第64話 神の手
最恐龍グングニールとの戦闘が続きます。果たしてこの強大な竜との闘いの結末は?
最恐龍グングニールとスフィーティアの戦場に戻そう。
接近戦では、スフィーティアとグングニールの激しい剣戟と鉄拳の応酬が続く。
両者が距離を取ると、グングニールは黒炎の球をスフィーティアに浴びせる。
スフィーティアがこれを剣戟で弾くと、一部の火の粉が領都まで降り注ぎ、領都カラムンドでは火災が発生した。また、スフィーティアも閃光剣を繰り出し、剣聖剣から光の一撃を放ち、グングニールを攻撃する。
両者の距離が離れると、グングニールが黒炎玉を放ち、スフィーティアが剣聖剣で受け弾くと領都まで被害が及んでしまう。
その事に気づいたスフィーティアは、閃光剣の光撃をグングニールの黒炎球にぶつけた。するとパッと光ると黒炎球を消滅させていく。
(これで、領都への被害は、止められる)
スフィーティアは、そう考えた。
しかし、ここまでの激しい闘いと鎧形態での戦闘でスフィーティアはかなり消耗を強いられ、肩で息をする。
(これ以上の長期戦は分が悪いが・・・)
「ほう。まだそんな技を繰り出せたか。しかし、消耗が激しいように見えるが」
グングニールには、見抜かれていた。
「まだまだやれるさ。貴様を倒すまではな」
スフィーティアは、それでも額に汗しながらニヤリと笑う。
「強がりを・・。まあ、良い。貴様ら人間の弱点を教えてやろう」
グングニールは、黒炎ブレスを放つ態勢に入った。
先程までの間髪入れず放つブレスとは違い、明らかに威力を増すように竜力を溜める動きだ。それも狙いはスフィーティアではなく、領都方面を向いた。
「何!」
スフィーティアもグングニールの意図に気づき、素早く動いた。
「やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
しかし、その叫びも空しく響き、グングニールの威力を溜めた特大の黒炎ブレスが放たれた。
グガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーッ!
スフィーティアが、一瞬で黒炎ブレスの進路上に移動し、左腕を伸ばし、光盾を展開してこれを受け止めようとした。
しかし、特大の黒炎ブレスの威力はすさまじく、抑えきれなかった。
代わりに光盾を展開したスフィーティアの左腕ごと持って行き、領都カラムンドへと一直線に黒い極太い線が走った。
「早く!」
サンタモニカ・クローゼは、部下のシュシュとともにマジックカーペットに乗り、領都へと急いでいた。
「え?」
一瞬何かの接近に気づき、二人は後ろを振り返った。
その瞬間。
グガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーッ!
モニカとシュシュの乗るマジックカーペットを、突然、後方から黒い極太の線が霞めた。
その直後に線上に爆発が発生し、爆風により二人の乗るマジックカーペットが上空へと大きく飛ばされた。
「キャアーーーーーーッ!」
二人は振り落とされないようにとカーペットに必死にしがみつき、悲鳴を上げた。
そして、次の瞬間。
領都カラムンドは、黒い爆炎線が領都の東門付近を通過すると、黒い線が通過した付近の建物は消滅し地を深く抉って通過した。その後に通過した周辺で大きな爆発が発生し、城壁や建物を吹き飛ばしていく。
領都カラムンドの黒の爆炎線が走った東部一帯では火災が次々と発生し、領都は燃え上がった。雨中の暗闇に赤々と焔の影が大きくユラユラと遠方からでも確認できた。
モニカとシュシュは、爆風が収まるとマジックカーペットを水平に安定させその上になんとか乗れた。
「うそ!」
「領都が燃えている・・・」
二人は言葉を失った。
「うぐぁわっ!」
スフィーティアが、黒炎ブレスにより左腕を失い、苦痛に表情が歪んだ。
傷口から大量の血が流れだしている。
それでも、スフィーティアは、グングニールを睨んでいた。
「愚かなり。人間とは本当に愚かだ。弱き者など捨て置けば良いものを。自らを犠牲にするとは。それが、貴様等人間の弱さよ」
