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二人

 白いコルセットと黒いロングスカート。コルセットの裾部分から灰色のエプロンのような布が座っている少女の膝に巻き込まれている。長袖の黒いシャツ、首元には黒いリボン。黒いシャツの上に、胸元までの長さしかない灰色のローブを羽織っていた。

 コルセットの裏からは長い灰色のリボンが地面に垂れ下がっている。


 少女はちょこんと座り、水琴が近づいてくるのをただじっと見ていた。右目が黒く、左目が青い。黒くて長い髪が青い光に照らされる。まるでその少女だけがスポットライトを当てられているかのよう。


 水琴は少女の目の前まで来ると見下ろしながら言った。

「お前は何者だ」

「アリス」


 水琴はその名前を聞いて呟いた。

「黒髪の……アリス?」


 アリスは自身について製作者のこと以外覚えているのは名前だけだと言った。そして自分は人形と言い始めた。

 アリスは水琴を見上げている。ガラス玉のようなきれいな瞳でアリスはこう言った。

「全てはあなたの為に」


 水琴は何を言ってるんだ、そう考えを巡らせようとした矢先にアリスと目が合った。

 その輝くような瞳と姿は人形であることを事実だと言わんばかりに”出来すぎていた”


 水琴はその瞳に吸い込まれるように見つめた。まるで自分の心を反射しているかのようなその瞳は水琴には苦しいものだった。

 アリスのフードを掴み、顔を隠す。

 アリスはフードによって奪われた視界から顔を傾け、青い目を覗かせた。水琴は目を逸らす。



 アリスはフードをもう一度被る。心の中で、自分の言葉を語る。


 ――――私は世界を知らない。私の瞳で見えているのはあなただけ。

 あなたを見ていると、張り裂けそうな胸の痛みを感じる。だから私は……知っている感情の言葉を並べます。

「あなたが笑うために私は――何ができますか?」


 水琴はそのまま背を向けると扉に向かって歩き始めた。

「できることなんてない。俺は復讐するだけだ。この世界の事は何も知らない。どんな世界かも分からないこの世界で、復讐以外何ができるかも分からないのに何をしてもらえと言うんだ」


 水琴が扉に近づくとその扉が開く。

「扉を開けられます。歩けます――支えられます」


 最後の言葉が水琴の心を揺らがせる。




 ――――扉を出てしばらくたった頃、青い明かりが転々とする洞窟を水琴は進んでいた。

「もうついてくるな。金もない、食べ物もない。ただの復讐劇にお前を連れて行ってもお前が得るものはきっとない」

「私は外の世界を知りません。同じですね。何も知らないのに得るものがないなんてどうして言えるのですか?」


「お前めんどくさいな……」

「アリスと……」


「知るか」


 復讐の事ばかり考えていた水琴は余計な感情を自分自身に入れたくなかった。

 水琴は復讐の感情を増幅させたかった。なのにアリスのせいで調子が狂っている。


 さっさと離れようと歩き出すが当然アリスもついてくる。


「なんでまだ付いてくるんだよ」

「行く宛がありません」


「そうかよ」


 水琴は早足で歩いた。

 その速度に合わせてアリスも早足に変わる。



 息一つ荒立てずについてくるアリスに水琴は焦る。逃れられない。アリスは疲れること無くついてきていると思ったのだ。水琴は体力の限界を感じるまで早足で歩いた。結局疲れ果て、壁に手を付けながら息を整える。

「はぁーっ、はぁっ……はぁ、くそ……」

「…………ふぅ」

 水琴は隣に立っているアリスを見る。アリスはぷいっと顔を背けた。

挿絵(By みてみん)


