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第59話 シン・セイ・ラムザvsロキ・アルザイ(前編)

聖魔騎士のシンと暗黒魔騎士のロキ・アルザイが初めて接触し、激突するエピソードです。この二人は何かと縁があることでしょう。

 紫陽月しようづき(6月)15日の寅時いんじ初刻(3時)頃。


 シン・セイ・ラムザは、獣人族の女の子キラと共に領都カラムンドを目指し、街道を急いでいた。



 シンは、フォックストロット族から、キラを取り戻すことができた。


 しかし、フォックストロット族のおさのザザとの決闘に勝利し、彼に気に入られてしまい、アジトで歓待され、強引な引き留めにより出立が、深夜となってしまったのだった。


 族長のザザからアジトに泊まり朝になってから立つように勧められたのだったが・・・・。


「二人の部屋も用意したぜ。今日は休んで行ってくれ」


 その部屋はベッドが一つだった。


「さっさと()()()()元気な子供をみせてくれよ。ウワッハッハッハ・・・」

 豪快に笑うザザは本気のようだ。

「何を考えてるんですか!キラは、まだ子供ですよ」


 ザザのこうした強引な行動に辟易し、こうして深夜だったが急ぎ集落を後にしたのだった。



「全く・・・」

 急にそのことが思い出され、シンの口からぼやきが漏れた。


「うん、あれは?」

 上空を見上げると、キラキラ光るものがゆっくりと目の前を横切って行こうとしている。

「おーい、こっちだ!」

 シンは、そのキラキラと光る物の方へ大きな声を上げた。

 すると、そのキラキラ光る物が降りて来た。


 近づいて来ると、手紙にキラキラ光る羽根が生えている物だった。


 これは、『魔法便マジック・メール』と呼ばれるものだ。魔導士固有の魔力の色を記憶させ相手に送る。魔導士間の便利な通信手段として広く使われている。


 魔法便は、シンの手元まで来ると、光る翼が消え、シンの手元に落ちた。

「モニカ先輩から」

 手紙の裏面を見て確認する。

 封を切り、手紙をサッと眺める。


「何だって!エリーシア様が攫われた!」

 

 モニカからの手紙には、エリーシア・アシュレイが黒服の魔導士等に連れ去れたこと、次元馬車で北隣の自治領サスール方面へと伸びる街道を進んでいると思われること、手筈は取ったのでエリーシアの行方を追って欲しいことが書かれていた。



「こうしては、いられない!エリーシア様をお救いしないと」

 サスール方面の街道は、幸いここからそう遠くはない。


 シンは、エリーシアの魔力を捉えようと精神を集中して、周囲を見回す。しかし、エリーシアの魔力の痕はどこにも捉えられなかった。


「ダメか。とにかくサスール街道に向かおう。キラ、急ぐよ」

 シンとキラは、サスール方面に続く街道を目指し、急いだ。




 シンとキラは、サスール方面の街道に入り、大きな森を抜ける街道を走っていた。

「ここまで来てもエリーシア様の魔力を捉えられないなんて。やはり黒服の魔導士等は、暗黒魔導士か。干渉魔法を使ったのか?」

 シンは、森の中の街道で立ち止まり思案した。

「モニカ先輩のことだ。何か策を打っているはず。後は僕が、エリーシア様の所へ行ければ・・・」


 その時、キラが何かを感じ取ったようだ。鼻をくんくんさせている。

「シン、こっち」

 そう言うと、キラが走り出した。

「キラ!」

 キラは、街道から森の中に入り、北東方向へと進んで行く。


 シンもキラの後に続いた。


 シンは、カラムンド城でのことを思い出した。


 キラはその鋭い嗅覚でリザブ村から持ち出した魔杖に付いていた匂いからエリーシアの居場所を探り当てたのだった。


 (そうだ。キラには、わかっているんだ。彼女について行こう)




 同時刻頃。


 エリーシア・アシュレイを拉致したロキ・アルザイは、黒い次元馬車ディメンショナル・ワゴンで、サスール方面へと伸びる街道を進んでいた。領都カラムンド周辺には森が点在しているが、その中では比較的大きな森の中の街道を進んでいた。馬車のワゴンにはロキのほか数人の黒い法衣を着た魔導士と若い色白の女魔導士、それにエリーシア・アシュレイが乗っていた。


「もうそろそろか」

 次元馬車の転移点ワープポイントに近づき、ロキは、赤い仮面を外し、安堵の声を漏らす。


 次元馬車は、アマルフィ王国での主要な交通手段の一つとなっている。各地を次元街道でつなぎ、そこを行き来することにより、広い国土を瞬時に移動できる。ワープできる転移点は、ルートが決まっているため、剣聖が使用するシュライダーのように瞬時にどこにでもワープできるわけではないが、それでも広い国土を行き来するのに多く利用される。これも剣聖団の()()()()()()の開発した技術だとか・・・。



