第43話 アスラン血風10 エドワードの闘い
間が空いてしまいましたが、前話とは打って変わって、エドワードとシスティーナのドタバタコンビの話になります。冒頭から不安を予感させる展開ですが、果たして、どうなることやら・・・・・w
紫陽月(6月)14日 亥時二つ時(もうすぐ22時)。
エリザベス王女の挙式よりも2日前のこと。
ここは、王領リーズ市郊外だ。
「うーん、やばい!疲れて来たッス」
剣聖見習いエドワード・ヘイレンは、巨大なエメラルド・ドラゴンと交戦していた。
そのドラゴンは、エメラルド・ドラゴンにしては、大きなドラゴンだった。
体長は20メートル超。ドラゴンの体長は立った時の足先から頭の天辺までで表す。なので、尻尾の長さは含まれない。尻尾の長さを含めれば30メートルを超える。エメラルド・ドラゴンは、標準が10メートル程度なので、このドラゴンは大柄と言える。一般的にドラゴンの強さは、身体の大きさと体色の濃度で判断できる。このエメラルド・ドラゴンは、深緑色で大きい。エメラルド・ドラゴンとしては、強く上から3番目のBT級となろう。
『遅い!あんた、いったいいつまで、相手にしてるのよ!』
右耳の銀のイヤリングから、剣聖システィーナ・ゴールドの怒声が響く。
「だから、もうすぐだから・・」
『ずっと、昼間からそう言ってるじゃない!もういいわ、私が行くから』
エドワードは、ここで切れた。
「大丈夫だって言ってるだろが!デカパイの出るところじゃねえ!」
『な、な、な、何ですってえーーーーーーっ!』
システィーナの狂声が右耳に響いた。
プツっ!
エドワードは、通信を切った。
きっと、マイクの向こうでシスティーナは、大きな胸を揺らしながら地団駄を踏んでいるに違いない。
後でエドワードがどんな目に遭うか・・・。
しかし、今のエドワードにそんな心配は頭に無かった。
目の前のエメラルド・ドラゴンを倒す。ただそれだけだ。
一方のシスティーナがイライラするのも無理はない。
彼女の懸念は正しかった。
エドワードは、かれこれ、半日もこのエメラルド・ドラゴンと闘い続けていたのだから。午前から交戦を開始し、すでに夜となっていた。
少し時間を戻す。
その日の巳時四つ時(10時半頃)
エドワードが、リーズに着いた時には、そのエメラルド・ドラゴンは、リーズ市の兵と魔導士等と交戦していた。多数の兵が死傷し、人口3万人を抱えるリーズ市は甚大な被害を受けていた。エメラルド・ドラゴンが発生させた竜巻により城壁を崩され、市街の建物はなぎ倒され、市民の多くに犠牲が生じていた。
「くそ!遅かったッス」
エドワードは、上空からリーズ市の惨状を見て叫んだ。
市街の3分の1ほどに被害が生じ、建物を破壊され、瓦礫を築き、死体がそこらに転がっていた。リーズ市の上空を悠々と巨体のエメラルド・ドラゴンは、舞っていたのだ。
「エメドラめ!」
エドワードは、鎧形態の換装を解き、崩れかけた城壁の上に降り立ち、唇を噛む。
「エメドラを、ここから追い出すッス!」
不意にエドワードの目の前にエメラルド・ドラゴンが落ちて来た。
ズドドド-ン!
バーキバキバキバキーーーッ!
エメラルド・ドラゴンが乗っかった建物は、潰された。
「キャアッ!」
近くにいた母親と少女の親子が風圧で吹き飛ばされ、転がった。母親は、起き上がると娘を庇おうと、娘を覆うようにドラゴンに背中を向ける。ドラゴンは、押しつぶした建物から、ズシンズシンと親子に近づく。急いで逃げ出さなくてはいけないが、後ろの通りは、瓦礫で道が塞がれていた。ドラゴンの影が親子を覆う。ドラゴンの手が、親子にヌーっと伸びる。
「ああ、神様・・・」
バーンッ!
グゥギャーーッ!
