第58話 仇討ちの剣聖2
前話から空いておりましたが、新話公開です。前話の続きです。スフィーティアと竜伴奏者のソウの闘いの結末は、どうなるのでしょうか?
(前話からの続き)
ここは、領都からリザブ村方面へと伸びる街道。
すぐ先には大きな森が広がる。
時刻は、午時(昼)頃だ。
サンタモニカ・クローゼにアンバー・ドラゴンの映像を水晶で送った女魔道士のシュシュは、スフィーティアとそのドラゴンの戦闘を気づかれないように離れた場所から観察していた。
突然、懐の水晶が光りだした。
「ええ!うそ~ッ!」
シュシュは、慌てて水晶を取り出し投げようとした。
が、遅かった。
ピカッ!
水晶が光を発し、モニカが転移して水晶の中から出てきたのだ。
「ウギャッ!」
シュシュの鼻先に水晶から出て来たモニカの尖がり帽子がぶつかった。
シュシュは大の字に倒れ込んだ。
「あら、シュシュ、どうしたの?大丈夫?」
シュシュは、ガバッと起きると、鼻血が垂れた。
「もう、モニカ様!いつも言っているじゃないですか!転移する時は、言ってくださいと!」
シュシュは、鼻血をハンカチで拭きながら文句を言う。
「ごめん、ごめん。急いでいたから」
モニカは、シュシュの手を取り助け起こした。
すると、また立っていられないほどの大きな揺れが起こり、地中から大きな物体が出てくるのが見えた。
「何よ、あれは!」
胴体が長く手足が短い蛇のような体形をしている巨大な魔物に驚く。背中に身体とは不釣り合いなほど小さな羽も見えた。
「モニカ様、ドラゴンです!地中を好むドラゴンがいると聞いたことがあります」
「土竜。初めて見たわ。で、スフィーティアはどこ?」
「スフィーティア様は、あのドラゴンで見えないですが、槍を持った騎士と戦っています」
「槍を持った騎士・・。そしてアンバー・ドラゴン・・。それって、もしかして竜伴奏者ってこと?」
「竜伴奏者。噂では聞いたことあります。ドラゴンの生息地近くに住み、ドラゴンを信奉し、ドラゴンに認められた者は、ドラゴンのパートナーとなり、ドラゴンを自在に操れるとか。その力は剣聖にも匹敵すると」
「間違いないわ。行くわよ!」
「モニカ様、近寄っては危険ですよ!」
「何言ってるの!スフィーティアが私たちのために戦ってるのよ。そんなこと言っていられないわよ」
モニカは、戦場へと走り出す。
「待ってください。モニカ様~!」
シュシュも、仕方なく走って後に続いた。
その頃、城に戻ったカラミーア伯は、グレン大臣に命じ、領都に戒厳令を敷き、領都の全守備兵を配置し、領都防衛を強化した。
「はて、これで領都をドラゴンから守れるであろうか?」
カラミーア伯は執務室で、グレン大臣に問うた。
「わかりませんが、スフィーティア殿次第かと」
「うむ、そうじゃな」
そこに伝令兵が入って来た。
「軍師様からの伝令を申し上げます。スフィーティア殿がドラグナー及びそのドラゴンと交戦中とのことです」
「何、ドラグナーとな。何故そのような輩がおる?」
「わかりません」
「ドラグナー。竜を操る者。本当にそのような者が存在していたのですね」
「う~む・・」
カラミーア伯爵とグレン大臣は、また頭を悩ます。
モニカは、ドラゴンとスフィーティアが戦う傍まで来た。
「スフィーティア!」
スフィーティアが、ドラゴンの地面から次々と突き出す土棘攻撃を後ろへと避けながら振り向いた。
「モニカ!近づくな!」
ソウが、スフィーティアが避けてきたところで待ち構え、鋭いランスによる突きを繰り出した。それを剣で受け流すスフィーティア。また、ドラゴンが接近し、長い尻尾をスフィーティアに上から叩きつけて来た。これも横に逸れてかわすが、大きな揺れを引き起こし、スフィーティアはバランスを崩した。そこに、上空からソウが槍の連撃をしかけた。
「長槍連続突き!」
「クっ!」
上空からの槍の雨がスフィーティアを襲う。
スフィーティアは、急ぎ左手に光のシールドを展開してこれを受けた
ドガガガガガーーッ!
