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第55話 魔導大学校(アカデミア)の学友

聖魔騎士シン・セイ・ラムザがある人物に会う話です。その人物とは・・・・?

紫陽月しようづき(6月)13日 戌時じゅじ四つ時(21時近く)

 

 (前話の一日前のこと。)


 領都カラムンドの中心地から少し外れた所の宿屋だ。



 聖魔騎士シン・セイ・ラムザは、キラが寝たのを確認すると、宿屋の主人に外出することを告げ、外に出た。

 シンは、ある人物と会う約束をしており、その約束の場に向かった。



 下町地区のあまり灯もない細い路地で人通りも少ない。

 そんな場所に目立たない看板を掲げた酒場があった。


 シンは、その酒場のドアを開けた。


 中は、薄暗い灯で奥の方か見えづらかったが、それほど大きな酒場ではなく、テーブルの席には客はいないようだ。

 カウンター席には、2、3人客がいたが、ドアが開くと一斉にシンの方に顔を向けた。


 ごっつい体格で黒い髭面の強面の男がカウンター内から、シンの顔を鋭い眼光で睨むなり、顔で階段の方を差した。



 シンは、黙って2階へと階段を昇って行く。


 一番奥の部屋のドアが開いていた。



 そこまで進み、中を覗くと見知った顔を見つけ安心すると、中に入り静かにドアを閉じた。


「シン、いや、今はラムザ卿と呼ぶべきかしら?」


 狭い個室の部屋の中にいたのは、凛として豊かな知性を感じさせる面立ちに小さめの丸いレンズの赤縁の眼鏡をかけた黒髪の女性だ。長い黒髪を一本に結っている。全身濃い紫色の魔導士装束に身を包んでいた。


 そう、カラミーア伯爵に仕える軍師サンタモニカ・クローゼである。


 部屋の中には彼女一人で、テーブルの席に腰かけていた。テーブルには、炭酸水ガッサータのボトルが置かれ、シャンパングラスが二つ置かれていた。


「シンでいいですよ。モニカ先輩」

 二人は握手を交わし、シンは、モニカと対面に腰かけた。


「うふふ、そう?立派になったわね。今は聖魔道教団の聖魔騎士、しかも筆頭騎士プリンシパルだなんて。で、とても男前。女性からのアプローチが凄いんじゃない?」

 モニカは、シャンパングラスに炭酸水を注ぎ、一つをシンの前に置く。


「よしてください。モニカ先輩は、アマルフィ王国の国王直属の魔導士としてサントリーニにおられると思っていたんですけど、まさかカラミーアにおられるとは思いませんでした」

「そう?私には、王都サントリーニは窮屈だっただけよ。形式的なことが多くて息が詰まったわ」

 モニカは、そう言うと炭酸水に口を付けた。


「うふ、先輩らしいですね。で、今はカラミーア伯爵に仕えていると?」

「ええ、伯爵は、何でも私の進言を取り上げてくれるし、伸び伸びやらせてもらっているわ。とても度量の広い方よ」

「モニカ先輩が他人ひとを褒めるなんて珍しいですね?カラミーア伯爵を信頼されているんですね」

「ええ?そうかしら。でも、大の女性好きで困っちゃうわ。()()()に目移りばかりして」

「他の女?」

「あ、いえ、おっ、ほん」

 モニカは、少し朱になった顔を咳払いして誤魔化す。


「えーと、そんなことより、もう3年ぶりかしら?私が、聖魔皇立魔導大学校ワルキューレ・アカデミアを卒業して以来だから」

「そうですね」


 

 聖魔皇立魔導大学校ワルキューレ・アカデミアとは、聖魔道教国ワルキューレにある聖魔道教会が運営する魔導大学校だ。厳しい魔導試験を合格した才のある者だけが入学できる権威ある大学校だ。ワルキューレだけでなく、アーシアの各地から優秀な魔導士が集まり、魔道の先端的な研究も盛んである。サンタモニカ・クローゼもシン・セイ・ラムザもここで学んだ。二人とも通常は6年かかる所、優秀な成績のため、僅か2年で卒業している。年次は、モニカがシンより1年上にあたる。



「懐かしいわね。カーラ学長はお元気かしら?」

「ええ、カラミーア(ここ)に来る前にご挨拶に伺いました。先輩のこともお話でしたよ。今は、アカデミアの学長ではなく。ワルキューレ聖魔道士会の会長になり、お忙しそうです」

「聖魔道士会の会長って筆頭魔道士よね?ワルキューレの宰相も兼務するんでしょ?それは、大変よね」


 話題のカーラとは、ファルネーゼ・カーラ・エディツィオーネのこと。聖魔道教国ワルキューレのとてつもなく偉い人だ。


「そう言えば、あの子は?シンにいつもべったりだったあの子」

「アントワーゼのことですか?べったりってそんなことないですよ」

 

 アントワーゼ・エリーズ・フォン・アーレンスマイアのことだ。(第48話 密命の朝靄をご覧ください。)


