであろうそうであろう」
あ、そういえば新しい本を買い忘れたな。
まあよい。
これから先の物語は、吾輩とフレンザで紡いでいけばよいのだからな――。
「アブソリュートヘルフレイムドラゴン様、今クサい台詞考えてやしたね?」
ええい、茶化すでない!