第65話 神聖剣
スフィーティアは、グングニールの一撃により大きな森の中へと弾き飛ばされてしまった。
そして、グングニールの関心は、魔女であるエリーシアに向いた。
ドラゴンは、魔力を好むため、魔導士は襲われやすいのだ。桁違いに強い魔力を持つ魔女となれば余計だ。竜を吸い寄せると言っても良い。ただ、通常ランクのドラゴンでは、それは喰いきれないため、対象とはならない。少なくとも最強クラスのドラゴンであるPS級でないと魔女の膨大な魔力を取り込むことはできないのだ。
因みにドラゴンの階級とは、下からOD級、DT級、BT級、FG級、そして最強クラスのPS級の5クラスである。
これは、剣聖団がかってに格付けしたものだ。通常、エメラルド・ドラゴン(風属性)とアンバー・ドラゴン(土属性)などは、ODとDTがほとんどで、上位3種のドラゴン(クリムゾン・ドラゴン(炎属性)、サファイア・ドラゴン(氷属性)、ヘリオドール・ドラゴン(雷属性))は、DTからFGまで見られる。最上位ランクのPS級は、極々まれなのだが、グングニールはその範疇にも収まらないPS級をも超える規格外のドラゴンだ。これらには、剣聖団優先討伐コードが付されている。G(グラムGram)、G´(グングニールGungnir)、L(ロンギヌスLonginus)の三大最恐龍となっているが、これ以外にもいるとかいないとか。
話を戻そう。
「おお!我が贄よ。我の糧のなり、我の竜力高進に貢献せよ」
グングニールが、エリーシアを捉えようと動いた。
後方からユニコーンに接近し、腕を伸ばし、エリーシアを捉えようとする。
しかし、シンの駆るユニコーンの動きは素早い。
グングニールは、中々ユニコーンを捉えることはできない。
(このまま奴から逃げ続けるのは無理だ)
シンは、思案していた、
「エリーシア様、私があの竜をここで食い止めます。その間に逃げてください」
「なりません。あれの狙いは私です。ならば、私が相手にします」
「しかし・・・」
「こんなことを話している場合でもないでしょう。覚悟を決めましょう」
「わかりました」
今のエリーシアは、8歳の少女のそれではない。今自分がやるべきこと、採るべき覚悟というのを認識していた。シンもエリーシアをただの少女とは思わず、主君の覚悟に触れ、頷くしかないと思ったのだ。
(絶対にエリーシア様をお守りする。師匠力を貸してください!)
シンは瞑目し、一瞬、師であるアトス・ラ・フェールを思い浮かべると、クワっと眼を見開いた。
「来い、神の手」
シンは、逃げ回るのを止め、ユニコーンがグングニールと向き合った。
そして、間髪入れず、神の手の一撃をお見舞いする。
グングニールがこれを腕で受け止めるが、もう一方の神の手は受け止めきれずに、殴られ飛ばされた。
間髪入れずに、神の手はバランスが崩れたところをグングニールに上方から更なるパンチの一撃をお見舞いする。
強烈な神の一撃により、グングニールは地上に落下して行った。
「これでも食らいなさい!」
さらにエリーシアは、右手に光の槍を作りだし、それを次々と投げつけ、追い打ちをかけた。
(エリーシア様。凄い、何て魔力なんだ。エリーシア様からの魔力供給で不安なくゴッドハンドで戦える。さらに、ご自身でも魔法攻撃を加えるなんて。まだ子供の身でありながら、既にこれほどの魔法力をお持ちとは・・・)
グングニールは、地面に激突する寸前で体勢を立て直し、着地した。エリーシアの光の矢の攻撃もグングニールに当たるが効果はあまりないようだ。
「フフフ、この魔力、まさに魔女のもの。儂の欲するものだ」
エリーシアの光の矢を左腕を掲げ防御し受けつつ、グングニールは、見上げてそう言った。
「魔法が全然効かないなんて・・」
エリーシアに焦燥の色が見えた。
「エリーシア様、私に策があります」
「策?」
「はい、エリーシア様は、私に魔力供給をお願いします」
シンが後ろを振り返り、任せて欲しいという真剣な眼差しを向けた。
