第60話 シン・セイ・ラムザvsロキ・アルザイ(後編)
間が随分空いてしまいましたが、「シン・セイ・ラムザvsロキ・アルザイ」の後編をお届けします。色々なところでテロのように闘いが行われ、作者も少々混乱しております。よろしくお願いします。
(前話からの続き)
「シュシュ、あいつを追うわよ。エリーシアちゃんを取り戻す」
「はい」
木陰からシンとロキの闘いを観察していたモニカとシュシュは、暗黒魔導士等に気づかれないように、森から出てエリーシアを抱え急ぎ逃げて行った大柄の魔導士を追った。
動きやすい帯締めの黒い胴着のような装束をした大柄の暗黒魔導士は、エリーシアを抱えながら、森の傍から離れ、人間とは思えない速度で北の方向へと走っていた。
この男の名は、ザマ・ノートン。
暗黒魔導教団シオの暗黒魔導士だ。
魔法も使うが、魔道を組み合わせ身体を強化するなどその体格を生かした体術を得意とする変わり種の魔導士だ。
「もう少しだ。魔女の血をあのお方に届けられる」
ザマは、ふと安堵の笑みをもらした。
しかし、後ろから猛スピードで接近するものがあった。
「コラーっ!待てーーーーーッ!」
高い女性の声がザマの後ろから届いて来る。
「ひえーーーーーーーーーーーーッ!」
そして、それを書き消すように高い悲鳴も響いて来た。
「うん、何だ?」
ザマ・ノートンは、何事かと思い立ち止まり、後ろを振り返る。
宙に浮く絨毯に乗ったサンタモニカ・クローゼとシュシュが接近して来て、ザマの目の前で急停止した。すると、シュシュがまたも前方に投げ出され、顔面から地面に着地した。
ピクピクピクピク・・・・。
シュシュの両足が痙攣を起している。
「ちょっとシュシュ、何をやっているのよ!ここは、良い場面なんだから、ちゃんとしてよ!」
モニカが、絨毯から飛び降りるとシュシュを助け起こし、肩をゆする。
「あらひれひれひえひえ・・・」
シュシュは、眼を回しているようだ。
ザマは、この様を呆気にとられ暫し見ていたが、気を取り直してお約束の声をかけた。
「何だ、貴様らは?」
モニカは、声をかけられると、まだ目が覚めないシュシュの肩から手を離し、立ち上がった。
ゴツッ!
シュシュは地面に頭を強く打ちつけた。
「痛い!痛いですーーーう!」
シュシュが目を覚ました。
「そこまでよ。エリーシアちゃんを返してもらうわ」
モニカは、ここはいい所なので、シュシュは無視し、腰に差した魔杖を取り出し、ザマを指す。
「モニカ様、酷いですよう~!」
シュシュがモニカの紫色のローブの袖に縋りつく。
「馬鹿ね、それ位我慢しなさい」
シュシュがローブから顔を離すと、鼻血が垂れていた。
「うえーッ!ちょっと、私のローブに鼻血を付けないでよね!」
「でもでも・・・」
シュシュは、泣きそうな顔だ。
まだ、鼻血が出ている。
「これで、鼻血を早く拭きなさい!いい所なんだから」
モニカが奇麗な紫色のハンカチを渡した。
「ビーっ!」
シュシュは、モニカのハンカチを受け取るとそれで鼻をかみ、鼻水と鼻血がベッタリとついた。
「ちょっと、それ私のお気に入りのなのに!」
「でもでも・・・」
モニカが怒り出し、またシュシュの肩を揺すっている。
「おい、貴様等、用が無いなら私は行くぞ」
ザマは、二人のコントのようなやり取りを見せられ、呆れて立ち去ろうとする。
「おっと、そこまでよ!」
ここはやり直しと言わんばかりに、モニカが、再び魔杖でザマを差す。
そして、モニカがシュシュに合図を送ると、シュシュもザマを挟みこむように素早く動いた。
「そこまでです」
シュシュも魔杖をザマに向けた。
「ほう。やろうってなら、こっちは構わないぜ」
ザマは、エリーシアを傍らに置き、指をボキボキと鳴らす。
ザマは、身体強化の魔法でその大きな体格からは想像できないほど動きが素速くなっていた。しかもパワーも備わる。
「行くぞ!」
モニカに急接近すると見せかけて、シュシュの方に急に向きを変え、襲いかかった。
「守護!」
シュシュは、これに素早く反応しマジックバリアを展開する。
ズドンッ!