銃声が響くと、ドラゴンが悲鳴を上げた。
ドラゴンの左眼から血が溢れ出ている。エドワードがリュウガンを使用したのだ。白いリボルバー型の銃を右手に持っている。リュウガンは、対ドラゴン用の銃火器だ。
「早く逃げるッスよ!」
エドワードが、親子を助け起こすと、その手を取り、ドラゴンの後ろの開けたところまで連れて行く。
「走るッス」
親子は、お礼を言い、被害がまだ少ない方へと走って行った
眼を傷つけられ、悶えていたエメラルド・ドラゴンは、すぐに傷口が修復され、エドワードを睨んでいた。
「ここから先は、通さないっッスよ」
エドワードは、跳躍しながら、背中の剣聖剣バスタードソードを抜く。
バスタードソードは、群青色の大剣だ。両刃のシンプルなデザインの大剣だが、太めの刃に波打つように竜が刻印されている。
バスタードソードでエドワードは、頭を狙った。
その時、エメラルド・ドラゴンの眼が黄色く光り、ドラゴンの羽根が小刻みに揺れた。
シュバ、シュバ、シュバ、シュッ・・・
「うっ!」
瞬間、羽根の動きとともに、真空の刃が幾つもエドワードを襲った。エドワードは、バスタードソードでそれらを弾き直撃は免れたが、胴や足などに切り傷を負った。また、この攻撃で周囲の建物が真空の刃に斬られ、崩れ落ちて行く。親子が逃げた方向とは逆であったのが救いだ。
「うう、こいつは、やばいッス」
ここは、鎧形態に換装するしかない。リーズ市の被害を増やさないためにも、早くエメドラを街の外に出すことが大事だ。
「ちょっと派手に行くッスよ。換装」
胸の青い輝石に触れ、念じると輝きとともに白色のロングコートの正装状態からメタリック・ブルーの鎧形態に換装された。いかり肩の肩部には、カッコイイV字が刻印されている。
時間をかけるわけにはいかない。鎧形態は、消耗が激しいのだ。
「エメドラちゃん、付き合ってもらうッスよ」
そう言うと、瞬時に接近し、エメラルド・ドラゴンの頭に強烈な一撃をお見舞いした。
ドラゴンの頭は、地面にめり込み。瞬間、ドラゴンの頭部が凍りついた。
エドワードは、師のアレクセイ・スミナロフのように炎属性を操る剣聖ではなく、氷属性を操る。スフィーティアと同じだ。
エドワードは、上空に飛び立ち、エメラルド・ドラゴンを見下ろす。
少しすると、凍結は解除され、エメラルド・ドラゴンは起き上がり、エドワードを睨む。
グゴゴゴゴゴーッ
『人間風情が我の顔に泥を塗るなどと・・・。許せぬぞ!』
「あれー、怒ったッスかねえ」
エドワードは、ドラゴンから距離を取り、リュウガンでドラゴンを撃つ。
『そんなおもちゃは、我には効かぬ』
「うわあ、やばいッス!」
エドワードは、逃げるように距離を取って行く。
『雑魚が待たぬか!』
エドワードの狙いは当たった。
ドラゴンは、知能は高いのだが、プライドも高いため、侮辱などの挑発には反応しやすい。
そうして、エドワードは、リーズ市の外にエメラルド・ドラゴンを誘導していく。リーズに被害が及ばないと見た平原にエドワードは、降り立った。鎧形態も解除され、白いロングコートの正装形態になる。
ズドド-ン!
エメラルド・ドラゴンがエドワードの前に降り立つ。
グゴゴゴゴーッ!
『観念したのか?』
「そんな訳ないっッスよ。街で闘いたくなかっただけッス。ここでお前を殺るッス」
エドワードはニヤリと笑った。
『ほざけ!どちらにしろ、あの都市は潰す。お前を八つ裂きにした後でな』
「やれるものならやってみるッスよ!」
エドワードは、剣聖剣バスタードソードを両手で構えた。
エメラルド・ドラゴンの行動の方が早かった。
翼を大きく前に羽ばたかせると、巨大な竜巻を前方に発生させた。その竜巻は進むほど大きくなり、エドワードに接近していく。
「うげっ!さっきより大きい」
後ろに走り、逃げるが、竜巻に巻き込まれると、上空高く巻き上げられた。
「うひゃあっほおおおおっ!」
悲鳴とも笑声ともつかない声をエドワードは発する。表情を見る限り楽しんでいるように見えた。
このエメラルド・ドラゴンが起こした竜巻は、只の竜巻ではない。巨大なのもあるが、巻き込まれると刃物のような切り傷を与えるのだ。普通の人間であれば、巻き込まれれば、まず助かることはない。切り刻まれ肉塊が血しぶきと共に振って来るだけだろう。
しかし、エドワードは敢えてこの攻撃を喰らったのだ。それは、師であるアレクセイ・スミナロフの教えだ。
『いいか、ドラゴンの攻撃をわざと喰らって、その攻撃の隙や痛みを覚え、克服していくんだ。ただし、致命傷をくらわないようにな。これは、一つは、耐性を身に着けるため。そして、もう一つは、相手の油断を誘い、隙を作るためだ』
実際、スフィーティアも第7話『雷竜』でやっていたことである。
巻き上げられている間、エドワードは、竜巻が起こす突風により、無数の切り傷が襲う。ある程度は、剣聖のロングコートは正装状態とは言え、竜の革を使った高い防御性能のため、防ぐことができる。しかし、顔などのむき出しの部分はそうはいかないため、エドワードは、氷属性の力を使い、皮膚を硬化させ防いだ。
そして、巻き上げられながら、エドワードは、思った。
(この程度、マスターのしごきに比べたら屁でもないっッスよ)
エドワードは、突風に巻き上げられながらも、行動に出た。リボルバーのリュウガンを撃ったのだ。
パーン、パーン!