「わかりました。シン、あなたに任せましょう」
エリーシアは、シンを臣下として認めたようだ。
「御意」
『シンよ。黄金剣はな、只の剣じゃない。魔法と組み合わせることで様々な、より強力な攻撃が可能となる。何せ神聖オーディンの力を発揮することも可能と言われる剣だ。そのことを覚えて置け。それは、魔女の騎士たる筆頭騎士が魔女を守るための力だ。その時、神の手と黄金剣の真の力が発揮されるだろう』
シンは、師アトス・ラ・フェールの遺した言葉を思い出した。
「わかりましたよ。師匠」
(あの時は、どういう意味かわからなかった。でも、今エリーシア様の近くにいて、それが、どういうことかわかった)
シンの腰の黄金剣が光を発し反応している。エリーシアの魔女の魔力に反応しているのだ。
グングニールは、飛び立つと向かって来た。
シンは輝く黄金剣を引き抜き、頭上て回転させた。
「来たれ、神の手!」
神の手がシンの背中付近から現れた。
それは、今までよりも巨大な神の手だった。グングニールの大きさを超えている。
シンは、黄金剣を神の手に向かって投げると、神の手がそれを掴む。
「召喚、神聖剣!」
神の手が黄金剣を掴むと、黄金剣剣が黄金の輝きを発した。
すると、黄金剣が透明な大きな剣へと変化していき、『神の手』がこれを握り、大きな透明な剣は、眩い黄金の輝きを発した。
それは、巨大な腕と剣だけであるが、神の神々しさを纏っていた。
まさに、神が持つにふさわしい、『神聖剣』と云えよう。
「喰らうがいい!」
シンが叫ぶ。
シュンッ!
神の手が上段から神聖剣で斬りつける。
その動きも神速と言える速さだ。
グングニールは、咄嗟にこれは、まずいと避けたが、遅かった。
神聖剣により左腕がストンと斬り落とされた。
「何と、これはあの時と同じ・・」
シュン、シュン、シュンッ!
更にシンは、グングニールに接近し、神速の神聖剣の連撃を繰り出す。
グングニールのもう一方の右腕が飛び、翼も斬り落とすと、グングニールはバランスを崩し、地上に落下した。
地上に降り立つと、グングニールの落とされた右腕と左腕がボコボコッと復活し、翼もバサッと羽ばたかせると復活している。
恐ろしいまでの回復力だ。
この最恐龍を倒すなど想像すらできない。
「何という回復力・・・」
「フフフ、やはり魔女の力は、我を脅かすか。だが、その魔力こそ我が望み。よかろう、絶望をくれよう」
グングニールは、上空高く飛び立つと、領都カラムンドの方角を向いた。
そして、黒炎ブレスをその口から放とうという姿勢に入る。
「ダメよ!あれを止めないと!」
察したエリーシアが叫ぶ。
グガガガガガガガガガガガーーーッ!
「お任せを!」
グングニールがブレスを放つとほぼ同時に、シンは神聖剣の神速の一閃をグングニールの放った黒炎ブレスの軌道上に振り上げた。
シュンッ!
見事に、神速の一撃が、黒炎ブレスを下方から捉えると、ブレスの軌道を上空へとずらし放り上げた。
チュドドドーーーーーーーンっ!
暗い夜空の分厚い雲を貫き大きな黒炎ブレスの爆発が発生し、空が赤く染まった。
その後に、スコールのような雨が落ちて来た。
尚も、グングニールは黒炎ブレスを領都に向けて放つが、全て神の手による神聖剣により、遮られた。
「シン、グングニールを攻撃してください」
そう言うエリーシアだが、辛そうだ。
神聖剣発動による魔力消費は、絶大だ。いくら彼女の魔力量が半端ないとは言え、消耗して来ている。
「御意」
そのことは、シンも承知していた。
(これ以上戦い長引かせる訳にはいかない。ここで決める!)
シンは、ユニコーンを上空高く舞い上がらせた。
「逃げるのか?」
グングニールがそれを目で追った。
「誰が逃げるものか!」
次の瞬間、グングニールの背後に神聖剣を持った神の手が出現し、十文字に神速の一撃をグングニールにお見舞いしたのだ。
虚を突かれた形となり、グングニールの右上半身が斬り落とされた。
グガッ!
