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作戦会議

「なるほど、それで君はノービアとデートをしてきたわけか」

「あぁ、そうだっっ! ぶなっ!」


 リィーナと体術の修行をする水琴。リィーナの正拳突きを体をのけぞらせることで避け、危険のない位置に体を転がす。いつもより修行が厳しいと感じながらも水琴は真剣に打ち込んでいた。



「魔王城を見た感想は?」

「広いな。さすがは英雄の魔王」


「大きな魔族が入れるようにそういう設計をしたらしいッ」

「うぉッ」


 足を払われごろんと寝転ばされる水琴。荒くなった息を整える二人。



「やはり筋が良いな。覚えが早い。多少スタミナが足りないのが欠点だが」

「インドアだからな」


「ふふ、勉強に熱心みたいだからな。ちゃんと寝ているか?」

「メリーに聞いたのか」



「ああ。

 そういえば君の言っていた狼男。めずらしいぞ」


「でも本人は珍しくないって」



「それは”魔族”がという意味だ。

 英雄譚に存在していた狼王はもう亡くなっているし、残った子孫たちは他の種族と交わることで人の姿が強くなっている。純粋な狼男の姿をしていたということは原点に近いなにかがあるということだ。

 他の種族と交わらなかったのだろう。珍しい存在だと思うよ。私は一人しか見たことがないからな」



「へー……

 あ、その狼男にこの剣について言われたんだ。他国の剣など持ち込むなってさ」


「……これは、テルマの……

 あぁ、なぜ気づかなかったんだ私は。今度これに寄せたものを用意する」



「悪いな……まだあんまり詳しくなくて」

「いいさ。気づかなかった私の落ち度だ。お詫びに今度食事でも奢ろう」



「いいのか? でも時間無いだろ?」

「作るさ。またこうやって」



 その後リィーナは水琴の剣を手に取る。もう時間がないからと手を振って去ってしまった。ひとり残された水琴は木陰で寝ているアリスの隣に座った。


「順調ですか? 水琴」


「相手の強さがわからないからなんともな。御前試合ってことは本来王が見に来てたんだろうな」



 アリスは水琴の頭に手をのせ、自分の胸に引き寄せた。久しぶりの密着に水琴は慌てふためいたがアリスが小さな声で言った。


「静かに」



 水琴は口を閉じた。アリスに抱きしめられているという安心感と木陰の涼しさが相まってまぶたが落ちてくる。


「おやすみなさい水琴。がんばりすぎ」


 アリスは木の葉の隙間から空を見上げる。



「後、私にかまってくれなさすぎです。今は独り占めしちゃいます」


 アリスの感情が育っていく。それにつれて、より水琴を求めるようになっていた。



 ――――翌日のこと。窓は閉じられ、ドアも施錠。各々は食事を持って中央の机周辺で弁当や食堂の食事を並べる。二年エルスクラスが全員参加のミーティングだ。


「あ、あの」

 スフィールがよそよそしく言った。


「どうして私、ここにいるのでしょうか」

挿絵(By みてみん)