二発撃った。
竜弾を使用したため、威力も高い。一発はエメラルド・ドラゴンの右眼に命中した。
グゥギャギャーッッ!
もう一発も顔に命中し、めり込み、血が流れる。これが、エメラルド・ドラゴンの隙を生んだ。竜巻は、次第に弱くなり、エドワードは、竜巻から抜け出すと、エメラルド・ドラゴン目掛けて一直線に落下しながらリュウガンを放つ。
パーン、パーン、パーン!
エドワードは、皮膚の薄い顔を中心に狙った。全て命中し、ドラゴンが怯むと、さらに隙が生まれた。
「ここッス!」
エドワードは、リュウガンから、バスタードソードに切り替えた。
「換装!」
そして、鎧形態に換装して、加速した。一気にこの闘いにけりを付けるつもりだ。エドワードは、エメラルド・ドラゴンの胸を狙った。
『甘いわ』
シュンシュンシュンシュン!
エメラルド・ドラゴンの翼が微かに動くと真空の刃が襲ってきた。鎧が真空の刃を弾くが、この攻撃が、すんでの所で、ドラゴンの急所である心臓への攻撃を逸らした。代わりに、エメラルド・ドラゴンの強烈な、大きな手による打撃により、エドワードは、遠く弾き飛ばされた。
「ウグァっ!」
エドワードは、軽く数百メートルも飛ばされ、地面を転がった。
その間に鎧形態も解除された。
「イテテテ・・・・」
エドワードは、フラフラしながらも起き上がる。
「さすがは、BT級のエメドラちゃん。強いっすね。マスターの一撃の方が何倍も痛いっすけどね」
エドワードの闘志は失われていない。アレクセイのしごきとは、どんなものだろうか。
しかし、何故、エドワードは、鎧に換装して闘うことを選択しないのだろう?
これもアレクセイの教えだ。アレクセイからは、鎧形態は、消耗が激しいため、いざという時に限定するよう教えられていた。鎧形態はいつまでも維持できない。短期決戦が決められるならまだしも、そうでないのならリスクを冒すべきではないと教えられていた。エドワードは、その教えを実行していたのだ。
闘いは、延々と続き日は暮れ、真夜中となっていた。
そこに、剣聖システィーナ・ゴールドが光沢のある黒色のシュライダーに乗り、亜麻色のツインテールの髪を靡かせやって来た。
「もう、あんたいつまで闘っているのよ!」
エドワードを睨むシスティーナの眼は吊り上がっている。
冒頭のデカパイ発言にまだ腹を立てているのだろう。しかし、白い剣聖のロングコートの下の黒いブラウスがきつそうにはち切れそうな胸が主張してる。
「やべえ、そろそろ時間切れみたいッス」
「あんた、本当にやれるんでしょうね?」
「ああ、大丈夫っす」
システィーナは、エドワードの揺るぎない決意の眼差しを確認すると、言った。
「いいわ。任せてあげる。でも、グイーン卿の騎士団もそこまで来ているの。エレドラをやっつけないと、進めないわ。これ以上時間をかけるようなら、私がやるから」
「わかったッス。ただ、少しだけ助力して欲しいッス。シュライダーに俺を乗せて、あいつを攪乱して欲しい」
「いいわね。見てるだけだと退屈だから、乗ったわ」
システィーナが、ニヤリと応じた。
「じゃあ、行くッス!」
エドワードが、シュライダーのシスティーナの後ろに跨る。
「行くわよ!」
シュライダーが急加速をして、エメラルド・ドラゴンに接近していく。エメラルド・ドラゴンもただ見ているだけではない。翼を軽く揺らすと、真空の刃がシュライダーを襲う。しかし、システィーナは、巧みなハンドルさばきでそれらをかわす。エドワードもバスタードソードを振るい、真空の刃の攻撃を弾いていく。
あっという間にドラゴンの真下まで接近すると、エドワードは、跳躍し、バスタードソードを振るい、その胸を狙った。しかし、これもドラゴンは、手でガードし、防がれた。股を潜って通過したシュライダーは、急反転して、戻ると、エドワードは、またシュライダーに降り立った。
シュライダーがドラゴンから距離を取ると、システィーナが言った。
「こいつ、意外とすばやいわね。いいわ。私が隙を作ってあげる。あんたのリュウガンを貸しなさい」
「わかったッス」
エドワードが、システィーナに白のリボルバー式リュウガンに竜弾を込めて渡した。
「もう竜弾はこれで終わりッス」
「わかったわ、次で決めるわよ。」
「ういッス」
エドワードは、微笑を浮かべた。
「行くわよ」
システィーナが急加速して、再度ドラゴン目掛けて突っ込む。さっきよりも格段にスピードが上がっている。変則的な斜め軌道で行く。ドラゴンの真空の刃の攻撃が襲ってくるが、エドワードが弾く。そして、近づくと、システィーナがリュウガンをドラゴンの心臓を狙って何発か撃つ。しかし、ドラゴンはこれを手を下げ、防いだ。しかし、システィーナのこれは、誘導だ。竜が腕を下げた瞬間、両目を狙い、見事2発とも目にめり込んだ。
グゥギャギャーッッ!
