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第66話 覚醒(イーベイル)

 スフィーティアは、グングニールによる強烈な拳の一撃により領都から東側の大きな森へと大きく弾き飛ばされ、樹々をなぎ倒しながら、切り立った断崖に激突し、めり込み止まった。

 白銀の鎧の鎧形態アーマーモードから白いロングコート姿の正装状態フォーマルスーツへと解除され、崖から落下し、うつ伏せに地面へと横たわった。


 スフィーティアの意識が、次第に遠のいていく。


⦅おい!馬鹿、しっかりしろよ。ヤバい状況だぞ!⦆


 スフィーティアの胸に埋め込まれた青緑色ターコイズブルーに光る輝石が呼びかけると、微かに反応した。


「うう・・・」

⦅しっかりしろって!⦆


 そして、スフィーティアは、辛うじて動き、崖にもたれ掛かった。

 一瞬細く目を開け、空を見上げたが、すぐにまた目を閉じた。


⦅スフィーティア、スフィーティア、・・・・・・・・⦆

 しかし、その呼びかけもはるか遠くにかすれて行き、スフィーティアは意識を失った。




【スフィーティアの意識の中】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「私はここで終わるのか・・・。グングニール(やつ)の力の前に何もできなかった」

 スフィーティアの青碧眼から涙が零れた。


 そんな弱気の声を漏らすと目の前に、ある光景が浮かび上がって来た。そこには、まだ今よりも若いスフィーティアがいた。


 目の前の彼女は、ボロボロだった。顔は眼が腫れ、片目が開かない。身体も傷と青あざだらけで剣を杖にして辛うじて立っていた。

 そして、そんなスフィーティアと向かい合っているのは、輝くばかりの黄金色の髪の美青年の男だった


「マスター!」

 意識の中のスフィーティアは叫んだ。



 目の前にいるのは、スフィーティアの師であるユリアヌス・カエサル・ブルーローズだ。


「スフィーティア、お前はこれ位で音を上げるのか?」

「まだ、まだやれます・・・」

 その言葉を聞くと、ユリアヌスは、眼にも止まらぬ速さで剣を振るうと、容赦の無い突きをボロボロのスフィーティアに見舞った。スフィーティアは剣で辛うじて受けていたが、さばききれず激しい一撃に飛ばされ、地面を派手に転がった。


「立て」

 近くまで来ると、ユリアヌスは、剣をスフィーティアに向けた。スフィーティアは、起き上がるとその剣先の向こうのユリアヌスを見上げる。


「スフィーティアよ、我々剣聖が竜という強大な敵を相手にする以上、時にとてつもなく強大な敵と出会おう。そんな時お前はどうする?」

 突然、ユリアヌスはそんな問いを投げかけた。


「はい。敵わなければ、そこは退くべきかと・・・、考えます」

 目の前の若いスフィーティアは恐る恐るそう答えた

「普通はそうだろう」

 ユリアヌスは、剣の柄でスフィーティアの横面を殴った。スフィーティアは、また、大きく飛ばされ、再び地面を転がる。

「うがぁッ!」


 ユリアヌスが、再び横たわっているスフィーティアの傍に来て、屈むとスフィーティアの前髪を掴み持ち上げた。

「うう・・」

 若いスフィーティアの表情が苦痛に歪む。

「そんな考えは失格だ。退くことなどできないんだ。そこで命を失う者、乗り越える者がハッキリと出る。その差はなんだ?」

「は、はい・・・」

 若いスフィーティアは、答えられず、薄っすらと開く片目でユリアヌスをまじまじと視ていた。


「それは、《《己の限界を疑えるか》》だ。我々剣聖には、不思議な力が宿っているという。しかし、その力に目覚める者は、ほとんどいない。その力を、発動するきっかけは、限界を超えた時に起こると私は信じている。このことを忘れるな。スフィーティア、()()()()()()()()

 そう伝えると、ユリアヌスは、スフィーティアを抱き起した。


「マスター、どうして今、私にそのことをお話になるのですか?私は、まだマスターから学ぶことが沢山あります」

「・・・」

 ユリアヌスは、若いスフィーティアの真っ赤に晴れた頬を撫でた。すると、暖かい光が傷を癒して行く。


 しかし、ユリアヌスからの回答は無かった。



 その時の手のぬくもりがその光景を視ている今のスフィーティアにも伝わって来るようだった。


 そして、その光景が遠ざかって行った。


「限界を疑え・・」

 回想の中のスフィーティアが呟く


 そして、また別の場面に写って行く。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 獣人族の子キラは、森の中でブルブルと震え、うずくまっていた。三角の耳が垂れ下がっている。