ザマの重い右鉄拳がバリアにぶつかり、その腕がめり込む。ザマは、マジックバリアから腕を引っこ抜こうとするが、動かない。
「捉えましたよ。モニカさま!」
「いいわ、そのままよ!」
モニカは、杖を静かに回し、眼を閉じ詠唱していた。
「ふん、何のこれしき。強強化!」
ザマの右腕がさらに強化され肥大化すると、バリアを貫通した腕がシュシュを掴もうとする。
「え、何?気持ち悪~~~っ!」
シュシュは、間一髪で後ろに回避したが、離れたことでバリアの威力が減殺された。
「ふん!」
「ひえーッ!」
マジックバリアが壊された。
ザマは、シュシュの方は無視して、詠唱しているモニカの方に向かった。
「モニカさま!」
シュシュが叫ぶ。
素早い動きで、ザマがモニカに接近する。
「徐魔弱強要!」
モニカは目を見開くと、杖の先から光がパット煌めく。
「うぐっ!」
ザマは雷に打たれたように痙攣し、膝からガクッと崩れ落ちた。
「何だ。急に!力が入らぬ。貴様、何を?」
「あなたの魔法を封じたのよ」
「何だと!」
ザマが、怒り出した。
「エーイッ!隙あり!」
いつの間にか、そろりそろりと足音も立てず後ろから近づいていたシュシュがザマの後頭部を杖で思い切り叩いた。
ドタッ!
ザマは白目を剥いてうつ伏せに倒れ込んだ。
「私に魔法で勝とうなんて10年早いのよ」
モニカは、気を失ったザマを杖で小突く。
サンタモニカ・クローゼとシュシュは、冗談みたいな連携プレイで強力な暗黒魔導士に勝利した・・・。
「エリーシアちゃんは?」
シュシュとモニカがエリーシアの元に走る。
モニカが抱き起し、エリーシアの顔や胸に顔を近づける。
「大丈夫。眠っているだけ」
「良かったですう」
「ええ、後はシンの方ね」
モニカは、森の方に目を向けた。
「フフフ、神の手を戻して良かったのですか?エリーシアはドンドン離れて行きますよ」
ロキが口角を上げ、意地悪そうに言う。
「さあ、それはどうかな」
シンは、モニカが近くにいることを確認していた。
だから、モニカがエリーシアを取り戻してくれる判断したのだ。
「それよりも、自分の心配をした方がいいんじゃないか?」
シンもフッと笑う。
「減らず口が無くならない人ですね。そう言うのはムカつきますね」
そう言うや、右手の炎の剣で上段から斬りかかる。シンは、これを透明なシールドで受けとめる。
間髪入れずロキは、左手の凍気の剣で突きを繰り出した。これは、黄金剣で一撃を逸らすが、纏わりついて来る凍気までは防げず、黄金剣が凍りつきシンの腕をも凍らせようと凍気が素早く走る。
「発光!」
シンが叫び、黄金剣が眩く発光すると、腕と剣に纏わりついた凍気は消滅していく。
「ウッ、加速移動」
眩い光に目が眩み、ロキは、慌てて距離を取った。
「今度は、こちらから行く」
シンは透明なシールドを小さくし、黄金剣を両手で構えた。シンの黄金剣は、先ほどよりも光度を弱めた光を纏っていた。
シンは、素早く動いた。
シンは、近づくや右斜め下段から、ロキに斬りかかる。
ロキは、これを左手の凍気を纏う剣で受け止めた。すると、凍気が弱まって行く。
「これは!」
しかし、ロキは、すかさず右手の炎の剣で斬りつけて来た。これも凍気の剣を撥ねかえした流れから、シンは黄金剣で受け止める。すると、やはり黄金剣の光に触れると、炎が弱まって行く。
「くっ!」
ロキは、魔法剣の力を減殺され、堪らず、距離を取った。
「浄化の光ですか。シン、やはり、あなたはやっかいな相手だ。いいでしょう。これで決着をつけますよ」
ロキは、右手の炎の剣と左手の凍気の剣を両手を横に広げると縦に一回転させた。すると再び、炎と凍気の勢いが激しくなった。先程よりも魔剣の魔法の威力が増している。
ロキは、その二つの剣を正面で交差させると、炎と凍気が絡み合い上空へと舞い上がって行き、すさまじい烈風竜巻を引き起こした。
ブフォーーーーーーーーォーッ!