スフィーティアは、大量に出血し、意識が朦朧としていく。それでも、スフィーティアは、落ちることはなかった。
⦅おい、馬鹿野郎、何やってやがる。早く傷口を塞ぎやがれ。お前に死なれちゃ困るんだよ!⦆
しかし、スフィーティアは、その声、胸の輝石の声に反応していない。
⦅馬鹿め。チっ!これは貸しにして置くぞ!⦆
スフィーティアの胸に埋め込まれた青い輝石が少し輝きを増すと、輝石から左腕の方に冷気が走り、凍えさせ、失くした左腕の傷口からの大量の出血が止まる。
しかし、そこまでだ。
スフィーティアは、顔面が蒼白となり荒い息遣いで宙に浮いたまま、尚も動けずにいた。
それでも、細い青碧眼がグングニールを睨んでいる。
グングニールが口を開く。
「期待外れか。貴様にあの者の気配を感じたのでもっとやれるものと期待していたが。よい。今度こそ貴様に死を与えよう」
グングニールは、黒炎ブレスを再度放とうと口を窄める。
「ダメーーーーーーーーーーーッ!」
そこに、エリーシアとシンが、一角羽馬に乗り突進してきた。
そして、スフィーティアをかばう様に前に出る。
グングニールがブレスを放つ瞬間だ。
「来い。神の手!」
ブーーーーーンッ!
グガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーッ!
ズッドーーーーーーーーーーーーーンッ!
大きな透明な腕がシンの背中付近から現れると、スフィーティアの手前で、無色透明な神の手がグングニールの黒炎ブレスを掌で受け止める。
「うグわアッ!」
黒炎ブレスを神の手が受け止めた瞬間、シンの表情が歪む。
今までに感じたことが無いほどの精神的な負荷がシンを襲う。
尚も、巨大な黒い爆炎ブレスは消えることがない。
「シンさん、頑張ってください」
シンの後ろのエリーシアが、応援する。
「は・・い・・・」
エリーシアは、気付いた。
シンの魔力が急激に萎んでいく。
「やらせないわ!」
エリーシアは、シンの背中に両手を当てる。
すると、エリーシアの強大な魔力が、シンへとドンドン伝わって行く。
シンの精神的な負荷は急激に収まっていく。
(やれる!)
「うわぉーーーーーーーーーーーッ!」
シンが気合を込めて絶叫すると、グングニールの黒炎ブレスは、上空に軌道を逸らし、空高く黒く輝る線を描き、暗い厚く覆う雲を貫いた。
雲の中で激しい爆発が次々と起こると、大粒の激しい雨が一気に滝のように落ちて来た。
そして、シンの神の手も消えた。
『神の手』とは、聖魔道教団が信仰の対象とする唯一神である聖神オーディンの腕の力を具現化したものと言われる。腕だけとは言え、神の力であるので、とんでもない神聖魔法の力となる。
「うう、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア・・・」
一角羽馬上のシンの呼吸は荒く、肩で激しく息をする。
「よくやってくれました」
エリーシアが労う。
一方、グングニールは、ただ宙に浮いているだけだったスフィーティアに接近すると、スフィーティアを拳で殴りつけた。
ドドーーーーーーーーーーンっ!
スフィーティアは、大きな森の方へと飛ばされ、樹々をなぎ倒しながら、斜面に激突し、めり込み止まった。鎧形態から白いロングコート姿の正装状態へと解除される。
⦅おいおい、しっかりしろよ。ヤバいんだぞ!⦆
スフィーティアの胸の輝石の叫びだ。
しかし、スフィーティアの意識を遠くなっていった。
「スフィーティア!」
エリーシアが、スフィーティアが飛ばされた方を見て叫ぶ。
「我のブレスを止めるとは、人間にしては大したものだ。驚いたぞ」
グングニールは、スフィーティアの方から、ユニコーンに乗るシンとエリーシアへと視線を向けた。
「そして、この魔力。魔女とはな。ウッフッフッフ。探すまでもなく贄の方からやって来るとは」
グングニールの悪魔の口元が緩んだ。
そして、最恐龍グングニールは、悠々とシンとエリーシアに狙いを定めた。
(つづく)
スフィーティアは、グングニール敗れたのか?
エリーシアとシンは、グングニールとどう対峙していくのか?