「そう、アントワーゼ!私が、シンと話していると怖い眼で睨まれてたな。で、上手く行っているの?」

「ええ、アントワーゼは、今騎士団で僕の隊の副官ですから、良くやってくれていますよ」

 シンも、炭酸水に口をつけた。


「そんなこと聞いてるんじゃないだけどな。相変わらず、そっちは、朴念仁ね」

「先輩に言われたくないですよ。研究ばっかりだったじゃないですか」

「そうね。うふふふふふ」

「はははははは」

 

 二人の笑いが唱和した。



「で、聖魔道教国ワルキューレの守りの盾の中核である聖魔騎士筆頭騎士(プリンシパル)のあなたが、わざわざこんなアマルフィ王国辺境のカラミーアに来たのは、想い出話をするためじゃなんでしょ?」


「はい。僕は、教皇王様勅命の極秘任務でカラミーアに来ました。」

 シンは、強い視線をモニカに送る。


()()()()()()()()()()()様。この名を聞けば心辺りがおありになるのでは?」


 モニカの眉間が反応した。

「どうやら、ご存知のようですね?」

「どこまで把握しているのかしら?」

 モニカも目を細めてシンを見る。



「僕は、カラミーアに来る前エリーシア様がいたリザブ村にも行きました。それで、エリーシア様が城にいることは把握しています」

「そう。あなたを誤魔化すことはできそうにないわね。でも、一つだけはっきりさせておきたいの。エリーシア・アシュレイは、ワルキューレの血族、はっきり言えばマリー・ノエル皇女の娘だということで間違いないのよね? 」

「・・・・・」

 シンは、伝えるべきか躊躇う。

「答えてもらえなければ、こちらも協力はできない」

 モニカは有無を言わさない。

「はい。エリーシア様は、マリー・ノエル皇女殿下の忘れ形見。殿下の行方が分からぬ今、現教皇王様の地位を継ぐお方です」



「その言葉を聞きたかったのよ。あなたがやって来たのに、こちらも隠すつもりはない。いずれワルキューレから使者が送られてくるだろうと思っていたから。ワルキューレの情報網は知っているし。でも。シン、あなたで良かったわ。で、あなたはエリーシアちゃんの素性をどこまで知っているの?」

「素性?マリー・ノエル様の御子でしょ?」

「父方の方のことよ」

「それは・・・、聞いていません。エリーシア様のこと自体が、一部の者しか存じておりませんので」

「そうよね。公にできることではないと思うわ」

「モニカ先輩は知っているのですか?」

「確証はないわ。知らないなら知らないままの方が良いかもよ」

「教えてください」



「今、剣聖団がカラミーアで活動しているのは知っているかしら?」

「はい。スフィーティア・エリス・クライという剣聖が、カラミーアのドラゴン討伐に派遣されているんですよね?」

「そうね」

「リザブ村での戦闘の痕は、酷いものでした。ドラゴンと剣聖の戦闘の痕でしょう。スフィーティア・エリス・クライが関与していたのですか?」

「ええ、エリーシアちゃんは、スフィーティアに助けられたのよ。スフィーティアがいなければ、彼女の持つ魔女の力はドラゴンに取り込まれていたでしょう」

「そうでしたか。その剣聖には感謝しないといけませんね。でも、その剣聖とエリーシア様が関係あるんですか?」

「エリーシアちゃんの養父は、エゴン・アシュレイという人よ。どうやらスフィーティアとは知り合いだったみたい。それも只の馴染みではないでしょう」

「エゴン・アシュレイは、エリーシア様とは血のつながりはないのですね?」

「ええ。エゴン・アシュレイについても調べてみたけど、わかっているのはカラミーアには、2年前に来たということだけだった」

「では、誰がエリーシア様の父親なのでしょう?」

「スフィーティアは、何も話さないけど、彼女は知っていると思う。恐らく口にすることができないのよ。それが、彼女に近い剣聖だから」

「剣聖が、エリーシア様の父親!。エリーシア様は、覚醒魔導士リベイラーのマリー・ノエル様と剣聖の間に生まれた御子だとう言うのですか?」

 シンは、驚きの声を上げた。

「ええ、それも私は相当の実力者だと思っているわ」



「そう言えば、エリーシア様が住んでいた住居からこれを見つけました」

 シンは、腰に差している白い鞘に納められた一振りの剣を取り出し、モニカに差し出した。

「すごく見事な剣ね。待って、これは!」

 モニカが鞘に彫られた青薔薇の家紋と文字に気づき、大きな声を発した。

「ブルーローズ家の剣。まさか、剣聖と言うのは、ユリアヌス・カエサル・ブルーローズってこと?」

「剣聖ユリアヌス?」



「光の剣聖ユリアヌス・カエサル・ブルーローズ。剣聖は、最近まで表に出て来ることはなかったから、知らないかもしれなわね。ドラゴンの勢いが増す前の実力者よ。ユリアヌスは、現在行方がわからなくなっている。死亡したとも言われているわ。ユリアヌスが姿を消してから、ドラゴンの動きが活発化し始めたの。本当かはわからないけど、彼一人で()()()ものドラゴンを討伐したとの噂よ」