「これで終わりです。炎氷爆風斬!」
ロキは、交差した両手剣を上段に持って行き、前方に勢いよく振り放った。すると、放たれた烈風竜巻がシンを襲う。
「来い、神の手」
シンは黄金剣を振り上げる。
シンの後背部から、これまでよりもずっと大きな透明な腕が出現し、前方の烈風竜巻に向かってその大きな掌を広げ、竜巻を受け止めた。
「ウウォーーーーッ!」
シンが気合の雄叫びをあげ、右手で掲げた黄金剣を勢いよく振り下ろす。
すると、神の手がそれに反応するように、烈風を握り潰していく。
「何!」
そして、神の手がロキの放った烈風竜巻を消滅させた。
「こちらの番だ」
シンは、烈風竜巻を握り潰したゴッドハンドをロキを押しつぶすようにぶつける。
「加速移動!」
ロキの姿は消え、ゴッドハンドを間一髪でかわすと20m位は離れたシンの後方に姿を現した。
「そんな攻撃で私を捕らえられると思っているのですか?」
「さあ、それはどうかな」
そして、もう一度シンは、ロキに神の手を今度は横から引っ掴むように素早く動かした。
しかし、これにも加速移動でロキは、姿を消した。
「これで終わりです、シン・セイ・ラムザ君」
ロキは、シンの真後ろに姿を現し、魔法剣で上段から斬りつけてきた。
「うわっ!」
しかし、ロキは、シンの左肩から放たれたゴッドハンドに捕まった。
それはあまり大きくない神の手だ。そもそも神の手は無色透明なので、視えづらい。そして、先程までの攻撃は右肩から放たれた大型の神の手によるものだ。
シンは、ロキが自分を狙ってくる瞬間を待っていたのだ。
シンは、神の手に捕らえられ宙づりになったロキに下から黄金剣を向けた。
「ロキ・アルザイ、終わりだ」
「ウフフフフ、ウハハハハハ・・・。私を倒しても終わりはしない。むしろこれは始まりですよ」
ロキは、負け惜しみとは思えない位落ち着いている。
「何を言って・・、ウッ!」
言葉の途中で、急に力が抜け、シンは膝を着く。ロキを捕らえた神の手も解除され、ロキは、着地した。
「ロキ様を、やらせはしない・・」
茶色髪セミロングの美しい若い女だ。
魔眼の女ラニ・トランジットである。
その閉じられていた左目の魔眼が開いていた。
その眼は、虹色に目が輝いている。
魔眼『虹色の瞳』を発動したのだ。『虹色の瞳』は、その場の魔導を支配する絶対的な力だ。この魔眼の力で、神の手は打ち消された。しかし、一方で魔眼は消耗が激しいのだ。ラニの表情は苦悶に歪んでいた。
「魔眼か・・」
シンが呟く。
神の手が解除され動けるようになると、ロキがすかさず、膝を着いたシンを斬りつける。シンは、黄金剣でこれを受け止めた。
「魔眼の使い過ぎは危険だぞ。彼女を止めろ」
「承知していますよ、あなたを倒してからそうします」
剣越しに睨み合うロキとシンだ。
その時だ。獣のように素早く駆けて来る小さな人影が現れた。
「シンをいじめるな!」
そこに、キラが突然現れ、ラニに襲いかかった。
「キャアッ」
ラニはかろうじて一撃を避けたが、キラの伸びた長い爪で右腕に傷を受けた。キラは、さらに、もう一撃を加えようとした。
「ダメだ!キラ」
シンが叫ぶと、伸びた長い爪の一撃がラニの首筋の手前で止まった。
キラの攻撃で、ラニの『虹色の瞳』も解除され、シンは、反撃に転じ、ロキの魔剣を弾いた。
キラが、シンのすぐ傍までやって来た。
「お手柄だよ、キラ」
シンはキラの頭を優しく撫でる。
「えへへへへへ」
キラは、素直に喜んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー・・・・。
突然、厚い雲が急激に空を覆い暗くなり、雷鳴が響いていた。
そして、不穏な空気が辺りに急に漂い始めてきた。
「時間のようです」
ロキが唸る暗い空を見上げて言った。
ロキは、落とした魔剣を拾うとラニの傍らに素早く移動し、弱々しくかろうじて立っているラニを支えた。
「さあ、恐怖の始まりです。せいぜい足掻いてみてください」
ロキ・アルザイは、そう宣言すると怪我を負ったラニを抱きかかえると、その場からスッと姿を消した。
そして、付近に倒れていた暗黒魔導士等も姿を消していた。
(終わり)
最近この作品をご覧になられている方が、増えていると感じています。是非感想なども頂ければ嬉しいです。よろしくお願いします。是非拙作の『剣聖の物語 剣聖スフィーティア・エリス・クライ 序章』もご覧ください。雰囲気が違います。




