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第57話 仇討ちの剣聖1

竜伴奏者ドラグナーという強敵が登場します。剣聖と同じく竜の力を使用します。

 紫陽月しようづき(6月)15日の朝。


(「第54話 領都襲撃アタック」からの続き)



 ドゴゴゴゴゴゴゴーーーーッ!


 その時だ、突然、地面が微かに揺れ始め、地響きが鳴り響き、大きくなっていく。


「何だ!」


 それが立っていられないほどの揺れを引き起こす。

 すると地面をき、巨大な茶色のドラゴンが目の前に現れた。



「何ッ!アンバー・ドラゴン(土竜)だと!」

 スフィーティアが叫ぶ。



「ハッハッハッ!やっと会えたな。剣聖!」

 

 そんな言葉とともに、翡翠色エメラルドの鎧を纏った男が、どこから現れたのか、雲間から出た日差しを背に突然上空から長槍ランスの一撃をスフィーティアに浴びせてきた。


竜伴奏者ドラグナーか。こんな時に!」


 咄嗟のその攻撃に、スフィーティアは、男の一撃を左腕のブレスレットから光の盾を展開して防ぎ、弾き返す。

 男は、飛びのくと、アンバー・ドラゴンの頭の上に降り立った。



「死ね、剣聖!」


 翡翠色の鎧に身を包んだ男は、ランスを持ち変えスフィーティアに再び斬りかかった。

 今度は、スフィーティアも剣聖剣を抜き、それを受けた。


「邪魔をするな!」


 スフィーティアは、剣戟で男のランスを弾き返し、叫ぶ。


「貴様をここから先に行かせる訳にはいかない。剣聖スフィーティア・エリス・クライ」

 男が、槍をスフィーティアに突きつけた。

「何!お前は何者だ?」

 スフィーティアが斬りかかり、男が長槍ランスで受けた。


「俺の名は、ソウ・ムラサメ。貴様を殺す者の名前を覚えておくがいい」


 ランスでスフィーティアの剣聖剣をはじき返すとソウと名乗った男は、スフィーティアに激しく突きの連撃を打ち込んだ。スフィーティアは、剣で槍撃を受けながらも、圧され後ろに下がる。


「ムラサメ・・・」

(こいつ、強い)


「そらッ!」

 ソウの渾身の槍撃がスフィーティアの胸を貫くかと見えた。

 スフィーティアは、これを剣聖剣で受け止めたが、大きく後ろに弾き飛ばされた。


 ズザザザザザーーーーーッ!

 

 スフィーティアのロングブーツが地面に長い跡を刻んでいく。



「そんなものか!剣聖スフィーティアよ」


「ソウ・ムラサメ。少しお前を侮っていたようだ。行くぞ!」

 剣聖剣を持ち変えると、今度はスフィーティアがソウに斬りかかった。先ほどよりも素早い剣撃だ。


 カキン、カキン、チュンッ!


 お互いの刃がぶつかり合い、互いが一歩も譲らないかに見えた。

「フンっ!」

 スフィーティアの気合の一閃が、ソウの槍を弾いた。


 ブンッ!

 ズザッ!


 飛んだ長槍が地面に突き刺さる。

 


 そして、スフィーティアは、ソウの首筋に剣を突きつけた。


「ソウ・ムラサメと言ったな。シュウ・ムラサメ・・」

「貴様、どうしてその名を?」

「何年か前に会ったことがある。お前と同じように私を襲撃してきた」

「そうか、フッ、フッハッハッハッハ・・・」

「何が、おかしい?」

「やっと会えた・・・」


 ソウが、俯き一呼吸置く。


「ふうーッ。そうか、貴様か・・・。スフィーティア・エリス・クライ、貴様が兄者を!」

 ソウの緑色の眼がギラリと憎しみの炎に燃える。


 すると、地面が大きく揺れ始め、スフィーティアの体勢が崩れた。ソウは、瞬間後ろに飛びのくと、地面に突き刺さったランスの方に手をやる。

 すると、突き刺さったランスがスフィーティアの後ろから、物凄い勢いで飛んできた。それにスフィーティアは反応して避けたが、剣聖のロングコートを貫き腰の辺りを掠めコートの下の白いブラウスを破りスフィーティアの白磁の肌が露出した。



