表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/71

最終話 永かった夜明け

予告しましたとおり、今話で『剣聖の物語 ~美の剣聖 スフィーティア~ エリーシア篇』は終わりです。最後、お楽しみいただけたら、と思います。

 すっかりと激しかった雨は止み、夜空を覆っていた雲は、すっかり消えていた。

 長かった夜は、明け始め、空が白みかけていた。


 それでも、剣聖スフィーティア・エリス・クライと最恐龍グングニールの激しい闘いは、続いていた。


 両者の巨大な竜力フォースの激突は、周囲に轟音を響かせ、暴風や衝撃波を巻き起こし、大地に風穴を開け、草木を吹き飛ばし人工の構造物を破壊しながら、場所を移しつつ展開されていた。


 領都カラムンド周辺には、色濃く戦闘の傷跡が刻まれていく。




【ここはスフィーティアの意識の中。真っ白い世界だ。】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「不思議な感覚だ・・・」


 薄っすらと開いた眼で、目の前に写し出されたスフィーティア(おのれ)とグングニールの激闘を見つめる。



 光りを纏い光り輝く剣聖剣『真カーリオン』を神速の速度で縦横無尽に振るい、グングニールに圧を加えるスフィーティア。一方、100メートルを超える最恐龍グングニールは暗黒炎を腕に纏わせ、腕を魔神のように振るい、スフィーティアを引っ掴み、暗黒の炎で焼き尽くし、消し去ろうと攻撃を応酬していく。


 その両者の戦闘は互角に見えた。しかし、長期戦になればこの均衡は崩れるだろう。


 そうなれば、結果は・・・・。


「強い。グングニール(こいつ)は強すぎる。この竜力フォースでも、私は倒せないのか?」

 ふとそんな疑問が口をつく。


『嫌、()が本気で望めば更なる竜力が私の手に・・・』

 ここで、何者かの囁きが耳元で聞こえた。


 それは、彼女スフィーティア自身の美声なのだが、細くかすれたような声だ。それが、心に直接訴えかけて来る。


 しかし、その()()は、彼女のものとは異なるように聴こえる。



「それは・・・・」


 スフィーティアは、躊躇した。

 その力の代償が何であるかを彼女は承知していた。


()の覚悟は、その程度だったのか?グングニールに対する恨み、憎しみ、怒りは、どうした?今ここで奴を仕留めなければ、()のために死んでいった剣聖もの達へ何と言って詫びるつもりだ?』


「わかっている。わかっているさ!そんなこと」

 意識下のスフィーティアは、唇を噛む。



『ならば、躊躇ためらう必要もあるまい。()のこの思いは同じ筈なのだから』

「ああ、そうだ。私は、ここでグングニールを倒すと決めた。こいつを倒せれば、この命を失っても惜しくはない。さあ、もっと竜力フォースを!憎きグングニールを倒す力を私に寄こせ!」

 意識下のスフィーティアは叫んだ!

『ああ、そうだよ。()。疲れただろう。さあ、あとは、私に任せて、眠ると良い』

「ああ・・・」

 意識下のスフィーティアは目を閉じた。

『ウフフフッ、ウッ、フッフッフッフ・・・』

 耳元の囁き声が哄笑をあげる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 スフィーティアの眼が吊り上がり、金色に輝いた。


「グングニーーールッ!」

 そして、絶叫した。


 すると急にスフィーティアの、竜力フォースが、増した。

 グングニールのスピードを徐々に超えていく。


『な、何だと』

 驚愕の声をあげるグングニール。


 しかし、それは、スフィーティアの竜華りゅうかを引き起こす。


 竜華りゅうかとは、剣聖が己の竜力の行使が、限界を超えた時に起きるもの。外形的には、次第に竜の姿へと変化していく現象ものだ。一定以上竜華が進むと、自我を失い、竜の姿へと変貌し、戻れなくなってしまう。そうして、剣聖が竜へと変貌し、ドラゴンになった者もいると言うのだ。