 アリスの体力に限界はないと思いこんでいた水琴だったが……案外そうでもないかもしれない。ただ様子を見るからに自分より体力がありそうだと結局のところ諦めた。

「分かった。外に出るまでは一緒にいてもいい」

「はい」


 その返事は本当だろうなと疑いながらも水琴はゆっくりと注意深く進んでいく。


「この洞窟内の情報はどこまで知ってる?」

「私達が居た場所までしか……」


「そうか」


 役に立てず落ち込むアリス。水琴はアリスに注意するよう言った。


「俺はあの場所を攻略した。けどそれは不死であり、決まった行動があったからだ。

 この先、どんな敵が来るかわからない状況なら俺は無力だ。不死の力が残っているのなら死なない。その場合は失敗と挑戦を繰り返してなんとかする。

 そうでないのなら死ぬ。俺はお前を守れない。逃げたきゃ好きに逃げてくれ」


「戦えとは言わないんですね」

「……微塵も考えなかったな」


 そこから会話はなく、ただ出口を探して歩き続ける。

 水琴が青い光に照らされた洞窟内を振り返るとほんの少し下り坂になっていた。


「俺たちは登ってるのか。ならここは地下ってことでい……!」


 反響しながら近づいてくる音。それは壁を削るような……それは振動と共に大きくなっていく。

 奥の明かりから次々へと消えていく。一瞬水琴の目に音の正体が写る。

 ――蛇のような長いモンスター。道が狭いのだろう。洞窟内を削りながら水琴達への一本道を進んでくる。



 水琴はアリスの腕を掴み、逆走する。アリスは驚きながらも手を引かれ一緒に走る。


「どうするのですか? ここまでは一本道。逃げられる隙間など」

「それを考えるために逃げてるんだよ!」


 アリスは立ち止まる。自然と手が離れる。


「何してんだアリス!」


 アリスは水琴に背をむけ、モンスターを見る。上から細かい土や石が落ちる。

 ――――モンスターが動きを止める。体が震え、ゆっくりと後退りしていく。そして洞窟内の土を削りながら旋回し、逃げるように去っていった。



 水琴は棒立ちで思考を巡らせる。

「お前今……何したんだ」

「”何も”してません。見ただけです」


 水琴はアリスの右目の瞳孔が形を変えた瞬間を見ることはなかった。


 アリスは水琴の手を引く。

「そちらは戻る道。行く宛はこちらのはずです」

「あ、ああ」


 アリスは水琴に大してやさしいという言葉を当てはめた。実感としての情報がアリスにはなかった。あるのは知識だけ。経験はない。


 言葉を知っていてもそれを実感として知らない。疲れるという言葉を知っていても、それが正しいかは分からない、言葉に意味を持たせるのはまだまだこれからだ。



 水琴は歩き続けることも出来たがある程度進んだ所で腰を下ろした。


「何やってるんだ俺は……何がしたいんだよ」

 目の上に右手を被せてそう呟いた。助ける義理なんてない。放っておけばいい。それどころか助けられるなんて。


 俺はアリスをどうしたいんだ。


 そんなことを考えていた。アリスが顔を上げてスンと匂いを嗅ぐ仕草を見せる。

「どうした」

「これは……臭い、です」


 水琴は先行しながら注意深く様子を見る。

 そこにあったのは無惨に、食べ残された……人の死骸。虫が蠢いて、骨がちらりと見える。それが道なりに、至る所にある。


「……」

 水琴は壁に張り付いた白い繭のようなものに触れようとした。


 アリスが警告する。

「それはきっとあなたにとって不快なものです」


 水琴は冷静に短く、アリスに聞いた。


「中身は」

「人です」


「……そうか」


 水琴は触れるのをやめた。見たところ兵士。鎧や武器が散乱している。水琴はそのうちの一つである剣を手に取った。自分の武器として持っていくためだ。


 二人は顔色変えずにその惨状を踏み越えていく。

 暗闇の中、突然飛びかかっきた人間サイズの蜘蛛を水琴は片手剣を振り払って一刀両断する。

 蜘蛛の体液が水琴の体に付着する。それを拭くことなく水琴は言った。


「戦う前にあの惨状を見れて良かった。肝が座ったよ」

「肝?」


「気にするな。動揺したりしないってだけの話だ」

 水琴は自分で倒せそうなゴブリンや蜘蛛、人型のモンスターを躊躇なく処理していく。


「ここは――――異世界。日本じゃないんだ。腑抜けてなんかいられない。あいつらを殺せるくらい強くなる必要がある」

 揺れていた復讐の灯火が安定していた。

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