 ノービアがとぼける。


「さぁ?」


「さぁ? じゃないです! すぐに逃げようとしたのに鍵は閉められ窓は閉められ、ノービアさんにがっちりホールドされてここに座らされているんです!!」



「あはは、そうだっけ?」

「そうですよ!」


 イツが苛立つ。



「おい。黙ってろ」

「う、より私必要ないじゃないですか……」



 ヴェートがそれに同意しつつ自分もだと言った。


「んー、僕も必要ないのでは」



 イツはため息をつく。


「いいから聞いてろ。もしかしたらいい案が浮かぶかも知れないだろ」


「んー、そういうのは勝つ気があるものがするべきことでは。

 僕はあまり興味はないですし」



「お前それでいいのかよ。

 何一つ魔法を使えない落ちこぼれのままにこにこ笑ってるつもりか?」


「ええ」



 イツはヴェートの胸ぐらを掴む。ヴェートは冷たい声で言った。


「やつあたりがしたいなら机にでもどうぞ」

「いけ好かねぇな。なぜかお前には手を出したくなくなる」



「それは良かった」


 イツは手を離す。



「いいか。俺はこの御前試合に勝つつもりだ。計四試合一年のうちに行われる。そのうち一試合は御前試合。残りは試験の一環だ。

 ここで結果を残す必要がある。どんな手を使ってでもだ」



 水琴は言った。



「ルークとお前くらいだろ。勝てるのは。

 俺も勝つつもりでやるが」


「ああ。ノービア、水琴。お前らのどっちかは勝て。ノルアには期待していない」



 イツは心の中でお前らにもなと付け加えた。


 ルークはイツに進言する。


「つっても俺とイツでも勝てるとは限らない。相手はビークラス。相性の問題もあるからな。ついでに前日は腹いっぱいなにか食わせてくれ」



「あぁ、俺のこづかいで好きなだけ食わせてやる。その代わり勝てよ。

 ここに相手の出場者と順番が書いてある」



 そう言うとイツは鞄から一枚の紙を取り出した。


「っ、それどうしたんだよイツ」


「俺は元ビークラスだ。ツテがあんだよ。こいつに合わせて相性のいい相手を組む。異論はねぇな。一番強いエリーにノルアを当てる。

 後は相性順に……」



 イツは次々と順番を決めていく。それを見ていたヴェートは誰にも聞こえないように小声で言った。


「へー……そういうことか」



 大声でイツは順番に異論がないか問いかける。



「これでいいな。後はそれぞれの戦術だ」


 こと細かにイツは指示を出していく。



「水琴、お前は魔力切れを狙え。後は体術でなんとかしろ。それしかねぇ。ノービア、お前は相手を場外に押し出すだけでいい」


 水琴はイツの真剣さに驚いていた。



「お前結構真面目にやるんだな」


 それがイツの逆鱗に触れたらしい。


「この学園で必死に生きてねぇやつのほうが珍しいんだよ! 自分が今どこのクラスに居るか言ってみろよ落ちこぼれ!!」



 余裕のないイツは水琴の首を強く掴む。力を徐々に強くしていく。


「お前らみたいにのほほんと生きてるのが腹立つんだよ。何の期待も背負ってねーお前が俺を評価するんじゃねぇ!」



 水琴は意識が飛びそうになる。速度、強さ共にイツは水琴のそれを超えていた。


「やべぇ、意識が……」


 ノービアは慌てて止めようとする。



「イツ! もうやめなよそれ以上は」

 イツの手首がひねられる。水琴は机の上に立ち、状況を理解していないイツを見下ろしている。



「あぁ、悪かったよ。軽率な発言だった。

 だが、自分の生き方が他人にわかってもらえていると思うな。お前の振る舞いはそう感じさせるんだよ。

 強い言葉を使いたいのなら結果を出せ弱者」



「て、めぇ……!」



 バコンッ。机と地面の一部が変化し、二つの箱となる。それぞれにイツと水琴は閉じ込められる。隔離された箱の中は真っ暗だった。



「落ち着けふたりとも。イツは頭を冷やした後、治療しに行ってこい」


 ルークの固有スキルだ。



 ノルアが水琴様と叫ぶ。アリスも箱を叩きながら水琴、水琴と叫んでいる。


「生きてるって。イツが行ったら出すから落ち着きな」



 その言葉通り、イツが不機嫌そうに立ち去った後に水琴は外に出される。しかし、無気力な状態でうつろな目をしていた。



「? 水琴? 暗い所ダメだったか? なら悪かったよ。反射的に……」


 明らかに普通じゃない。ルークは水琴を揺らす。水琴は瞬時にルークを見た。その目は怯えている。



「みこ……」




 アリスがルークから水琴を奪い取る。大丈夫です。私が居ますと何度もつぶやきながら水琴の頭を撫でる。


 ノルアはこの状態はおそらく迷宮でのトラウマが原因だと仮定しルークに説明をした。



「えっと、これはですね。強いストレスがかかったときに暗闇の中に入るとこうなっちゃう時があるんです。

 言ってなくてすみません」


 こんな感じで誤魔化せたかなとノルアはルークの反応を伺う。



「そっか。知らなかったよ。

 水琴が落ち着いたらすげー謝ってたって言っといて。今度会ったら改めて謝罪するってさ」


「あっはい!」



 水琴は翌日、もとに戻ったものの先日首を絞められた後の事を何一つ覚えていなかった。ルークから謝られた時は覚えていなかったが素直にその謝罪を受け取った。


 ノルアは今後こんなことがないよう努めようと対策ノートを書き始めていた。

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