 エリーシア・アシュレイは、若い茶色髪の美しい女魔導士の膝の上で深い眠りについていた。

「ラニ、大丈夫か?」

 眠るエリーシアに目を落とした後、目の前に座るそのラニと呼ばれた美しい女魔導士に気遣いの言葉をかける。

「すまない。君に力を使わせ過ぎてしまったようだ」

 

「ロキ様、ご心配なく。少し、休めば大丈夫ですから」

 その声は、か細かった。


 この巻き毛のセミロングで茶色髪の美しく若い女性は、ラニ・トランジット。


 右目は美しい青い瞳だが左目には縦に印が走り、閉じられていた。

 

 ラニは、実は、魔眼『虹色の瞳(レインボウアイ)』の持ち主だ。その閉じられた左目が開く時様々な特殊能力(その場の魔導を制御(支配)する力)を発動することができる。ただ、魔眼は消耗が激しいため、長時間や何度も使用できる力ではない。今のラニも魔眼を使い、まだ回復しきれておらず、色白の肌がより青白くなっている。


 ロキには、それを何もできずに見ているのが歯がゆかった。



 その時、次元馬車がゆっくりと速度を落としていき、止まった。


「どうした?」

 ロキが、御者に小窓から声をかける。

「いえ、転移点ワープポイントのはずなんですが、見当たらなくて。確かこの辺りで間違いない筈なのですが・・・」

「何だって?どういうことだ?」

「わかりません。こんなことは初めてでして。転移点が消えたとしか・・・」


「まさか!」

 ロキは、ハッとして気付く。


 先手を打たれ、転移点が封鎖されたのだろう。


「これは、街道を進むのは危ないな・・・」

 

 当然、転移点を封鎖した相手だ。

 先回りして街道には待ち伏せや検問を敷いているに違いない。


「ここからは、脚で森の中を移動しよう。この辺りまで行ければ、迎えを呼べよう」

 ロキは、隣に座る黒衣の大柄の魔導士と地図を確認する。



 ロキは、次元馬車を降りた。

「ラニ、すまない。体調が戻らないところを」

 ロキは、ラニの手を取り、ラニが馬車から降りるのを支えた。

「ご心配なく。回復してきました。歩く位問題はありませんから」

 大柄な黒衣の暗黒魔導士がエリーシア・アシュレイを抱える。

 エリーシアは動かしても全然目を覚ます気配はないようだ。



 街道から森の中に入って行こうとした時だ。

 もう夜が明け明るくなっていた。



 ガタガタガタガタガタ・・・。


 その時、地面が強く揺れた。


「ふふ、どうやら、やっと始まったようだな。あのドラグナーがせめて僕たちの逃げる時間稼ぎになれば良いのだけどね。しかし、相手が悪いかな」

「ロキ様?」

 ラニが応じると、ロキは、微笑みながら領都の方角の空を見た。

「あれは、剣聖スフィーティア・エリス・クライ。今の剣聖では最強と言われる。ソウ・ムラサメ。彼が持ちこたえてくれているうちに、僕たちも急ごう」


 ロキとラニを含む暗黒魔導士等は、街道を逸れ、森の中深く東の方向へと消えて行った。



 

 時刻は昼頃となり曇りから小雨に変わり、風が強まっていた。

 天気は荒れ模様に変わっていた。


 エリーシアを攫ったロキと暗黒魔道教団の魔道士達は、森の中の獣道のように細い所を急いでいた。



「もうすぐで森を抜けます」

 先頭を行くエリーシアを抱えた一際抜きんでた大柄の暗黒魔導士が出口の方を指さす。

「ああ、抜けたところで、迎えを呼ぼう」

 ロキが頷く。




 森を抜け、反対の丘に出たあたりだった。彼らの眼の前に1人の人影が現れた。


 ロキと暗黒魔道士達は、立ち止った。明らかに彼らの前に立ち塞がるように現れたからだ。


「その御方を何も言わず置いていけ。さすれば見逃そう」

 その人影はよく通る声を発した。


 彼らの前に長身の白いローブに身を包んだ。男が立ちふさがり、ゆっくりと近づいてきた。



 その男は、端正な顔立ちで黒髪ショートヘアの男だった。腰に金色の見事な鞘の細身の剣を帯剣していた。白いローブの下には少し年季の入った蒼い騎士風の装束が見えた。



 聖魔騎士シン・セイ・ラムザの登場だ。


「置いていけと言われて、素直に言うこと聞くと思いますか?」

 ロキ・アルザイが前に出て来て応じた。


「では、奪うまでのこと。来い!」


 そう言うとシンの背中の辺りから無色透明な大きな腕が浮かび上がり、ロキ達魔道士に襲いかかった。ロキと横にいたラニ、それにエリーシアを抱えた魔道士は、上手く避けたが、他の3人は、この大きな透明な手の平手に大きく弾き飛ばされ、地面を転がった。