光盾に納まらないスフィーティアの太腿部分などに、槍創を受け、血がにじみ出る。攻撃の勢いに圧され体勢を崩し、スフィーティアは受け身をしながら転がった。
「フフっ、どうした剣聖、そこまでか」
地面に着地したソウは笑みを浮かべた。
しかし、スフィーティアは、ニヤリと笑みを浮かべ返した。
すると、すぐに起き上がるや、スフィーティアは後ろに跳躍し、アンバー・ドラゴンのコンゴウを狙った。
接近していたコンゴウの頭上から剣聖剣カーリオンを両手で構え叩き落とす。
コンゴウは、これを察し、地面を揺らしながら、土中へと潜った。
ドガッ!
ピキピキピキピキピキッ!
剣聖剣が地面を抉り、周囲が凍りつく。
「スフィーティア!」
モニカが再度声をかけた。
「モニカ、エリーシアを追ってくれ。森の方に行ったはずだ。黒衣の魔導士等が次元馬車で逃げた。頼む、追ってくれ!私はここを引き受ける」
「わかりました。必ずエリーシアちゃんは救い出します」
スフィーティアが頷く。
「モニカ様、早すぎますよ~」
そこに遅れてシュシュが到着した。
「シュシュ、森の方に逃げた魔道士達を追うわよ。ついて着なさい!」
「えーーーーーっ!」
モニカは、そう言うや肩からかけたバッグから赤いスカーフのような布を取り出し、上空に投げた。
「変化!」
一言呪文を唱えると、大きく広がり赤い絨毯のようになった。
膝上位の高さまで落ちて来たところで、モニカが飛び乗る。
「行くわよ!進めーーーーーッ!」
モニカが出発の合図を手で送る。
「ちょっと、モニカ様!」
シュシュが乗ろうとした瞬間、絨毯は動き始め、かろうじて絨毯の端に必死にしがみついた。
「ヒエーーーーーーーッ!」
赤い絨毯は、物凄い勢いで森の中に消え、シュシュの悲鳴が森の中で木霊した。
「全く騒がしい連中だぜ」
ソウが、赤い絨毯が去った森の方に目をやったが、追おうとはしない。
再び地面が揺れ始めた。
「邪魔も無くなったし、本気でやろう。剣聖スフィーティア」
すると、揺れが激しくなり、立っているのも難しくなるほどの揺れとなる。
しかし、スフィーティアはもうバランスを崩すこともない。
「来い!コンゴウ!」
ランスを構えたソウの後方で地面が割れ、アンバー・ドラゴンの巨体が地中から再びその姿を現した。
「行くぞ!」
ソウがそう叫ぶや、ソウの前から、土棘が地面から次々と浮き出し、スフィーティアに襲いかかった。
しかし、スフィーティアは、剣聖剣を左下段に構えた体制から、土棘が襲いかかる寸前で前方へと剣聖剣を振るうと、土棘はスフィーティアを避けるように粉砕された。
だが、土棘が粉砕されるや、急に目の前にソウのランスの強烈な突きが飛び込んで来た。
咄嗟にスフィーティアは、光盾でこれを防いだが、力が回らず、勢いに圧され大きく転がるように弾き飛ばされた。
スフィーティアが倒れ込んだ位置に、今度はコンゴウの土棘が、地面から盛り上がり、スフィーティアは、察して避けたが、右わき腹をその一本が突き破った。
「ウガッ!」
スフィーティアは口からも吐血した。
スフィーティアは、血が落ちる脇腹を押さえながら、フラフラと立ち上がった。
「ふん、こんなものか?剣聖スフィーティアよ。最も俺とコンゴウの連携攻撃で生き残った剣聖はいないがな」
ソウは、ランスで肩をコンコンと叩く。
