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実技

「お前らも分かっている通りすべての基礎は魔素だ。例外もいるがその魔素を感じられるようにならないといけない。


 その程度は去年やっているから問題ないな。では魔素の使い方には二種類の方法が存在している。そのまま使うか魔力に変換するかだ。

 魔力のメリットはその自由度だ。自身と近い位置にある魔力はそのものの適正を含め有利に働く。しかし人間はその蓄えが少ない。


 魔素は扱うのになにかしらの儀式を必要とする。魔法陣、詠唱、今は使えないが神代の文字だ」



 ノルアは水琴に自分の本を見せる。



「私の魔法の媒体はこれです。転移の章はないのであの時は手書きでした。記憶に残った魔法陣だったので失敗してしまったのかも知れません。

 ごめんなさい……

 スィーちゃんとは契約済みでして、本とは関係ありません。

 この本に書いてある文字をなぞって必要な言葉だけを詠唱することでいろんな魔法を発動しています」



「そうなのか。やっぱり読めないな」

 水琴は開いてもらった本の文字を眺めてそう言った。



「頑張ってください! 私もお手伝いします!」

「リィーナが教えてくれるはずだったんだが……」



「何かとお忙しいのだと思います。今日も学園には来ていないようですから」

「良く分かるな」



「来てたらもっと騒がしいですから」


 授業を続ける先生は黒板に文字を書きながら話している。


「知っていてもほとんど扱うことの出来ないお前らには意味のない知識だろうがな。

 そもそも魔力というのはエノア・ルーヴェスト様がエルフの森にいた際に」



 授業が終わり、十分程の休憩がある。爆睡しているノービアと目を閉じているアリス。

 なるほど、確かにノービアにとって授業の意味はあまりなさそうだと水琴は思った。そして目を閉じているだけのアリスに話しかけた。



「なにしてるんだ?」

「自分の持っている知識とこの世界の知識をすり合わせています」



「知識的にはどの程度覚えてるんだ?」

「多少は、というところでしょうか。ただ紙に書いてあるのと大差ありません」



 そう言うとまた黙り込む。水琴はぐったりしているルークに声をかける。


「んで、ルークはどうしてそんなに疲れてるんだ?」


「俺文字読めないんだよ。最近はある程度分かるようになってきたんだけどさ。聞きながら専門用語を読むのが難しくて」



「俺と同じだな。文字に触れてこなかったんだ」


 ピクッとルークの耳が反応する。



「おっまじで? 仲間じゃん! いやーここの生徒は身分が高いから読み書きが出来て劣等感はあったんだよ。

 仲間がいると少し気が楽になるな!」


「そうか? このままじゃだめだとは思うけどな」



 イツがその会話を聞いていたのか離れた席から叫ぶようにして言った。



「はっ! 所詮は貴族にもなれない落ちこぼれらしい会話だな」

 ルークはあおり返すように笑った。



「はははっ。なぁイツ。今自分がどこにいるのか教えてくれよ」

「てめぇ……」


 チャイムが鳴り響く。先程と同じ先生が再び教室に入ってくる。



「ちょっとした実習だ。全員表出ろ。適当に流すぞ」


 それぞれが席を立ち、グラウンドに足を運んだ。その間水琴はノルアに生徒数が少ない理由を聞いた。



「生徒が少ない理由ですか? 私達のような落ちこぼれと呼ばれるエルスクラスは人数が少ないんです。他のクラスは三十人以上いますよ。この学園はルーヴェスト帝国だけでなく、寮を利用して通う他国の人も多いですから」



「人数が少ないんじゃ余計立場がないな」

「はい。残念ながら……」



「さて、その話も重要だが、ノービア……重いというかなんというか、圧が」

「……すー……ふぃー……ん、い、いじゃ……ん」



 ノービアはグラウンドに向かうまで水琴の背中に寄りかかっていた。胸の形が変わるほど体重を掛けられていた。さすがの水琴も動揺と上がっていく心拍数は無視できなくなっていた。

