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第1話 剣聖スフィーティア・エリス・クライ

 スフィーティア・エリス・クライは、夢をみていた・・。

 辺りは暗く草原に1人の少女が遠くに見えた。灰色の服を纏った銀髪で長い髪の少女が彼女を見て、言うのだ。

「助けて・・、助けて・・・」

 悲しげな少女。だが、その少女の顔はおぼろげだ。近づこうとするが、近づけない。

「どうした?私に何を訴えているんだ?誰なんだ、お前は!」

 スフィーティアは叫び、少女を追うが、どうしても近づけず、少女はどんどん離れていく・・。

「待ってくれ!」

「私は、エリ・・・。あなたを・・・まっ・・」

「え、何だって?」

 少女の姿が、薄くなり消えていった・・・。

「待ってくれ!」


 よく晴れた朝日も眩しい朝。海辺の断崖に佇む古びた城。その2階の赤い絨毯が敷き詰められた広い部屋の中、窓辺に近い位置のベッドに1人の非常に美しい黄金色の長い髪の若い女が、苦し気な表情で寝ていた・・・。


 ハッとして、スフィーティアは目を覚ました。

 窓辺から差し込む光が眩しいくらいだ。陽光に長い金髪が透き通るように栄え、スフィーティアの美をこの上もなく引き立たせていた。透き通るような青碧の目は、物憂げだ。スフィーティアは、ベッドから出た。彼女は裸だった。女性らしい均整の取れたプロポーション、引き締まった身体、一糸も纏わないその姿はこの上もなく美しいもので、天界の神をも虜にしそうだ。ただ、その美しい体で違和感があるとしたら、胸の中心に青く輝く『宝石』が刻み込まれていること、そして背中には、右上から左下に一本の鉤爪のような長い傷跡があることだろう。

 掛けられたシルクの薄い青のガウンを纏い、窓辺まで来ると、大きな窓扉を開き、ベランダに出た。スフィーティアはベランダの欄干に手を付き、遠くを見た。朝日に輝く海から吹き付ける風が心地よかった。風は、スフィーティアの長く軽い髪をなびかせ、金色の輝きを放った。遠くを見ると海面に日が照り返し眩しい。

「またあの夢・・。あの少女は・・、わたしに何かを語り掛けている」

 スフィーティアは、遠く空を見上げた。遠く一点を見つめていると、1つの大きな黒い竜が空を駆け抜けていくのが見えた・・気がした。



 ここは、『アーシア』と呼ばれる世界。記憶しておいて欲しい。古よりドラゴンは人々から災厄として恐れられていた。一度、竜が現れれば、人は飲まれ、建物は破壊された。武器を持ち抵抗する者もいたが、その強大な力の前に踏みつぶされた。いつしか人々は強大な竜の前に、為す術もないと悟り、逃げ、その禍が自分に振りかからないようにと祈り、ただ通り過ぎるのを待つしかなかった。

 そんな中に、いつしか、竜に対抗できる『力』が現れた。『剣聖けんせい』と呼ばれる竜の力を宿した『人』である。彼らは、竜を狩る特殊な武器を用い、巧みな技と超人的な能力で竜を狩った。竜と剣聖の闘いは、古より繰り返されたが、互いに滅びることはなかった。ただ、長い竜と剣聖の争いの歴史において、竜の中に強大な力を持つ竜が生まれる時があった。その時、世界に危機が訪れたと言う。今、正にその時期が訪れようとしていた。

 時は、アーシア歴1508年。アーシアのヴェストリ(西)大陸の東方に位置する大国アマルフィ王国において、竜の動きが活発となっていた。王国各地において、竜が出現し、それに呼応して国境付近の異民族が侵攻してきた。400年の歴史を誇る王国は今最大の危機を迎えていた。物語は、この国を中心に進んで行く。



「コツコツ・・」

 ドアを叩く音がした。

「姫様。お目覚めですか?声が聞こえたものですから。入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、爺」

 スフィーティアは、後ろを振り返った。

 初老の紳士が、紅茶の茶器類を乗せたワゴンを押し、部屋に入ってきた。執事のようだ。黒いモーニングを着た背の高い背筋がピシっとした銀髪の紳士だ。

「おはようございます、姫様。今朝も良い天気です。春は気持ちよくて、良いですな。お紅茶をどうぞ。お朝食の準備が出来ております。お着替えの上、ダイニングまでお越しください。」