既に闘いは長時間に及び、天候は荒れ始め、雨が降って来ていた。
日も沈む時刻となり、空も暗くなっていた。時々ゴゴゴと、雷鳴が聞こえた。
「わかった、いいだろう。少し本気でやらせてもらおうか」
スフィーティアは口から出た血を拭い、左わき腹の傷に右手で念を送る。
「治癒」
左わき腹からの出血が止まる。
「そろそろ決着をつけよう、ソウ・ムラサメ。我が剣聖の剣技を味わうがいい」
スフィーティアは、腰を落とし、剣を右側頭の辺りで、ソウとその向こうのアンバー・ドラゴンのコンゴウに狙いを定め剣聖剣カーリオン構えた。カーリオンが青白い光を纏い始める。
「おう!望むところだ」
ソウもこれに応じた。
長槍を頭上で素早く旋回させるや、長槍を右側頭辺りでランスの先端をスフィーティアに向けて構えた。
「疾駆刺」
スフィーティアが叫ぶ。
「長槍突貫!」
ソウも同時に叫んだ。
スフィーティアの疾駆刺は遠方から放たれた矢の如く、ソウを一瞬で刺し貫くかと思われた。
しかし、ソウの放った長槍突貫は、風を巻き込みながらの一閃だ。ゴーッっと、轟音を響かせ両者の剣先がぶつかった。
「クッ!」
バキバキバキッと大きな衝撃が起き、両者が吹っ飛んだ。
しかし、スフィーティアは、空中で次の技の体勢に入っていた。
姿勢が、上下逆さになっていたが、剣の柄をコンゴウの方に向け、左下段にカーリオンを構える。
「まずい!コンゴウ、逃げろ」
ソウが叫ぶ。
「蛇噛斬!」
放たれた剣戟が、青白い大蛇の姿となり、コンゴウに迫る。
コンゴウは、土壁を次々と繰り出すが、蛇噛斬の青白い大蛇は、全てをかみ砕き、一瞬でコンゴウの首元に喰らいついた。
ガキキキキキキッ!
「コンゴウーッ!」
ソウの悲鳴のような叫びが辺りに響いた。
コンゴウの首が落ちたかに思われた。
しかし、美しい美声が凛とした響きを発した。
「この場から引け、ソウ・ムラサメ。お前の負けだ」
スフィーティアが、コンゴウの首筋に剣聖剣カーリオンがめり込ませていた。首筋の傷口にめり込んだカーリオンから冷気が迸り、そこから次第にピリピリと音を立てコンゴウの全身を凍結させていく。コンゴウは、全身凍てつき、冬眠したように動かなくなった。
「さあ、ソウ、どうする?コンゴウの首が落ちるぞ」
そう警告するスフィーティアは、剣聖剣に力を込めて首筋にさらに深く食い込ませた。
「このーッ!やめろー!」
ソウは、怒気を発し、ランスを上段に構えるや、大きく跳躍し、スフィーティアに鋭い突きを浴びせる。
「コンゴウから離れろ!」
ソウは、ランスによる連撃を放った。
「長槍連続突き!」
これには剣聖剣が使えないため、避けきれずスフィーティアは、カーリオンから手を離し、地上へと降り立った。
「今助けてやるぞ、コンゴウ」
ソウは、スフィーティアを追撃はせず、コンゴウの首に突き刺さった剣聖剣を引き抜こうとする。
「ウワッチ!」
しかし、ソウは剣聖剣に触れることができない。
異常な凍気を発しており、触れようものなら、忽ちソウも凍りつきそうだったからだ。
「な、何だ?この剣は・・・」
ソウには、カーリオンがビクビクと動いているように見えた。まるで生きているかのように感じた。
「やめておけ。カーリオンは、コンゴウの首を斬りたくてしょうがないようだぞ」