「ドラゴンを一人で1万体・・。とても信じられない!」

「ええ、でもそれ位狩れば、アーシアからドラゴンを見かけることも無かったのも頷けるでしょう?」

「そのユリアヌスという剣聖がエリーシア様の父親ではないかと、先輩は考えるんですね」

「そう考えるのが、ワルキューレがどうしても隠したがっている理由として納得がいかないかしら?」

「僕からは何も・・」

「聖魔騎士様に聞くことじゃなかったわね。うふふ」

 ブルーローズ家の剣を返しながら、モニカは笑う。

「相変わらず、意地悪です。先輩は」

 シンは、ムッとしながら剣を受け取ると腰に戻した。



「モニカ先輩、エリーシア様に会わせていただけますね?」

「ええ、でも2,3日待ってくれないかしら?エリーシアちゃんを保護しているのは、カラミーアではなくて、スフィーティアなの。彼女は、エリーシアちゃんをエゴン・アシュレイから託されたと言っているの」

「エリーシア様が、剣聖ユリアヌスの子なら彼らにもエリーシア様を確保したい理由があります。剣聖は剣聖からしか生まれませんから。剣聖スフィーティアは、納得してくれるでしょうか?」

「彼女も、エリーシアちゃんが、ワルキューレの血筋だという事は承知しているの。外交問題になりかねないこともわかっている。でもエリーシアちゃんの意志を尊重したいようよ」

「意志を尊重するって、まだ8歳の子供ですよ」


「あら、あなたが聖魔騎士を志したのは、いくつの時だっけ?」

「そ、それは・・・」

 

 シンも、エリーシアと同じ位の歳の時にあることがきっかけとなり、聖魔騎士を志したのだった。


年齢としは関係ないわよ。ただ、今は、エリーシアちゃんの心は不安定なのよ。一度に両親を亡くした。それもドラゴンに殺されて。それだけじゃない。彼女が育ったリザブ村はドラゴンに破壊され、村人も皆死んだの。これらは皆エリーシアちゃんをドラゴンが狙って起きたのよ。この悲劇は、8歳の少女が抱えるにはあまりにも酷だと思わなくて?」

「エリーシア様が、そのような境遇だったなんて、なんとお労しい」

 シンは、エリーシアの心痛を思うと心が張り裂けそうになり、唇を噛む。

「エリーシアちゃんは、一度に全てを失った。今彼女の心はドラゴンへの憎しみでいっぱいよ。それでも彼女は気丈に振舞おうとしている。これが、どれほど辛いことかだけは、わかってあげて」

「はい」



「それともう一つ、今エリーシアちゃんを聖魔道教国ワルキューレに連れ出さない方がいい理由があるわ。私の()()()()のことは知っているわね」

「モニカ先輩の予知魔法ですって!」

 シンは、聞きたくなかったようだ。


 シンの顔がみるみる青ざめていく。


「な、何よ、その反応は!」

「思い出すのも恐ろしい。何度も失敗して、酷い目に遭って・・・。ああっ!」

 シンの頭の中で何かがフラッシュバックしたようだ。


 シンは、頭を抱える。


「し、失礼ね!学生の時は、そりゃ、未熟で失敗していたかもしれないけど・・・」

「その度に付き合わされて・・・。そのうち、モニカ先輩の顔を見るのが怖くなって・・・」

「言われて見れば、一時期シンが私の前から見えなくなった時があったわね。そうじゃなくて!今の私は違うのよ。詳しくは言わないけど、確度が100%の時がある。今回の予知魔法はそれなのよ」


「はあ・・。一応聞きますが、どんな予知結果なんですか?」

「一応って何?一応って?まあ、いいわ。物凄く巨大なドラゴンが、もうすぐこのカラムンドに現れるの。狙いはエリーシアちゃんでしょう。魔女ヴェファーナの血を求めてね。数日中にカラムンド(ここ)が戦場になり、都市まちは壊滅よ。私は、この予知結果を変えたいの。だから、シン、あなたの力を貸して頂戴。神の手(ゴッドハンド)の力が必要になると思う。カラムンド(ここ)を守るにも、エリーシアちゃんを守るにも」


 シンは、モニカの真剣な眼差しを受け止めた。


「わかりました。先輩を信じます。力をお貸ししましょう」

「良かった。私の予知魔法は、最悪の未来を変えるためのもの。あなたの力を得られることに感謝するわ」


 モニカとシンは、固く握手を交わした。

モニカの予知魔法・・・・、大丈夫なのでしょうか?

実は、前話でもシンのことをモニカが示唆しています。

お分かりになっていた方は、よく読んでいただいています。嬉しいですね。

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