 ランスは、ソウ・ムラサメの手に収まる。


「チっ!」



 竜伴奏者ドラグナーは、剣聖と同じく竜の力を使う。剣聖は、竜石によってその力を身に宿すが、ドラグナーは、竜の力をパートナーであるドラゴンから借りて使用する。貸すと言っても貸したドラゴンの力が弱まることは無い。言わば、ドラゴンと共存共栄でウィンウィンの関係と言える。両者の協力コンビネーションが上手くいけばその力は2倍にも3倍にも跳ね上がるといえる。よって、ソウが、スフィーティアを殺してやると言ったが、同じ竜の力を使える以上竜伴奏者(ドラグナー)は剣聖と互角の勝負が可能と言えよう。



「兄?」

 スフィーティアが反応する。

「そう。シュウ・ムラサメは俺の兄だ。それを貴様が殺した!」

 ソウの緑色の眼が怒りに揺らぐ。

 

 ソウは、ランスを構え、前よりも鋭い突きをスフィーティアにぶつけた。


 スフィーティアはその突きを剣聖剣で受け、逸らすと鍔迫り合いとなり二人の顔が接近する。

「私が、シュウを殺しただと?」

「覚えてないとは言わせん」

 ソウのランスに力が入る。

「私は、殺してなどいない!」

 スフィーティアが、ソウの長槍を弾く。


「剣聖でなくて、誰がドラゴンを倒せるか!パートナーのフソウを屠り、兄者をもその手にかけた」

「アンバー・ドラゴンは倒した。だが、私はシュウを殺していない!」


 再び両者の剣先がぶつかる。


「貴様が、協会の《《聖魔騎士》》と結託して殺したんだろうが!」

 認めようとしないスフィーティアにいら立ちを見せ、ソウの怒りが増した。


「え?」


 ソウのその言葉に、スフィーティアの剣先が緩む。


「認めろよ、殺したと!」

「まさか、アトス・・・」



 アトス・ラ・フェール。


 かつてスフィーティアと行動を共にしていた元聖魔騎士の協力者サポーターだ。


 協力者サポーターとは、剣聖団が雇う外部の情報屋だ。ドラゴンの情報や裏の情報などを剣聖団に提供することを生業にするが、時に剣聖と共に行動することがある。スフィーティアとアトスもそんな関係だった。


(詳しくは拙作の『剣聖の物語 剣聖スフィーティア・エリス・クライ 序章をご確認いただきたい。)


 

 ソウの怒りの渾身の強烈な一撃が、スフィーティアの剣聖剣カーリオンを弾き飛ばした。


 カーリオンが地面を転がる。


 ソウは、スフィーティアの顎先にランスを突きつけた。


「ソウ、私はお前の兄の仇なのかもしれない」

「遅えんだよ。やっと認める気になったか。てめえは許さねえ」


「私が、直接手にかけていなくても責任は私にある」

「何?」

「彼の復讐が、こんな形でやって来るとは・・。ソウ・ムラサメ、言い訳はしない。相手になろう。だが、これは、シュウにも言ったことだ。人を襲うドラゴンを私は、許しはしない」

「何を言ってやがる」



 そう言うや、スフィーティアは、素早い動きでソウの頭上を越え、アンバー・ドラゴンに向かう。右手を地面に転がる剣聖剣カーリオンに向けると、カーリオンはスフィーティアの右手に勢いよく飛んで戻る。



 スフィーティアは、一気にアンバー・ドラゴンを狩り、決着をつけるつもりだ。



 グワォーーーンッ!


