第61話 仇敵の最恐龍
さあ、最恐ドラゴンのグングニールの登場です。悪魔のような姿!
ほんと、怖いですね。
紫陽月(6月)15日 酉時初刻(17時)頃
厚い雲が空を覆い辺りは暗くなり、また、雨がポツポツと落ちて来て、雷鳴も聞こえて来ていた。
「さあ、恐怖の始まりです。せいぜい足掻いてみてください」
暗黒魔騎士のロキ・アルザイは、そう言い残すと、魔力を消耗し怪我を負ったラニを抱え、スーッと姿を消して行った。
「待て、ロキ・アルザイ!」
シンが叫ぶが、ロキの姿は消えて見えなくなった。
「どういうことだ?彼は何を言った?」
シンは、嫌な予感がし、不穏な空気を帯びた空を見上げた。
「シン、あっち!」
その時、キラが、エリーシアが連れ去られた方向を指差す。
「そうだ、今はエリーシア様を早く保護することが優先だ」
二人は、サンタモニカ・クローゼとシュシュがいる方角へと向かった。
「うーん、目覚めませんね」
シュシュが、横たわるエリーシアに覚醒の魔法を施すがエリーシア・アシュレイは目を覚まさない。
「退きなさい。私がやるわ」
モニカが言う。
「えーと、それは止した方が良いかと・・」
「何よ?」
「モニカ様のは、覚醒魔法と言うよりは覚醒模倣ですので。ミミのようにエリーシア様の頭にコブができてしまうのは・・・」
シュシュは、モニカが覚醒魔法の際、部下のミミの催眠魔法を解除した時に杖で頭を小突いたことを持ち出す。
「それって、どういう事よ!」
モニカが、シュシュの襟首を持ち、揺する。
「あわわわわわ・・・」
2人がコントをやっている時に、シンとキラがやって来た。
「何をやってるんですか、モニカ先輩」
モニカとシュシュのやり取りを見て呆れたように声をかける。
しかし、シンはエリーシアの姿を見つけると、素早くエリーシアの傍に屈む。
「エリーシア様。これは、かなり強力な暗黒魔法で深層に意識が落ちているのか・・・」
「退いてください。僕がやります」
「ちょっと・・」
モニカが、シンに退かされ抗議する。
シンは、エリーシアの上半身を起こす。エリーシアの顔に左手を掲げると、掌から温かい光を発する。
「よし」
暫くそうした後掌をサッと下に降ろした。
するとエリーシアがゆっくりと眼を開いた。
「うーん、ここは・・」
エリーシアは眼を開けると、シンの顔とモニカの姿が飛び込んできた。
「気がつかれましたか?」
「あなたは・・?モニカさん、私はどうしてここに・・?」
「エリーシアちゃん、気がついて良かった」
モニカは喜んだ。
エリーシアは、辺りを見回して起き上がったが、目眩がしてふらつく。
シンがフラッとしたエリーシアを抱きとめた。
「無理をなさらずに。まだ、深い催眠魔法が抜けていないのでしょうから」
「大丈夫です。ありがとう」
エリーシアからは、8歳の子供とは、思えないほど高貴な気品が漂う。
明らかに城にいた時のエリーシアの様子とは異なる。
エリーシアがシンから離れると、シンは跪き、切り出した。
「私は、聖魔道教団ワルキューレの聖魔騎士シン・セイ・ラムザという者です。聖魔道教国教皇王様の命により、エリーシア様、あなたをお迎えに上がりました」
「聖魔道教国?教皇王様?」
「やはりご存知ありませんでしたか」
「え?」
シンは、立ち上がると優しく言った。
「エリーシア様、教皇様はあなたのおじい様なのですよ」
「おじい様?」
「あなたの本当のお母上の父君です」
「私の本当のお母さんは、マリー・ノエルと言う人と聞きました。お母さんが教えてくれた」
「はい。ですので、私はあなたの臣下です。シンとお呼びください。あなたは、聖魔道教国教皇王の血筋にして、正当な後継者たるお方です。お母上であるマリー・ノエル様がいない今あなたが第一継承者なのですから」
「私の本当のお母さんは、死んでしまったの?」
「それは、私からはお話できません。直接教皇王様よりお聴きください」
シンは、首を横に振る。
その時だ。
大きな真っ黒い一閃が、突然パッと光ったかと思うと上空から地上に向かって縦に走った。
チュッ、ドドドドドドドーーーーーンッ!