「ウグァッ!」


「何!その魔法は・・・」

 ロキが叫んだ。

 

 シンが、ゆっくりと近づいて来る。


「その魔法は、『神の手(ゴッドハンド)』ですか。まさか()()に習得者が現れていたとは・・・」

 ロキが驚きの言葉を漏らし、自ら前に進み出た。


「フフフ、私はあなたに興味が湧きました。名前を聞かせてもらえますか?」

「暗黒魔導教団は礼儀を知らないのか?先ずは、そちらから名乗るのが礼儀ではないか?」

「おっと、これは失礼。そう、私は暗黒魔騎士のロキ・アルザイと言う者」

「私は、シン・セイ・ラムザ。聖魔騎士だ」

「『神の手』の使い手は、聖魔騎士の筆頭騎士プリンシパルがなると聞きます。シン・セイ・ラムザ、その実力が本物か私が試してあげましょう」

 


 ロキが、右掌を開くと短めの剣がその手に収まった。剣をクルリと回転させると剣身から赤い炎を発した。


「行きますよ!」


 そう叫ぶと、ロキは、シンに炎の剣で斬ってかかった。その時ロキのフードがめくれ、顔が露わになった。赤毛に薄い赤い眼の美形だ。その顔には不敵な笑みが浮かぶ。額には赤い刻印が見える。


 シンも黄金剣を抜き放つや、ロキの攻撃を防ぎ止め、弾き返した。ロキは、後ろに飛ばされたが、難なく体勢を立て直し、着地した。


「やりますね~。さすがは、と言いたいところですが、本当に腹が立ちますよ。あなたがた聖魔騎士には」


 ロキは、エリーシアを背負った大柄の魔道士達に行けと目で合図を送った。その魔道士は、その場から走り去ろうとする。


「行かせないよ」

 シンのゴッドハンドが、大柄の魔導士を引っ掴もうと襲いかかる。しかし。この魔導士は大柄の割には動きが素早く、難なくかわす。身体強化の魔法でも使っているのだろう。


「シン、あなたの相手は私ですよ」


 ロキは、もう一方の左手に今度は青白い光を発する剣を取り出し、再び攻撃に出る。赤い炎の剣と青白い凍気の剣を振り回し、シンに襲いかかった。

 これは、魔剣の一つだ。炎と凍気という相反する力を宿し、様々な攻撃を繰り出せる。

 シンは、黄金剣でこれを受けるが、剣に触れると火の粉が飛び、シンに降りかかる。また、凍気の剣の方が触れると、凍えるほどの冷気が襲ってくる。


 厄介な魔剣である。


「チッ」

 シンは、堪らず、距離を取り避けた。


「どうしましたか?私の攻撃は、まだ序の口ですよ」

 ロキが、意地悪そうに口角を吊り上げる。




 一方、宙に浮く絨毯に乗り移動してきたモニカとシュシュだ。 

 森の中を北の方へと進んで行くとちょうど森を抜けようとした辺りで前方に人がいるのが見えた。


「あれは?」


 モニカは空飛ぶ絨毯の速度を急に落とすと、シュシュが前方の藪の中に頭から放り出された。


「キャア、痛ったーい!モニカ様~~~~~~~、助けてくださ~い!」

「シーッ!」


 モニカが絨毯から降りると、絨毯はハンカチ位の布に変わり、しまう。

 シュシュを急いで藪の中から引っ張り出し二人とも木陰に隠れた。

「もう、モニカ様、優しくしてくださいよう」

 シュシュは泣きそうだ。

「あれは・・・」

 モニカは、シュシュの抗議は無視して、白いローブの男を見て、クスッと笑みを漏らした。




「いいだろう、ロキ・アルザイ。ここで勝負だ」

 シンは、ロキの向こう側の茂みの一角を見てそう答えた。

「ふふふ、そう来なくては」

 ロキは、右手の赤く光る炎の剣を掲げると、剣に纏う炎が大きく揺れだした。もう一方の左手に持った青白い凍気の剣を掲げると、凍気が迸った。それらが剣身を大きく超えて伸び、先程よりも強力になっている。

「行きますよ」

 ロキがシンの方に駆けだし、赤い炎の剣をシン目がけて打ち下ろすと、長く伸びた炎がシンを襲う。シンは、これを透明なシールドを前方に展開して防いだ。


 この防御魔法により、大柄な魔導士を引っ掴まえようとしていた『神の手(ゴッドハンド)』はかき消された。

 

 この透明なシールドは神の手と同種の魔法の力だ。

 そのため、神の手は消えたのだろう。


 しかし、神の手が消えたことで、エリーシアを背負った大柄な魔導士は、急いでその場を離れて行き、丘を越えて消えて行った。


                              (つづく)

続きとなりました。後編もお楽しみいただければ幸いです

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