 ドラゴンの咆哮が地面を揺らし、スフィーティアとアンバー・ドラゴンの間に分厚い土壁が地面から次々と盛り上がる。だが、スフィーティアの剣戟は、鋭く壁を砕いていく。


「させねえよ」

 ソウも反応した。

 土壁に阻まれたスフィーティアを背後から襲いかかる。


 スフィーティアは、左腕の光盾ライトニング・シールドを展開して、ソウのランスの一撃を防いだ。


「今だ!コンゴウ、殺れ」

 ソウが、命じる。


 アンバー・ドラゴンの赤い眼が光ると、スフィーティアの剣戟で崩壊しかけた土壁が形を変え、棘上に変化し、スフィーティアを差し貫こうと幾つもの土棘が襲いかかる。


 これは、避けるのが困難な攻撃だ。


氷れ(ケラハ)!」


 スフィーティアが呪念すると、土棘は忽ち、凍てつき、スフィーティアに刺さる寸前で止まり、ソウの攻撃は、光盾で跳ね返した。


 ソウは、一回転して地面に着地する。



「さすが、剣聖スフィーティア。俺とコンゴウの連携攻撃を防ぐとは、並みの剣聖とは違う」

 ソウは再び、ランスを構え直し、攻撃姿勢を取る。

「だが、ここからが本番だ」

 ソウが闘志を燃やす。



 竜の力を持つ両者の闘いはいつ果てることなく続く。




 その頃、領都カラムンド内では。

 

 アンバー・ドラゴンが起こした強い地面の揺れは、領都カラムンドにも及んでいた。

 その大きな地震で、家屋が倒壊し、出火が起きた。

 先ほどのワイバーン等魔物の襲撃による騒動が落ち着いたと思った矢先に領都の街中は、この地震でまた騒然とし始めた。



 市街で魔物の退治を終えてホッとしていたカラミーア伯は、大きな揺れに驚く。

「なんだ、この大きな揺れは!」


 その地震とともに、領都内に遠くから大きな咆哮らしき音も届き、住民が恐怖に震えだす。


「伯爵、御無事ですか?」

 サンタモニカ・クローゼが、伯爵のもとにやって来た。

「おお、モニカか。大丈夫だ」

「あの大きな唸り声は、ドラゴンではないのか?」

「はい。今部下を急いで確認にやりました」

「グレンはどうした?」

「魔物の被害の確認のため市街に出ています」

「そうか」



 その時、モニカの水晶に反応があった。モニカは水晶を取り出した。

 水晶の中にモニカの部下の魔導士であるシュシュの姿が見える。


『モニカ様、ドラゴンがリザブ村に続く街道の森付近に現れました。スフィーティア様がドラゴンと交戦しています』

 エコーがかかったようなシュシュの声が水晶から聞こえる。

「なんですって!」


 送られてきた水晶の映像にアンバー・ドラゴンと対峙するスフィーティアの姿が見えた。


「スフィーティア!」

「スフィーティア殿がドラゴンに当たっているのか。なら、そっちの方は心配ないか」

「いいえ、伯爵。スフィーティアは、エリーシアちゃんを追っていたはず。恐らく途中でこのドラゴンと鉢合わせしたのでしょう。この様子だとまだエリーシアちゃんとは出会えていないかと。連れ去られたエリーシアちゃんの方が心配です」

「なんだと。何をやっておるか!エリーシアを攫われてはスフィーティア殿に申し訳ないではないか」

 珍しくカラミーア伯が怒気を発した。


「申し訳ありません。しかし、手は打ちました。エリーシアちゃんを浚った者等をにがしはしません」 

 モニカは頭を下げたが、その眼には自信が伺えた。

「そうか。このドラゴンを手引きした者がいるのであろうか?」

「それは、わかりません」

 モニカが思案するが、首を横にふる。


「伯爵、私はスフィーティアの所に行き、彼女の支援をします。この水晶のドラゴンは、グングニールとは違いますので、スフィーティアが何とかしてくれるでしょうが、グングニールが出現する前にエリーシアちゃんを見つけ出さないといけません。伯爵は、グレン大臣と領都の防備を固めてください」