すぐに空を劈くほどの轟音が響き、強風が巻き起り、物凄い地響きを立てた。
「スフィーティア!」
それを見て、エリーシアが叫ぶ。
エリーシアは、直観した。あの真っ黒い閃光が落ちた場所にスフィーティアがいると。
だが、身体を動かそうとするが、すぐにふらっとよろめいた。それをシンが支えた。
「大丈夫ですか?強力な魔法で眠らされていたのですから、まだ無理はいけません」
エリーシアは、首を振る。
「私が行かないとダメなの。あそこにスフィーティアがいる。あの黒い光が落ちたところに」
そう言うと、フラフラしながらエリーシアは歩きだした。
「エリーシアちゃん!私達もいくわよ」
「はい」
モニカとシュシュも後を追った。
「スフィーティアって、まさか・・・」
シンはボソリと呟く。
「いや、今はエリーシア様の方だ」
シンもエリーシアとモニカの後を追った。
一方、スフィーティアとソウ・ムラサメの戦闘の行方だ。
「コンゴウーーーーーーーーッ!」
強大な黒い一閃による大爆発により充満していた靄が晴れると、アンバー・ドラゴンのコンゴウがいた辺りの大地が焼け焦げ、大地は大きく抉れ、巨大な大穴が開き、コンゴウの姿は跡形も無く消えていた。
ソウ・ムラサメの悲痛の叫びが、虚しく響く。
そして、ゆっくりと空から黒く輝く怪物が降りて来た。
「・・・・・」
スフィーティアには、言葉を発しなかったが、それが何者かすぐにわかった。
スフィーティアの表情が怒りの形相へと変わる。その見つめる眼は憎しみの対象を見つけた眼だ。
その黒い怪物は、大きく抉れ、大穴となった中心付近に降り立った。
怪物は、体長20mほどで、大きな翼を持ち、四肢が比較的長いが、尾っぽは短く、髭は薄く黄色をしており、瞼の上当たりから角が、大きく湾曲して生えていた。まるでアーシア世界でも人々に恐れられ、神の敵たる「悪魔」のような風貌だ。
「よくも、よくもコンゴウを・・・」
ソウが、怒りの形相を黒い怪物に向けた。
『人間に使われるなど、竜の恥』
黒い怪物は言葉を発した訳ではないが、心に直接響くような声が辺りに響く。
怪物の傍には、茶色く美しく輝く石が転がっていた。
そう、コンゴウの竜石である。
『せめて、我の力の糧となるがいい』
黒い怪物は、コンゴウの竜石に手で合図を送ると、ゆっくりと竜石は浮かび上がる。
「貴様ッ!よくもコンゴウを!」
ソウが、ランスを構えるや、黒い怪物に一瞬で近づき、一撃を浴びせようと上空から飛びかかった。
「よせ!ソウ!」
スフィーティアが、叫んだ。
『愚か者めが!』
クワっと怪物の血のように赤い眼がクワッと見開かれると、ソウは、その気に圧され硬直して上空で動けなくなった。
「ウグッ!」
黒い怪物の長い手が、頭上に落下してくるソウを掴もうと大きな手を伸ばした。
「蛇噛斬!」
スフィーティアが放った光の大蛇が、怪物の手に咬みついた。
一瞬で、スフィーティアがソウの前に飛び込み、一撃を放ったが、怪物の手は、ついたままで、傷もつかず動きを止めた程度だった。
「下がっていろ、ソウ。死ぬ気か!」
ソウは、怪物の頭上でスフィーティアに押し返されると、正気を取り戻し、地面に着地した。
スフィーティアは、素早く動き、地面に落ちたコンゴウの竜石を拾う。
「ソウ、そいつを持ってこの場から去るんだ」
スフィーティアは、コンゴウの竜石をソウに投げた。
ソウは、哀しみと憎しみが交錯し混乱して目の前の怪物に立ち向かったが、怪物の強烈な気に圧され、動くことすらできなかったのだ。
(俺には何もできない)
そんな自分がスフィーティアの闘いを邪魔するわけにはいかない。コンゴウの竜石を受け取ると、ソウは離脱を決断した。
「お前、死ぬなよ!」
「ああ、任せておけ」
スフィーティアからは、薄っすらと笑みが漏れた。
そして、ソウ・ムラサメは、この戦場から離脱して行った。
スフィーティアは、ソウの離脱を確認すると、黒い怪物と向き合った。
スフィーティアの眦は、仇を見るかのように吊り上がっている。
「グングニール!」
スフィーティアは、憎しみの感情を声にぶつけた。
『貴様は・・・』
そう、この黒い怪物は、ドラゴンだ。風貌は一般のドラゴンとは似ても似つかない。
だが。
このドラゴンは、剣聖団が優先的に討伐対象としている竜の一体。剣聖団優先討伐コードG´を付され、名を「グングニール(Gungnir)」と言う。それは、あまりにも強くなり過ぎて、これ以上竜力をつけられると、アーシア世界を滅ぼしかねないほどの存在のドラゴンだ。そのため剣聖団は、優先的にこれを追い、討伐を目指している。しかし、これらの竜の討伐は極めて困難で、力を弱めるか、せめて、これ以上の強大化を阻止することを最優先事項としているのだ。こんな存在のドラゴンが、このグングニールの他に2体確認されている。コードGのグラム(Gram)とコードLのロンギヌス(Longinus)だ。『最恐3大龍』と呼ばれる。しかし、他の2体は、鳴りを潜めているのか、近年確認されていない。
グングニールは、クリムゾン・ドラゴンに分類されるが、もはやクリムゾン・ドラゴンの枠には納まらない。体色が赤というよりは、漆黒に近く多少赤みが薄っすらと混じる位だ。体長も巨大になったり、小さくなったり自在に変形したりする。なので、捉えどころが無い。人の姿になったりもするし、そして、今は悪魔のような姿と言うわけだ。
そんな最恐のドラゴンとスフィーティアは、向き合った。
その表情に恐怖の色など微塵も無く、探し求めていた物をやっと見つけたという興奮が見えた。
「今こそ、貴様に殺された同胞の仇を、私に課せられた使命を果たす!」
スフィーティアは、剣聖剣カーリオンを振るうと、その青碧眼を細め、ギラリと闘志の輝きを発した。
(終わり)
スフィーティアが、いよいよ追い求めていた仇敵のグングニールと向き合いました。ここからは壮絶な戦闘になるでしょう。筆者の筆力が追いつくか(汗)