先ほどよりもドラゴンは、悶絶の絶叫を上げる。
「今よ!」
システィーナが合図する。
「換装」
エドワードは鎧形態に換装すると、一羽ばたきでエメラルド・ドラゴンの間直に迫り、心臓をかばう様に置かれたドラゴンの腕を斬り落とし、その心臓にバスタードソードを突き刺した。
グギャッ!
『き、きさまー!』
エドワードが、バスタードソードを深く胸にめり込ませると、ドラゴンの巨体が崩れ落ちた。
「ふう」
エドワードが、地面に着地すると、メタリックブルーの鎧形態が解除され、白いロングコートの正装状態に代わる。
「ハア、ハア・・・。やったッス!」
と、エドワードが拳を握り肩を震わせ達成感に酔いしれていたのだが・・・。
「へー、これ結構大きいじゃない」
「え?」
いつの間にか、システィーナがシュライダーを倒れたエメラルド・ドラゴンの傍に乗りつけると、胸にレイピア突き刺し、心臓の一部である『竜の心臓の欠片』を取り出していた。
それは、すぐに結晶化し、エメラルド色に輝く美しい宝石へと変化した。
「まあ、いいじゃない!」
システィーナは、目を輝かせ、欠片を見ている。
「ああ!それは、俺のッスよ!返すッス」
エドワードが、慌てて抗議する。
「はあ?あんた、どれだけ私に迷惑かけたかわかって言ってんの?」
「え、ええーーッ?」
「それに、あんたがさっき私に言ったこと、忘れてないから」
デカパイ発言のことを言っているのだろう。
「あ、あれは・・・つい」
「それに、か弱い乙女の胸に二度も顔を・・・。ああ、今思い出してもとても傷ついてしまうわ」
「それは、不可抗力で・・・」
「ああ、この欠片があれば、私の心も少しは満たされるかもしれないのに。ううつ」
システィーナは、悲しげに顔を両手で覆う。
「う、うぐぐぐ・・・」
エドワードは唇を噛む。
そして観念したようだ。
「もう、わかったッス。それは、あげるっす」
「キャーっ!やったー、嬉しい!」
システィーナは、急に態度を変え、飛び跳ねて喜んだ。
「音が止んだな。どうやら、ドラゴン討伐は、成ったようだな」
アナスターシャ・グイーンが、朝焼けが照らすリーズ市近郊の戦場が静かになったのを確認して言った。
「そのようですね」
傍らの副官であるヘーゼル・ウィンウッドが応じる。
「道は開けた。エリザベス王女奪還のため、アスランへ進むぞ」
「命令では、リーズ市を越えたアスラン領境で待機とのことでしたが」
ヘーゼルが、細い眼を微かにピクつかせ目を伏せた。
「王女の危機だ。剣聖などに任せておけるか。非常事態ぞ。私は、進むぞ」
アナスターシャの決意は揺るがない。
「わかりました。麾下100名のテンプル騎士お供いたします」
「進軍、進軍!」
合図の元に、アナスターシャ麾下100騎のテンプル騎士団は動き出した。
アナスターシャ・グイーンは、まだ若い剣聖二人の陽気なやり取りを横目に、アスランを目指して進んで行く。その見つめる視線の先には、エリザベス王女のいるアスラン公都アークロイヤルがあった。
(つづく)