「わかった」

 カラミーア伯爵は頷き、騒然としている領都の中心の方に部下とともに馬を走らせた。



 モニカは伯爵を見送り、空を見上げた。


 風は次第に強くなり、雲の流れが速くなっていた。

 天候も悪化してく気配だ。

 

「この空気嫌な感じだわ。さて、私はスフィーティアの所に行かなくちゃ」

 そう言うと、懐から水晶を取り出し、それを上空へと投げる。

 モニカの数メートルの頭上で水晶が光を発し止まった。 


 魔杖を目の前に構え、詠唱する。


空間吸消バニシュ!」


 すると、モニカの身体を青白い光が包み、モニカの身体は水晶に吸い込まれ、水晶も異空間へと消えた。




 大きな地震とドラゴンの咆哮に領都まちの住民は愕き震え、領都城下は混乱していた。

 混乱を治めようと、カラミーア伯は、住民が集まる街の中心広場にやってきた。


 広場にある高台に演台が急ぎ設けられた。


 カラミーア伯は、演台に立ち、広場を埋め尽くす住民に呼びかけた。グレン大臣も合流し、傍らに立った。


「民よ、落ち着くのだ!地震は収まる。慌てるでない。落ち着いて行動せい。皆で助け合い、地震で壊れた家屋から怪我人を助け出すのだ」


 その時、群衆の中ほどにいた一人の男が叫んだ。


「おい、大変だ。ドラゴンだ!ドラゴンだぞ!あの咆哮こえはドラゴンだぞ!領都ここを狙っているぞ!」

「何だって、ドラゴンがやって来たってのか?」

「そうだ。地震もドラゴンの仕業だ!早く領都から逃げ出さないと皆危ないぞ!」

「どうすばいんだよ?」

「逃げるって、どこに?」

「役人は何をやってるんだ!」


 群衆は、ドラゴンと聞き、騒ぎ始めた。



 ドラゴンが現れたと告げた目深に黒いフードを被った男はほくそ笑み、その場を立ち去ろうとしていた。


 グレン大臣は、男の動きを見ていて、後ろの衛兵に言った。

「ドラゴンと叫んだあの男を捕縛せよ」

「ハッ!」


 数人の衛兵が、群衆の中に飛び込んだが、騒ぎ出した民衆に揉まれて中々進めなかった。


 どんどん喧騒が増していき、パニックになりそうな群衆を前にカラミーア伯は、大きな息を吸うと、叫んだ。


「鎮まれー!静まらぬかッ!」

 カラミーア伯爵は民衆に向けて一喝した。

 

 物凄い大きなドスの利いた声が轟き、一瞬で群衆はシーンとした。


 民衆が落ち着いたのを確認すると、カラミーア伯爵は諭すように語り始めた。

「民よ、落ち着くのだ。この地震が例えドラゴンの仕業だとしてもこの領都は大丈夫だ。我らにはあの剣聖スフィーティアが付いているではないか!ドラゴンなど仕留めてくれようぞ!」

「そうだ!領主様の言う通りだ。俺たちには剣聖スフィーティアがついているぞ!」

「スフィーティアがドラゴンをやっつけてくれるぞ!」

「スフィーティア!スフィーティア!スフィーティア!スフィーティア!」


 カラミーア伯は、なんとか住民の混乱を収めることができ、安堵する。



(頼んだぞ。スフィーティア殿)

 カラミーア伯は、風が吹いて来る南東方向の空を見つめた。

 

 そして、グレン大臣を伴いカラムンド城に戻って行った。




 しかし、衛兵は、ドラゴンと叫んだ男を見失い、捕まえることができなかった。



                               (つづく)

長いので、続きとなりました。このパターン多いです。

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