これには、グングニールが口から大量の血を吐いた。
「よし、行ける!」
神の手が神聖剣による鋭い突きの一撃をグングニールの心臓目がけて放つ。
「小賢しきかな」
グングニールの傷口から巨大な鱗のついた右腕が復活し、神聖剣の一撃を止めた。
「良かろう。少し本気を見せてくれる」
『グヴォヴォヴォーーーーーーーンッ!』
心に直接響く咆哮をグングニールが上げた。
この声は、辺りに地響きの如く轟き渡り、領都にまで轟いた。
領都カラムンドでは。
「うわーっ!何だ!この内から響く声は?」
「怖い!怖い!怖い!」
「何よ、これ?この世の終わりなの!」
人々は、頭を抱え、逃げ惑う。
領都カラムンドは、恐怖に染まり、混乱に拍車がかかった。
地を覆うほどの咆哮をあげたグングニールの竜体は、急激に巨大化していった、
そして、体長100メートルを超えよう大きさの漆黒のドラゴンの姿へと変化した。
頭には巨大な二本の角、巨大な翼、何物も受け付けないほど固そうな鱗に覆われた身体、長い手足と体長ほどもある長い尾っぽを持っていた。
「なんだ!この巨大なドラゴンは!」
巨大ドラゴンへと変化したグングニールにより、右手の握力で神聖剣は砕かれ、消された。
「チッ!」
黄金剣が、飛ばされてくると、シンはユニコーンを軌道上に走らせ、黄金剣を掴んだ。
『神聖剣』を強大龍へと変化したグングニールに粉砕され、シンとエリーシアは、その上空を、ユニコーンを旋回させながら、見つめていた。
神聖剣での攻撃でエリーシアの魔力消耗が大きくなり、限界が来ていた。
エリーシアの呼吸が荒くなり、苦しそうにしていた。
「エリーシアさま、大丈夫ですか?」
シンが、気遣いの言葉をかける
「ハアハア、大丈夫です・・から」
エリーシアが、無理して微笑む。それが却って痛々しい。
(クソ、エリーシア様に負担をかけ過ぎた。僕は、聖魔騎士だ。エリーシア様を守るための騎士だ。この身に代えても守る!)
『遊びもこの辺で良いだろう。さあ、魔女よ、我のところへと来るが良い』
直接心へと響くグングニールの声が二人へ届く。
グングニールが手招きをすると、エリーシアがユニコーンから浮かび上がって行く。
「きゃあッ!」
「エリーシア様!」
シンがエリーシアを行かせまいと手を伸ばしたが、掴めなかった。
そして、浮かび上がったエリーシアを赤い光が包み込んだ。
赤い光が、徐々に赤い透明なカプセルへと変化する。
「え?何これ?」
エリーシアが、赤い透明なカプセルから出ようと叩くが、ドンドンと音がするだけだ。
シンが、ユニコーン旋回して来て、エリーシアを包む赤い透明なカプセルに追いつき、黄金剣で破壊しようと斬りつけた。
カキーンッ!
しかし、それは固く弾かれてしまう。
グングニールが左手の中指を動かすと、エリーシアを包む赤い透明なカプセルは、グングニールの左手の指先へと移動していく。
そして、近くにきた赤い透明なカプセルを指で摘まんだ。
カプセルを目の前に近づけ。大きな赤い目で、エリーシアを視つめた。
エリーシアは、グングニールの赤い眼に睨まれ、背筋に冷たいものが走り、身を震わせた。
「嫌、嫌、ここから出して!スフィーティアーーーーーーーーーーッ、助けてッ!」
一気に落ちてきたスコールのように振った雨により雲が消え、エリーシアの悲痛な叫びが、澄み渡った空へと響き渡った。
(つづく)
神聖オーディンの力をも最恐龍グングニールは通じなかった。囚われたエリーシア。彼女の悲痛の叫びは、届くのか?この剣聖の物語もクライマックスを迎えます。