 ノルアはノービアの脇の下から腕を通す。


「いつもは私なんですけど……気に入られたのかも知れません」

「犬かよ」


 グラウンドに全員集合すると一人ひとり魔法を一つ詠唱するように伝えられる。



「魔法は一つ。どんなものでもいい。傾向とその能力について把握する為のものだ。

 あまりに巨大なものや地形が変化するほどのものは避けるように。

 それと最初からやらないやつは座ってろ」



 複数人が座り始める。水琴は座ってしまったルークに聞いた。


「なんで誰もやろうとしないんだ?」

「俺は相性が悪いし、どうせバカにされるのがオチだからな」



「だがやらなければ結局」


 目が冴えてきていたノービアが言った。



「いいのいいの。どーせ意味なんてないから。あたしも使えないし。

 隣でおんなじように実習受けてる優等生にバカにされるのがオチ」



 同じグラウンド、少し横に離れた位置に同じ学年のフィード・ビークラスが居た。エルスクラスをあざ笑う声が度々聞こえてくる。


「……まぁ俺も使えないけどさ」



 水琴はビークラスを横目にそう言った。早くもこの授業に興味を無くしていたノービアは水琴に疑問を投げかける。



「ねぇ水琴、なんでこの学校に来たの? そういえば聞いてなかったなーって思って。

 嫌なら答えなくていいよ」


「リィーナに言われてな」

「リィーナと知り合い?」



「その口ぶりだとノービアも知り合いなのか?」


「まぁね。そっかリィーナに言われたんならなにかあるかもね。ちなみに言うとうちのクラス意外と大物との知り合い多いよ?」



 イツが一歩歩く。そして手を前に出し、詠唱を始めた。


「イツの名で命ずる。ガルハード」



 目には見えない空気の圧力が先生に向かって飛んでいく。先生はそれを相殺するように同じ魔法を同じ魔素量で使う。



「さすがは元優等生。魔力回路が貧弱でなければまだ向こうに居ただろうに」


 クス、クスクスと盗み聞きしていた優等生クラスが静かに笑い始める。水琴はてっきりキレるのではないかと思ったがイツは拳を強く握るだけだった。


「だが先生を狙うというのはいけないな。それに、自分の名前を使わなければ魔素に干渉出来ないのもレベルが低い。能力を隠しているのでなければな。

 次だ。ノルア」



「し、失礼します」

 ノルアは本を開く。それを指でなぞると一言だけ詠唱した。



「ルーフェン・ダグラス」


 人間サイズの槍が形成され、地面に突き刺さる。それは業火を持って燃え上がるが一瞬にして消え去ってしまう。



「古代の魔法か。本を媒体にして使えるのだろうが遅い。かと言って本なしで使ってしまえば劣化してしまい新しい魔法の方が効率がよくなる。

 なぜ、と問いたいところだがお前の勝手だ。好きにしろ」


「すいません……」



 口は悪いが案外ちゃんと授業をしているなと感じる水琴。


「次はヴェート・ノア・ルース」

「はい」



 片眼鏡をつけた青年。黒髪に黄色の目。長い後ろ髪を一本のゴムで留め、長いマントが風に揺られている。まさに貴族と言ったような見た目だが……


 ヴェートは目を閉じる。



「神の怒りは留まることを知らなかった。

 人も、家畜も、すべてを飲み込んだ。

 そして逃げる罪人の背中にいたのは悪魔だった。

 名だたる悪魔は神の怒りに立ちはだかり、その怒りを凍らせた。

 ”フィシア シグベル”」



 詠唱を聞いた先生は慌てふためく。


「ッ! 最上位魔法?!」


 パキッと小さい音だけがなる。先生はすぐさま被害を軽減するための魔法詠唱を始めた。 その心配とは裏腹にヴェートの魔法は足元だけを凍らせた。



「あっ、ダメでした。やっぱり難しいですね。歴史が好きで結構勉強してるんですが英雄譚のようにもしかしたら出来るかもなーと思って試したんですが……

 僕の能力じゃ再現には至らないみたいです」



「ふざけるなっ! そんな魔法実現したらここにいる人間皆氷漬けになるのだぞ!」

「ではノルアと同じルーフェン・ダグラスを」



「いまので適正がないのは分かっただろう……大人しくしていろルース」

「あはは……すいません」



 なんの脈絡もなく、エルスクラスに向かって爆炎が向かっていく。それは生徒全員を巻き込むほどの規模で水琴達を襲った。




 ルークが立ち上がり地面を片足で強く踏んだ。

 エルスクラスを守るように地面が盛り上がり、一つの壁となる。それは波の内側のように水琴達を囲っていた。爆炎は流れ、被害は誰にも及ばなかった。

挿絵(By みてみん)

 優等生クラスの一人が言った。


「わりーわりー……手が滑っちまったよ。よく守れたな。落ちこぼれのくせによ」



 ルークは眼光を鋭くした。


「どういうつもりだよフィードクラス」

「そこにいると邪魔なんだよ落ちこぼれのエルスクラスが」



 相手の青年は先生に頭を叩かれて叱られていた。そしてルークは……授業を退室させられていた。


 地形を変化させたのが問題とのことだ。だがルークは地面を元に戻している。隣のクラスでは怒られたやつが笑われながら良くやったと褒められていた。



「随分なところに送り込んでくれたなリィーナ」

「あのー」


 ヴェートが水琴に話しかける。


「なんだ?」

「悪いんだけど僕に手を貸してくれないか? 腰が抜けちゃって」



「え、結構時間経ってると思うんだけど」

「でも事実立てないから……」


「分かったよ。ほら」


 水琴はヴェートの手を握る。引き寄せるようにヴェートを立ち上がらせたがよろけてしまう。水琴はそれを支えてやった。



 先生は水琴を見て言った。


「お前はたしか……今日から入った生徒だったな。名前は水琴。珍しい名前だ。

 お前は何が出来るんだ」


「なーんにも出来ません」



 隣から爆笑の嵐。それが鳴り止まないまま水琴はノルアとアリス、ノービアの近くに戻った。水琴は気づかなかったがノルアもアリスもノービアも、不機嫌そうな顔をしていた。

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