表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/48

迷い

「はぁ……」


 授業中、ため息をついている水琴。その水琴にアリスは問いかけた。



「何かあったんですか?」

「ちょっとな。自分勝手が過ぎた。相当嫌われたかもしれない。それでもいいと思ってやったことではあるんだけどさ」



「一体どんな事を誰にしてしまったんですか?」

「悪いな。それは話せない」


「そうですか……」


 スフィールと目が合う。スフィールはすぐに目をそらしてしまう。水琴は考えていた。どうして人を見ないのだろうか。どうにも精神的なことだけではない気がすると。


 その疑問が晴れることはなく授業も終わり、昼食となった時間。水琴が立ち上がりグーッと体を伸ばすしているとスフィールが通り過ぎる。そして水琴以外に聞こえない声の大きさで言った。


「ごめんなさい。言い過ぎました」



 すぐさま去ってしまい水琴は返事をすることが出来なかった。だが、関係が一歩前進した気がした。


 そんなことを考えているのもつかの間、イツが御前試合に出場するメンバーに声をかけていった。校舎裏にて戦闘訓練を行いたいとのことだった。



「先生に許可はとってるからよ。やりすぎねー程度に模擬試合するぞ」


 水琴はバカにするようにイツに言った。


「お前が言うか」

「手首」


「……すまん」



 六人が校舎裏に集まる。水琴、イツ、ノービア、ノルア、ルーク。見物人としてのアリスだ。水琴はルークと練習することとなった。



「ルーク。手加減してくれよ」

「お互い様さ。許可はあるんだ。気にせずスキル使っていくからな」



「殺すなよ?」

「死ぬなよ? なんてな」


 水琴は模擬刀を構えると、ルークまでの距離を詰める。真横の校舎の壁が一部ぐにゃりと変形する。円柱型に変化した一部が水琴に襲いかかる。しかし水琴のスピードに追いついていない。



「それで魔素も魔力も使ってないのはずるいな水琴!」

「使えるものは使ったほうがいいけどな!」


 あと一歩の距離まで水琴は近づいた。ここだと水琴が剣を振るった瞬間、剣は空を切る。地面が変形して間合いを変えられたのだ。


「せっこ!」

「戦略だぜ水琴!」



 ルークが腕を組む。深呼吸をしながら人差し指をトンッと腕に当てる。水琴の周囲三メートルが大穴へと変わる。さらに水琴の立っていた地面が網状の籠となり水琴を包み込んだ。