 スフィーティアの顔の白磁の皮膚にゴツゴツと黄色い鱗のようなものが浮かび始めた。


 スフィーティアの戦闘速度が増し、グングニールの防御が崩されると、次の剣戟でグングニールの大きな指を切り落とし、グングニールは後方に弾き飛ばされた。


 さらに、スフィーティアが剣聖剣を両手で頭上に掲げて振り降ろした。すると空がパッと光るや光の雨がグングニールを襲い、大きな翼に風穴を開ける。


 その攻撃が、さらにスフィーティアの竜華を進め、腕や足の皮膚からも黄色く輝く鱗が浮かび上がって行く。


 スフィーティアは、バランスを崩して落下していくグングニールに下方から急接近し、すれ違い様に、グングニールの右手を斬り落としていた。


 この一撃は、グングニールの手の傷口光で包み、すぐに腕を再生できないものだった。


『なんと!』

 グングニールは、状態を逸らし、体勢をを崩し、隙が生じた。


「あともう少しだ。もう少しでグングニール(こいつ)を倒す!」



⦅ヒー、やめてくれーーッ!壊れるーーッ!⦆

 しかし、真の光輝く剣聖剣となった『真カーリオン』が悲鳴をあげる。


 真カーリオンの剣身には亀裂が入っていき、限界が近かった。



「これで最後しまいだ!」


竜噛斬ドラグーン・バイト!」

 スフィーティアは、グングニールの胸の心臓部を目がけて、技をくり出した。


 光り輝く長い竜の残像が、グングニールの左腕を喰いちぎり、心臓に噛みついた。


『ウグァワッ!』

⦅ウギャーッ!⦆

 グングニールのうめきと真カーリオンの悲鳴が重なった。


 この渾身の一撃で、パッと閃光を放つと、真カーリオンの剣身が砕けてしまった。


 そのため、グングニールの胸の皮膚を切り裂いたが、心臓までは届かずに真カーリオンは止まったのだ。




【どこかにあるかわからないとてつもなく高い塔の中】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 カーン、カーン、カーン・・・。


 石壁を打つ音が狭い薄暗い空間に木霊する。


 見すぼらしい灰色のトガをまとった輝くような金色の長い髪と無精髭を生やした男が、暗闇の中、淡い明かりを灯し、石壁に鶴嘴ピカクスを振るっていた。


 ふと、男は、手を止めピカクスを置くと、顔を上げフッと笑い何かを呟いた。

 しかし、それは一瞬のこと。またすぐに男は、ピカクスを振るい始めた。


 男は、永遠に続くかのようにピカクスを振るい続ける。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『スフィーティア、戻れ』


 竜華が始まり、遠のきかけたスフィーティアの思念に、懐かしく優しい男の言葉が、突然届いた。


「マスターーッ!」


 スフィーティアは、現実に引き戻され、ブルブルと震えながら、動きが止まると、剣聖剣『真カーリオン』が手から滑り落ちた。


 グングニールは、スフィーティアの動きが止まると、スフィーティアから距離を取っていく。

『うぬぬ、傷が治らぬ』

 患部が光に包まれ、両腕の傷が修復できないようだ。





「ダメーーーーーッ!スフィーティア、そんな闘いをしては、ダメなの!」

 エリーシアが叫びながら、シンの駆るユニコーンで上空から近づいて来た。


 エリーシアがユニコーンから飛び降ると、スフィーティアに正面から抱きつき、声を上げる。スフィーティアは、眼を見開き、エリーシアを見た。


「大丈夫。大丈夫だから。スフィーティア、戻って来て!」

 エリーシアは、ゴツゴツと鱗の浮かび上がったスフィーティアの顔を撫でながら、必死に訴えた。その悲痛な叫びと温もりがスフィーティアを正気に戻していく。

「マスター・・・、エリーシア・・・?ブルーローズ・・・」


 スフィーティアのゴツゴツの竜鱗の肌が白磁の滑らかな肌へと変わって行き、金色の眼が、青碧眼へと戻って行く。


「スフィーティア、良かった、良かったよーーーーッ!」

 エリーシアはスフィーティアに抱きつき、灰色の眼から大粒の涙が零れた。



『おのれ、我をここまで愚弄するとは』

 グングニールは穴の開いた翼で不安定に浮かんでいたが、尚も戦闘態勢だ。


 しかし、スフィーティアの攻撃による腕の傷もすぐには癒えない。



 その時だ。


『戻れ。時間だ』

 グングニールの思念に低い女性とも男性ともとれるような声が響く。

『何を言う。今少し待て。あれを倒してくれる。そして魔女を手中に』

『よい。あれは不完全な魔女ヴェファーナ。本命は別にある。貴様の今の力では限界が近い。命令オーダーだ。戻れ』

『・・・仕方なし』


 