 執事は、ベランダのテーブルまで来ると、カップをテーブルに置いて、紅茶を注いだ。紅茶の芳しい香りが部屋に漂った。

「ああ、ありがとう。」

 スフィーティアは紅茶の置かれたテーブルに付くと、その香りを楽しむ。

「今朝はローズの香りか。爺の紅茶は最高だ」

 スフィーティアは紅茶を啜ると、自然と顔が綻んだ。

「ありがとうございます。お朝食の準備が出来ております。お着替えの上、ダイニングまでお越しください。剣聖団本部より指令が届いております」

 執事は、一礼をして部屋から出て行った。スフィーティアは、海を眺めがら尚も紅茶を楽しんだ。


 バタン。


 スフィーティアは、自分の私室を出た。白を基調に袖や縁に青色と金色を使った刺繍の紋様の入ったロングコートに、青と白地にやはり金の刺繍が縁に施されている膝上位までのスカートという剣聖の正装に身を包んでいた。ロングコートの背中には、青地に舞う白竜※が描かれている。手には柄に金の見事な祈りの女神をあしらった長剣を持っていた。彼女は、私室のある2階から1階のダイニングにコツコツとヒールブーツの音を高らかに立てながら向かう。


(※白竜は剣聖団のシンボル)


 ここは、石造りの古い城だ。城壁などは、所どころ崩れ落ちていて穴が開いている箇所もある。この広い古城に人気はあまりないようだが、建物の中は、清掃が行き届いている。中央の階段を下りた踊場のあたりには、白い竜の絵が飾ってある。白い竜は剣聖団の紋章にもなっている。スフィーティアは、謁見の間を抜けて、右手の部屋に入った。


 先ほどの執事が、スフィーティアの座る席の側で待っていた。この執事は、ダン・フォーカー。クライ家に仕える執事である。年齢が不詳など、謎が多い。スフィーティアが席に付くと、ダンは、食事を並べた。朝食にしては、豪華なものであった。スフィーティアはそれを奇麗にナイフとフォークを使い黙々と美しく食べた。食事を終えると、ナプキンで口を拭き、口を開いた。

「爺、本部からの指令は?」

「はい、こちらに」

 ダンは、青いはがき大の包みを開いた。すると、文字が空間に煙のように流れ出すと高い少年のような声の音声が流れた。


『剣聖スフィーティア・エリス・クライに命ずる。


 アマルフィ王国西方にドラゴンが相次いで出現、王国内に深刻な被害が出ており、ドラゴン討伐の要請が届いている。貴殿は、至急カラミーア領の出現地点に赴き、調査の上ドラゴンを発見し、排除せよ。欠片の回収も怠らないこと。


                                  以上』


 指令が終わると、空間に漂う文字が消え、指令書から、今度は地形図のようなものが浮かび上がって来た。

「ここはどこだ?」

「カラミーアとガラマーンとの国境の町ボンから東方のようです。カラミーア軍とガラマーン族が対峙しておりますな。この状況ですと、カラミーアはかなり侵略されたようですな」

 どうやら、この地形図は単なる地図ではなく、その場所の状況も表しているらしい。

「内陸のカラミーアは、こことは同じアマルフィ王国内とはいえ、海側と山側、かなり遠いですな」

 地形図が次第に消えて行くと、指令書は、ダンの手の上で青白く燃えて無くなって行った。火は熱くないようだ。指令の内容と場所は今のでスフィーティアの頭に刻まれたようだ。

「そうだな。『シュライダー』を使おう。準備してくれ。ああ、爺。その前に紅茶をいただけるか?」

「すでに、こちらにご用意してあります」

 ダンは、後ろのワゴンから茶器を取り出した。

「フ・・」

 スフィーティアは、ダンの察しの良さにいつも驚かされると思った。


『シュライダー』

 宙に浮いて動く現代で言うオートバイのような流線型の形をした乗り物である。剣聖団製で空間転移能力も備る剣聖のみが使用する乗り物だ。ヴェストリ大陸内であれば、どこにでもあっという間に行ける。《《ある》》地域を除いて。


 城壁の中庭にダンとスフィーティアの姿があった。スフィーティアは、白銀ボディーのシュライダーに跨って、ハンドルの中央にあるフローティングパネルに何やら打ち込んでいた。

「よし、転移先の座標入力はオーケーだ。爺、門を開けてくれ」

「かしこまりました」

 城門がゆっくりと開く。

「では、爺。行ってくる。留守を頼む」

「姫様、お気をつけて、いってらっしゃいませ」

 スフィーティアは、頷いた。ゴーグルのようなものを目に当て、ハンドルを握るとシュライダーは城門を勢いよく飛び出していった。特に大きな音を出すのでもなく、スーッと走った。気持ちいい朝で日差しが眩しい。城から続く起伏のある草原の道を降って行き、長い直線が続く辺りに出た。スフィーティアはフローティングパネルで転移ポイントを確認すると。一気にスピードを上げる。すると、パッと光を発すると、スフィーティアの駆るシュライダーはその場から消えた。


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