「貴様!」
怒りの目をスフィーティアに向け、地上にいるスフィーティア目がけて上空からランスで斬りかかった。
スフィーティアは、ロングコートの下の脇のホルスターからダガーを取り出し、ソウの上空からの強烈な一撃を受け止めた。
「コンゴウを解放しろ!」
「お前こそ、この場から引け。ゆっくりしていては、カーリオンに大事なコンゴウの首が落とされるぞ」
「うぬぬっ!貴様を殺してコンゴウを助ける」
ソウはランスの一撃に力を込めて鋭い渾身の一突きを放つ。
しかし、スフィーティアは、その一撃をダガーで受け逸らし、逆にソウの横をすり抜け背後に回り込んだ。そして、ソウを羽交い締めにし、ソウの首にダガーを突きつけた。
「ソウ、この場から引け。そうすればコンゴウも助かるんだ」
スフィーティアは、説得するようにソウに呼び掛けた。
「殺せ。敗者には、死あるのみだ。どうせコンゴウがいなければ意味のない命だ」
諦めたように言うソウの言葉にスフィーティアがカッとなった。
「ふざけるな!」
拘束を解くや、スフィーティアは、ソウの顔面を拳で思い切り殴りつけた。
ソウの身体が10メートルは吹き飛んで転がった。
「ソウ、コンゴウはお前の大切なパートナーなのだろう?だったら、お前のやることは一つだ。コンゴウを助ける。それだけだろう。私にお前の兄シュウのようなことはさせるな」
スフィーティアの青碧眼は、悲し気に揺れているように見えた。
「お前・・・。う、うう・・・」
ソウは弱々しく立ち上がり、鼻と口から流れた血を拭う。
スフィーティアは、ソウから目を逸らすと剣聖剣カーリオンの方を見た。
(もういい。やめろ)
(いやいや、このままこいつの首取っちゃおうよ)
(やめろと言っている)
(ちぇっ、つまらないなあ・・・・)
(!?!?)
その時だ。
急に剣聖剣カーリオンが何かに反応し、光を発した。
そして、急ぎコンゴウの首から外れ、スフィーティアの方に勢いよく飛んでくる。
「何ッ!」
スフィーティアもこれに反応した。
一瞬上空に目を向けるや、ソウの方に駆ける。
「ダメだ!ソウ、この場から離れろ」
「え?」
スフィーティアは、飛んできたカーリオンの柄を掴むや、その勢いを借り、ソウに近づき、ソウを抱き抱えるや、少しでもその場から遠くに離れようとした。
瞬間、上空がシュッと光ったかと思うと黒い線が、コンゴウの頭上に落ちた。
チュドドドドドドドーーーーーンッ!
強い爆発が起き、爆風が巻き起こり、轟音を響かせる。
スフィーティアとソウもその爆風に大きく吹き飛ばされ、地面を転がった。
「う、ううッ」
「大丈夫か?」
「何が起こったんだ?」
充満していた煙が、次第に晴れ、視界が開けた。
そして・・、アンバー・ドラゴンのコンゴウがいた辺りの大地が焼け焦げ、降りしきる雨で蒸気が充満していた。
霞が晴れると、大地がえぐれ、巨大な大穴が開いた。
コンゴウの姿は跡形もなく消えたのだ。
「コンゴウーーーーーーーーッ!」
ソウの悲痛の叫びが、虚しく響いた。
(おわり)
最後に空から落ちて来た黒い光線。恐ろしい予感しかしません。コンゴウを失ったソウの悲痛の叫びは、序章に登場したソウの兄のシュウに重なります。スフィーティアは、そのことが記憶していたから、コンゴウを殺す気にはならなかったんですね。