「シン、キラ怖いよ」


 キラは、シンがエリーシアを介助している間に、その場をそっと離れていた。


 エリーシアとシンの様子を見て、その場にいてはいけないと、感じたのだ。 

 シンのあの真剣な表情を見て、声をかけることも出来ず、立ち尽くして見ていることしかできなかった。


 シンは、探し求めていた人に出会えたのだ。


 それは、自分とあまり歳も変わらない少女だった。

 その少女は、あまりに美しく、高貴にキラには見え、眩しかった。


 その瞬間、シン・セイ・ラムザという心優しい青年が自分とは、住む世界が違うのだということに気づかされた。


 シンという誠実な若者は、幼い時から闘いの中に身を置いて、平気で人を殺してきた血なまぐさい自分などが、慕って傍にいて良い人ではないのだ。

 シンは自分とは生きる世界が違う遠くの存在であると感じ、二人の間には大きな壁があると感じて哀しかった。

 

 だから、あの場から去った。



 しかし、キラは、シンのことが大好きになってしまっていたのだ。

 あの優しい手で撫でられると、とても安心した。

 すると、またシンの傍にいたいという気持ちが込み上げ、キラはどうしたら良いのかわからなくなった。




「シン・・・」

 キラが、顔を上げた時だ。


 バーキバキバキバキバキバキバキーーーーーッ!



 突然、頭上の大きな音と共に、キラの上方を何かが物凄い速さで左方向から飛んできて、樹々をなぎ倒しながら、右方向へと消えて行った。


 キラは、キッとなり、突然アドレナリンが昂った。

 そして、衝動的に通り過ぎていった物体の方へと走り出した。


 キラは、目の前を通り過ぎて行ったものが落ちた崖の所まで来ると、眼をみはった。



 そこには、白いロングコートを纏った女性が崖にもたれ倒れていた。

 キラには、その女性が淡く光り輝いているように見え、神々しさを感じて震えた。



 そう、キラは、傷を負った剣聖スフィーティア・エリス・クライがグングニールの一撃により弾き飛ばされた現場に来ていた。



 キラは恐る恐るスフィーティアに近づく。


 近くまで来ると、スフィーティアのあまりにも美しさに目を奪われた。女神様がいるとしらたこんな姿なのではないかと思った。


 青白くなり、力なく横たわっている()()()()は、生きているのか確認したくなった。


 そして、左腕を失くし、そこから血が微かに浮かんでいるのに気づいた。


 心臓の辺りに耳を当てると、胸の青い石だけが輝いているが、鼓動が非常に弱くなっているのを感じた。

 そして、失くした左腕の傷口を見ると、引き寄せられるようにキラは、ペロペロと舐め始めた。



 キラが暫くそうしていると・・・。

「マスターーーーーーーーーッ!」

 スフィーティアは、突然大声を上げた。キラは、ビクッと驚き傷を舐めるのを止め、傍から離れ、茂みへと隠れた。





【再びスフィーティアの意識の中】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ここは?」


 また今より若い自分を見ていた。


 この場面には見覚えがあった。


 剣聖団本部で、最強の称号『アルファシオン』を与えられた時だ。

 

 庭園で授与式が行われた後、軍師リニアルレオナルド・ラインハルトと向き合った時だ。



「スフィーティア、僕は()()君の実力だけを見て君にアルファシオンを与えようとしたのではない。今の実力ならアレクセイ・スミナロフと変わらないだろう。嫌、彼の方が上かな」

「では、何故アレクセイに与えないのですか?」

 若い自分スフィーティアは不服の表情を浮かべた。


「剣聖の力の源は何だい?」

「この胸の輝石から得られる竜力です」

「そうだ。じゃあ、その輝石の力を最大限に引き出すためには?」

「輝石の竜に契約を果たさせることです」

「まあ、そうだね。スフィーティア、君は竜がどれだけの力を貸すか考えたことがあるかい?」

「はあ?」

「輝石の竜の判断で相手によって、竜力の出し具合が変わるのさ。これは、あくまでも竜の都合だ。この域に留まっていると剣聖は真の力を発揮できない。残念ながらほとんどの剣聖はここ止まりだ」

「そのことは、承知しています」

 スフィーティアは、頷いた。


「だが、君とアレクセイは違う。次の『アルファシオン』候補にしていた要因の一つだ。もう一つは輝石の持つ竜力フォースの量だ。君ら二人の胸の輝石は特別だ。コードクラスの竜を相手にできるほどにね」

「・・・・」

「君は、まだその膨大な輝石の力を発揮しきれていないし、真の力に気づけてもいないだろう」

「では、その力はどうすれば手に入るのですか?」

「それを僕に聞くのかい?残念ながら、僕が君にこれ以上答えられることはないよ。そこに達するか否かは君自身の問題だから」

「自ら答えを出せと?」

「ああ。称号アルファシオンは、そんな君への期待値も込められている」

「わかりました」

「一つ言っておこう。きっと鍵となるのは、君が本当の壁にぶち当たったときだ。そんな壁は一つではないだろう。そのことは忘れないように」


 意識の中のスフィーティアから、レオナルドがドンドン遠くなり消えた。




 薄暗い闇の空間の中に、スフィーティアは、一人取り残された。


 意識下のスフィーティアは全裸だった。



「おい、いい加減目を覚ませよ」

 そこに、青髪の長髪で薄青い肌をしたガッシリとした体格の男が、急に近くに現れた。

 

