第63話 それぞれの想い
またして場面展開でそれぞれの立場でこの最恐龍との戦いを描いています。
紫陽月(6月)15日 戌時初刻(19時)頃
厚い雲が空を覆い暗くし、大粒の雨が降り、雷鳴も轟いていた。
エリーシア、モニカとシュシュ、それにシン・セイ・ラムザは、グングニールによる黒い爆炎線が空から落ちて来て爆発したのを確認し、その現場へと森の中を急いでいた。
「エリーシア様、お待ちください!」
シンが、急に何かを察知して叫んだ。
そして、前を行くエリーシアの腕を掴み引き寄せた。
「え?」
エリーシアが急に引かれ驚く。
シンは、エリーシアを抱き寄せると、向かっていた方に背を向け、着ていたローブでエリーシアを守るように覆った。
その瞬間、前方を左(南)方向から右(北)方向へと黒い太い線が走ったかと思うと、すぐに左から右へと大きな爆発が次々と沸き起こって行く。
チュッ・・・、ドドドーーンッ!
爆風が巻き起こり、樹々がなぎ倒され、飛ばされた。
「キャーッ!」
モニカが前方からの物凄い爆風に飛ばされそうになる。
「モニカ先輩、しっかり掴まってください!」
シンが、飛ばされる寸前でモニカの腕を掴んだ。
「あ、ありがとう」
モニカがとんがり帽子を押さえながら、シンの腕を取る。
「うにゅにゅにゅ・・・」
シュシュは、地面に這いつくばりかろうじて爆風を踏ん張った。
爆風は、すぐに収まったが、周囲では火災が発生していた。樹々から木々へと炎が上がっている。
「今の爆発は?」
モニカがシンから手を離して言う。
「領都の方向からでしたね」
シンが、険しい表情で応じた。
「まずいわ。急がないと!」
魔法で辺りの火を消しながら、モニカを先頭に4人は前へと進んで行く。
モニカは、目の前が開けた場所に出ると急に立ち止まった。
そこには、あまりにも信じられない光景が広がっていた。
「な、何よ、何なのよ?これは!」
モニカが絶叫した。
そこは、大地が抉り取られ、大きな窪地となっており、南西の方角から北東へと一直線に幅は百メートルほどの窪地が出来ていた。先はどこまで続いているかはわからないほどだ。
グングニールが放った黒炎ブレスの威力に目を見張った。
「スフィーティアは、こんなことができる竜と戦っているって言うの?」
愕然としてモニカの顔が真っ青になる。
(こんなのどうやって防げば良いと言うのよ?)
モニカは、窪地を前に立ち尽くした。
しかし、そんなモニカの苦悩にお構いなくエリーシアが、モニカの前に出てきた。
「ここを進めば、スフィーティアがいる」
エリーシアが、黒炎ブレスが走って来た方向を指さす。
「私には、わかる。スフィーティアは、今とても大いなる巨大な竜と闘っているの」
エリーシアは、瞑目して、そう言った。
「そして、その竜の狙いは、・・・私」
エリーシアが灰色の円らな眼を開く。
「恐れながら申し上げます。エリーシア様。それが、お分かりなのに何故危険な竜の元へ行こうとされるのですか?」
シンが、跪き、エリーシアを引き止めるように手を取った。
「私は、私を守ろうとしているスフィーティアを放ってはおけない。私があそこに行かないといけないの」
エリーシアは、首を横に振り、シンから手を離した。
「エリーシア様のお覚悟のほど、承知しました。臣シン・セイ・ラムザ、お供させていただき、あなた様を全力でお守りいたします」
「ありがとう。シンさん」
シンは、覚悟を決めた。
ドラゴンなど相手にしたことは無いが、自らの命を賭してもエリーシアを守る。
それが、聖魔騎士の筆頭騎士たる己の使命なのだ。
雷雨が打ち付け、大地は冷やされ、水蒸気が辺りを包む。森の火災も勢いを弱めていた。
シンは、左手の人差指にはめた白い指輪を外した。指輪にはユニコーンの絵が刻まれている。シンは、その指輪を上空に投げた。
「来い、一角羽馬!」
すると、白銀色に輝く馬体に優しい赤い目をした一角羽馬が、降りて来た。大雨だが、白銀に輝く馬体は、水滴を弾いている。
「うわあ、ユニコーンですよ。モニカ様!」
シュシュが、モニカの腕を取り叫ぶ。
「お、落ち着きなさい」
「初めて見ました。本当にいたのですね。なんと美しいのでしょう。感動ですう!」
シュシュのモニカを掴む手に力が入る。
「痛いわね、もう!」
モニカが、シュシュのみぞおちを肘で突いた。
「うげっ!」
シュシュは、みぞおちを抑え悶絶する。
シンは、二人のやり取りは無視して、エリーシアをユニコーンの馬上に乗せ、自分も馬上に乗った。
「では、モニカ先輩。我々は、スフィーティア・エリス・クライとドラゴンとの戦場へ向かいます」
シンがユニコーンの馬上から言う。
「ええ。私たちは、領都へ行くわ。領都を何としても防衛する」
「はい、お互いご武運を」
「エリーシアちゃん、無茶はしないでね、スフィーティアは、あなたを守るために闘っているんだから」
モニカが、エリーシアの手を握り言う。
「・・・はい」
エリーシアは少し躊躇いを見せたが頷いた。
「シン、お願いよ」
その様子を見て、モニカはシンに任せた。
「わかっています」
シンは頷く。
「エリーシア様、私の腰にしっかり掴まっていてください。では!」
エリーシアがしっかり掴まったのを確認すると、ユニコーンを羽ばたかせ上空へと徐々に昇って行く。
降りしきる雨の中モニカは二人を見送った。
「さあ、私達も領都に急ごう」
「はい、モニカ様」
シュシュが、鞄からハンカチ位の赤い布を取り出し、放るとマジックカーペットが展開される。
二人は、マジックカーペットに乗り込む。
(ここで立ち尽くしていてもしょうがないもの。今は領都の防衛を何とかしないと。あの子たちの力を使うしか無い。消耗戦になるわ)
「シュシュ、領都に戻ったらクローゼ隊招集よ!」
「わかりました」
モニカとシュシュの乗るマジックカーペットは、ゆっくりと垂直に上昇すると、領都カラムンドへと一直線に向かって行った。
(つづく)




