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復讐の為の攻略

 再び目を覚ます水琴。冷や汗がシャツをべっとりと濡らす。そんなこと気にもとめず、水琴は叫んだ。

「ああああぁぁああ!! ああぁ! ああああぁぁあ!!」


 そうするしか出来なかった。終わりも見えない。考える時間もない。後頭部に強い衝撃を受けて死を迎える。



「あはっ、あはははははは」


 繰り返される死の中で、目を覚ました水琴は狂ったように笑った。そうすればおかしくなって今の状況から逃げられるかもしれない。精神崩壊という死に迎えるかもしれない。


 目を覚ました水琴は力なく声帯を震わせた。

「あ゛ぁー……」


 意味もなく立ち上がり扉へと向かう。力なく扉をゴン、ゴン……と叩く。そんな水琴の顔を首なしの騎士が両手で掴む。再び命を終える。



 よろっと立ち上がるとまた扉へと向かった。今度は石を削るように爪で引っ掻く。爪がパキッと割れて血がにじみ出る。


 足を引きずられ、中央へと連れて行かれる水琴。なんの反応もせず魔物たちの餌となった。


「お゛えっ、あぇ、あははっあはははは」

 目の前で斧を振り下ろす石像の姿が見える。早く、早く狂ってくれ。終わらせてくれ。

 ……痛い。

「かはははははははははッ! あはははッッッッ!」

 無理やり――笑った。

挿絵(By みてみん)



 死んで、死んで、死んだ。

「ぁぁあっ……なんで、なんでだよ」

 時に泣き出した。子供のように顔を覆い隠すように。


「俺、なんもしてないじゃんかよぉ……」

 グチャッ。



 ???回目の死を迎える。


「……次は左足だろ。早くしろよクソ石像」


 宣言通り水琴の左足は切断される。断面から大量の血が流れでる。

 目を覚ます。深いため息をつきながら顔に手を覆いかぶせる。


「この世は理不尽だ。公平だの平等だのなんかない。

 なぜだ。俺が今、こんな目に遭ってるのは”誰のせいだ”

 あいつらだ。俺を勝手に召喚して、ここにおいていったクズどもだ」


 目を覚ます。

「何回死んだ。あいつらは今頃生還を祝って酒でも飲んでるか?」


 目を覚ます。

「何日経った。俺はどうしたらいい。意識が消えない。いつになったら開放される。このままか?」


 目を覚ます。目を覚ます。目を覚ます。目を覚ます。目を覚ます。目を覚ます。目を目を目を目を目を目を目を目を目を!


「くくっはは! あはははっ、笑える。笑えるよなぁ!! 死んで死んで死にまくったこのクソみたいな状況を笑う以外どうしろってんだよなぁ!!

 殺してやる。あいつら全員。俺を、俺にかかった理不尽の元凶を!! 世界の理不尽を教えてやる。ぶっ殺してやるクソ共がッ! ははははははは!」



 ーー水琴は振り下ろされた斧に潰されることなく立っていた。


 何が起こったか。死ぬことなく佇んでいる水琴は振り下ろされた石像の巨大な斧をスレスレで避けていた。石像の斧は地面に突き刺さっている。水琴の目は鋭く虚ろ、殺意に満ちている。起き上がる直前に掴んだ石で石像の武器である斧に傷をつける。


 襲いかかろうとしていた騎士の剣を奪い取る。その後、足元に魔法陣が生成される。水琴がやったのではない。杖の石像が発生させたものだった。

 ドクン、ドクンッと脈打っていた水琴の心臓は動きを止めた。



 水琴は表情ひとつ変えない。心臓が再び脈打ち始めた瞬間に走り出す水琴。振り下ろされた後の斧の柄を登り上がっていく。石像の腕部分にたどり着いた。

「傷は再生しないのは確認した。終わりはあるって事だ。てめぇら全員殺してやる」


 低く、殺意に満ちた声で石像にそう言った。水琴は背中側に重心を移して自由落下を始める。その上を大剣がかすめる。


「最も危険なのは巨大な四体の石像。斧、剣、杖、弓。

 ――そして」


 剣の石像が粉々になっていた。本来水琴を狙った弓の攻撃が剣を持つ石像を粉砕していたのだ。水琴はその弓の攻撃によって命を落としていた。


 自分の髪をかきあげながらぶつぶつと呟く水琴。


「こいつも消えた。残り二体。

 この空間に存在するすべては作り物だ。決まった動きをする。俺が立ち上がるか、右に移動するか、指を動かすか。ほんの些細な行動一つひとつでこいつらは行動を決める。

 これを作ったやつは能力が無いものでもクリア出来るように作っている」


 水琴は襲いかかってきた騎士の剣を一瞬にして奪い取る。落下しながら、いや常に自分の頭の中でシミュレーションする。

「リアル死にゲー。上等だ。いくらでもコンテニューしてやるよ」


 ――石像だった瓦礫が散乱している。床には魔物たちの血が撒き散らされている。返り血で真っ赤になっている水琴は短いため息をする。


「お前で最後だ紫に変色したゴブリン。腸喰われた恨み、ここで返す」



 水琴の周囲に黒い影のようなものが渦巻く。水琴はそれに気づいていない。

 このゴブリンはただの雑魚と言えない強さを持っていた。人間では再現不可能に見える脚力で水琴に飛びかかる。


 水琴は後ろに体勢を崩しながら振り下ろされた棍棒を弾く。ゴブリンは棍棒を離すことなく右手で水琴を狙う。水琴は持っていた剣を地面に突き刺し、横へと体重移動する。ゴブリンの攻撃を躱した後、距離を詰める。振り下ろした剣と振り上げられた剣が接触した瞬間、剣は粉々にくだけた。


 ゴブリンはニヤつきながら言った。

「オ゛ワ、リッ」

 ――次の瞬間だった。ゴブリンは何にも触れられていないはずなのに大きな音と共にぐしゃりと潰れた。持っていた棍棒は木くずのようにバラバラになっている。


 水琴の周囲に渦巻いていた影も消えている。息を整えながら水琴は言った。


「……なんだ、今の。どうやった」


 水琴は何が起きたのか分からないまま、周囲を見回した。全員殺したことを確認すると休むことなく散策する。


「クソ、どんなに探しても出口がないじゃんか。

 やっぱクソゲー……」


 視線を感じた。それは中央。大きな鉱石の真下。青く輝く鉱石はそこだけを最も輝かせていた。そこには一人の少女が座っていた。

 青い光に照らされた少女は神秘的な雰囲気を醸し出す。


 恐る恐る近づく。殺す。殺されるかも知れない。だが、近づく度にそんな感情も薄れていく。それほどまでに少女は美しかった。

 少女は動くことなく水琴が近づいてくるのをじっと見ていた。

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