「降参」


 水琴は手を上げた。事実水琴はここから出る手段がない。



「今回は俺の勝ちだな」

「そもそも相性が悪すぎる」


「ははっ」



 イツが終わったのならそこをどけといった。


「次はノービアとノルアだ」


 ノービアはパースと言った。



「どうせあたしら勝ち駒じゃないんでしょ? じゃーいいわ」

「勝ち駒だと言ったら?」


「どちらにせよパス」



「……ま、元からそうなるだろうと分かってはいたけどな。ルーク……は空腹で無理か。おい水琴」



「なんだよ」

「俺の相手しろ」


「うぇー……」

「嫌がるんじゃねぇよ!」


「なんかなー……頼む態度じゃねーよなぁー」



「……俺の相手してくれ」


「もういっちょやるかぁ」



 見合う二人。深呼吸をしつつ、距離感や指先までの行動を観察する。



 先に動き出したのはイツ。


 イツの拳が炎をまとった。水琴はそんな魔法を知らない。イツ固有の魔法らしい。


 気づけばイツは水琴に対して距離を詰めていた。水琴もしっかりと反応し振るってきた拳を斜めに避ける。拳の軌道に炎が残る。さらに拳の先へ向かって炎が放射された。


 イツは勢いを殺さずに背中側に半回転する。そして拳の裏を水琴めがけて振り上げた。スレスレで避けた水琴の顔に熱さが伝わる。



「あっっっつ!! つかおい当たったら死なねーか?!」

「手加減してんだろ! 医務室にいきゃぁやけども治る! 髪は治らないけどな」


「おいおいおい嘘だろ!」


 水琴は全力で避け始めた。



 避けながらも一つの問いかけをする。


「なぁイツ。お前の目的ってなんだ」

「んなもん決まってる。ビークラスに戻ることだ」



「なんでビークラスに行きたがる」

「なんでだろうな」



「ここじゃだめなのか」

「ダメだ」


「ここでだって」



「てめぇはほんと俺の神経を逆なでするのがうめぇな!!」


 イツは炎を消した。


「ニグラ・ネブロ」



 イツがそう唱えた瞬間、黒い霧が発生し始める。水琴だけでなく、周囲の人間も含めて辺りが見えなくなっていく。


 突然光りだした目の前のなにか。それはイツの炎の拳だった。振るわれた直後に炎は消え、たちまち何も見えなくなる。


 しかし声だけが水琴に届く。



「俺は優秀でなきゃならねーんだよ。お前はどっちだ。評価が定まらねぇ。

 最初俺はお前をただの雑魚だと評した。だが今はどうだ。前回のあの力はなんだ。俺はお前をどう評価すりゃいい」



「随分おしゃべりだなイツ。俺は見たまんまだよ」

「ちっ……めんどくせー野郎だ」


「いいから話せよ」

「なんでてめーなんかに話さなきゃならねーんだよ」



「俺は自分自身の目的なんか、思いつかない。ただ今は気に食わないから、そういう伝統だからって理由でこのクラスを落ちこぼれと言わせたくない。

 その為には全員努力する必要がある。ただでさえ人数が少ないからな。それに信頼し信頼される必要もある。


 ――お前もだよイツ」



「……気持ち悪いやつだ」


「あぁ。俺もそうおもうよ。

 ――生きる目的なんてなかった癖にな」



 いきなり水琴は態勢を崩した。炎を消したイツに足を払われたのだ。そして馬乗りされてしまった。


「やばっ」



「別に殴らねーよ。

 俺はな。家の階級を上げる。そのためだけに生きているようなもんだ」



「……そんな人生」


「ああ。くだらねーだろ。

 それが貴族だ。俺には兄が居た。


 やさしくて強い兄が。だが両親から傷一つつけることなく勝ってこいと言われた結果、学園での戦闘訓練を避けた。試合もだ。だがクラスが良かった。

 そのおかげで卒業後に即前線へと送り込まれた。ある国との戦争で死んだよ。心臓に穴は空いてたがきれいな制服だった。


 次は俺だ。そして次がもう一人いる。俺は弟をこんな柵に捕らえたくない。そのためならどんなことだってしてやる。時間がねーんだよ」




「話したな。信頼してくれたのか」

「バカ言うんじゃねぇ」


 黒い霧が完全に晴れる。イツの行動ではない。続けて聞き覚えのある声がした。



「何も見えないんじゃつまらないじゃない」


 水琴が見上げた先、校舎の屋上にエリーが立っていた。そこからふわっとジャンプし、地面に軽く降り立つ。


「ねぇ、イツ?」

「……そうだな。見ての通り俺の勝ちだ」



「その子ちょっと拐っていくわね」


「は?」


 水琴の体が宙に浮いた。エリーはグッと親指を立てる。


「レッツ空の旅」


「いやこれ逆バンジィィィィ!」



 水琴は地面から空に投げ飛ばされた。その先は校舎の屋上。エリーと二人きりとなる。水琴は地面に両手をつきめちゃくちゃだと愚痴を吐いた。



「ふふ、ごめんなさい。楽しすぎたかしら」

「見えるか? お前にはそう見えるのか?」


「冗談よ。安心して私頭おかしいから」

「んな自己紹介あるかよ。んで目的は」



「目的? まー特に無いけど」


「このやろ……」

「そうね。強いて言うならあの剣どうしたの?」



「あれか? あれは拾ったものだからな。他国の剣だからってリィーナに持ってかれた」


「確かに他国の兵士が持つ剣だものね。

 持ってないんだ。つまんないの。まぁいいわ。彼女たちが屋上に来るまで時間はあるしお話でもする?」



「イツについて教えてくれ」

「なんで?」


「ビークラスを落とされたのはなんでだ」


 エリーは水琴の耳に近づいた。吐息混じりに言った。



「なんでだと思う?」

「それを聞いてるんだが」


「力をつけ始めたから私が落としたの。後は……おもしろそうだから」


「お前イツがどんな」


「私には関係ない。楽しければいいのよ。言ったでしょ――私は頭がおかしいのよ」



 エリーは少し離れ、水琴を見つめた。数秒後、屋上のドアが開かれる。


「あら、時間切れ。じゃあね。ちゅっ」


 エリーは水琴のほっぺにキスをした。ほっぺですらファーストキスよ。

挿絵(By みてみん)

 といたずらに笑うと去りながら言った。



「ごめんあそばせぇー。ノービアがたらたらしてるから唾つけといたわ。おほほー」


 明らかにふざけている。



「はぁ?! そんなんじゃないし! つか勝手にキスすんな!」

「嫌なら手綱でもつけておきなさい」


 水琴は放心状態だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