 男は裸体だ。

 

 そして、スフィーティアの両肩を揺する。


「己の壁は一つではない・・・。限界を疑え・・・」

 俯いてスフィーティアが呟くように言う。

「ああ?何をブツブツ言ってるんだ?大丈夫か?」

 青髪の男が、俯いたスフィーティアの顔を覗き込む。


「まあ、いいか」

 そう言うと、青髪の男は、スフィーティアの豊かな胸に顔を埋め、彼女の身体を味わおうと手を動かした。



 青髪の男は、暫くスフィーティアの身体中を舐めましわたり、胸や秘部を縦横に手を動かしていた。

 

 スフィーティアは、この男の行動に抵抗もせず、身を委ねていた。



「そうか、わかった・・」

 暫くブツブツ言っていたスフィーティアが声を上げた。



 スフィーティアの身体からは青白い光が発し始めた。


「うん?」

 その光に気づき、スフィーティアの下半身を舐めていた青髪の男は、顔を上げた。


 スフィーティアの眼は黄色く光り、青髪の男に鋭い眼光を向けた。


「フレイ、貴様のその命を私に捧げろ」


 スフィーティアは、青髪の男の首を右手で掴むと、男を軽々と頭上まで持ち上げた。


「お、お前、な、何を・・・。う、うぐっ!」

 青髪の男が、スフィーティアの手を首から放そうとするが、できない。

グングニール(あれ)を倒すにはお前の命が必要だ」

 スフィーティアは、男の首を右手で締めあげる。

「ウガガガ・・・。貴様、こんな事をして、俺の竜力ちからを借りられると思って・・いる・・・のか?」


「借りるだって?違うよ、フレイ。お前の竜力ちからを奪うんだ」

「ウガガ・・」

 スフィーティアの右腕が光を増す。すると、肩口に光の竜が浮かびあがった。


 その光の竜が、ニョロニョロと動き、青髪の男に顔を近づけ、睨む。


「止せ!貴様、契約を破棄するつもりか!ウグワァッ!」

 光の竜が、青髪の男の首に喰いつくと、男の首から蒼い鮮血が飛び散り、それをスフィーティアは浴びた。


 スフィーティアが、右手を男の首から離すと、青髪の男がスフィーティアの肩にもたれかかった。

「すまない、フレイ」

「ゲホッ、ゲホッ・・・。貴様も・・・、死ぬ・・・ぞ」

 青髪の男は蒼い血反吐を吐く。

「・・・・」


 スフィーティアは、口から血を吐いている青髪の男を横たわらせた。

 スフィーティアの光の竜が、青髪の男の胸を喰いちぎり、心臓を喰いやぶった。


 おびただしい蒼い鮮血が飛び散り、スフィーティアはその血を浴びた。

 


 光の竜が光の剣へと変化すると、尚も容赦なく、スフィーティアは、男の心臓に剣を突き刺した。

 その度に大量の蒼い血が飛び散りスフィーティアは、それを浴びる。

 心臓を突く度に蒼い血はいつ果てることなく飛び散った。


「貴様の竜力ちからをよこせ、よこせ、よこせーーーーーーーーっ!」


 スフィーティアは叫びながら、その作業を続けた・・・。


 そして、男の心臓から蒼い血が止まった。


 カラン、カラン。


「うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 竜の血を浴び続けたスフィーティアは、剣を落とすと絶叫した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 剣聖スフィーティア・エリス・クライは、意識を取り戻した。


 胸の蒼碧色の竜石が、今までに無いほどの輝きを放ち、辺りを光で包んでいた。


 スフィーティアは、ムクリと立ち上がり、眼を開いた。

 

 その眼は、青碧眼ではなく、妖しく黄色い眼をしていた。


 そして、身体中から光を発すると白いロングコートの正装状態フォーマルスーツから白銀の鎧の鎧形態アーマーモードへとコスチュームが変わった。



 スフィーティアは、失くした左腕の傷口を右手で触り、前方に動かす。

 すると、左腕がズボッっと伸びて来て復活した。


 軽く確かめるように左腕を動かした。すると、生えて来た左腕も鎧が覆う。



 右手を前方に伸ばすと、スフィーティアの剣聖剣カーリオンがどこからともなく飛んできて、それを掴んだ。



⦅ひいい!誰だ、お前は?や、やめろーーーーッ!⦆

 

 スフィーティアが、黄色く妖しく輝る眼で剣聖剣カーリオンを見つめると、剣は光を発し、より大きな剣へと変形していった。




「う、うわぉーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 スフィーティアは絶叫した。


 すると、眩い光が迸り、スフィーティアを包むとスフィーティアの身体が大きくなった。3メートル以上はあろうか。

 

 そのスフィーティアを包む光が竜に見えなくもない。

 

 そして、スフィーティアは、上空を見上げ、背中の光の翼を羽ばたかせた。


 すると光の線が上空高く舞い上がり、夜闇を貫くと、空が明るく輝いた。



                             (つづく)


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