『良い闘いであった。剣聖スフィーティア・エリス・クライ。その名を刻んだぞ。』


 グングニールの頭上の青空に時空を歪ませ黒い大きな穴が開いた。グングニールの巨体を黒い穴が吸い込むと、時空の歪みは消え、青空へと変わった。



「待て!まだ、決着が・・」

 意識を取り戻したスフィーティアが、苦痛に顔を歪ませながらも追おうとする。

「ダメよ、無理しちゃ」

 エリーシアが、両手で制止する。

「う、ううッ」

 しかし、スフィーティアは、血の気を失い急にふらつくと、意識が遠のいていき、鎧形態アーマーモードが解除され、正装状態フォーマルスーツとなり落下していく。


「きゃあっ、スフィーティア!」

 エリーシアは、スフィーティアから押され離された。

 真っ逆さまに落下していくスフィーティアに、尚も手を伸ばし離れまいとするエリーシア。


「エリーシア様!」


 シンは、ユニコーンを駆り、上空から迫るとエリーシアの腕を掴み引き寄せ、ユニコーンの鞍上の自分の前に座らせた。

「ありがとう。シン、スフィーティアを!」

「お任せを。来い、神の手(ゴッドハンド)!」

 シンの背中の辺りから、無色透明な大きな腕が浮かび上がる。


 そして、スフィーティアの落下軌道に近づき、ゴッドハンドでスフィーティアを掴んだ。


 ユニコーンを降下させ、地上に降り立つと、ゴッドハンドからスフィーティアを地上に降ろした。


「スフィーティア!」

 エリーシアがユニコーンから飛び降りると駆け寄った。


 シンも、ゆっくりとスフィーティアに近づくと、エリーシアの背後からスフィーティアを見た。


 シンは、朝焼けに照らされたスフィーティアの顔を見て、眼を見開いた。


「ティア・・・」

 



 紫陽月しようづき(6月)16日となった。


 長かった一日もようやく夜明けを迎えた。


 朝焼けに照らされた、カラミーア領都カラムンドは、傷ついた遺跡のように佇んでいた。その戦痕が深く刻まれた都市に、街の住人が長い列を作っていた。


 領都カラムンドの人々は、この永遠とも感じた長かった一日を忘れることはないだろう。



 

 そして、グングニールとの闘いで竜力を限界を超えて使い過ぎてしまい、重傷を負ったスフィーティア。


 白いロングコートは破れ、裂けたブラウスから覗く胸元の輝石きせきからは・・・、


 あの美しい蒼い輝きが消えていた。


 スフィーティアの美しい顔は、血の気を失って青白くなっていたが、透き通るように美しかった。その薔薇のような赤い唇だけが、色を発していた。



 女神をも嫉妬させるという美剣聖スフィーティア・エリス・クライ。

 

 彼女の物語は、尚も続く。




『剣聖の物語 ~美の剣聖 スフィーティア~ エリーシア篇』(完)


 最後にもありましたが、『剣聖の物語 ~美の剣聖スフィーティア~』は、まだ続きます。次は、「エリーシア篇」から「東大陸篇」へと移ります。舞台が、西ヴェストリ大陸からイーストリー大陸へと移り、スフィーティアが更なる竜力ちからを求め、東大陸を放浪する話がメインとなります。エリーシア篇から約1年度をメインに描く予定です。まだほとんど描けていませんが。併せて、アマルフィ王国とエリーシア篇では言葉だけで出ていたルーマー帝国との戦端が開かれる話を描いていきたいです。こちらは、アレクセイとエリザベス王女を中心に描いていきます。そして、忘れてはならないスフィーティアと離れたエリーシアの成長の話も描きます。最後意味深で終わったシンとスフィーティアの関係は?と気になる方もいるかもしれません。


 そんなこともあり、上にあげたようなエピソードは、短編など何らかの形で公開したいと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